少女と、小さな虎? (改)
途端に少し体が温かく感じられ、僅かに目線が高くなり背丈も伸びた気がする。
「目線が、少し高くなった気がするわ。でも、鏡が無いから見た目が分からないね……」
「ご主人様、ステータス→基本情報→全体像から確認できます。うにゃん」
「そうなんだ」
矢印をクリック。
基本情報の下に見た目は九歳以下でも通りそうな背の高さで、黒髪の美少女が表示される。
ステータス
→ 基本情報
→ 全体像 ←
名前 花楓院 鈴
性別 女 年齢 十歳
← →
【全体像表示】
↑
← →
↓
確かに幼女ではない? 気がする……たぶん。
幼さがまだ残っていて、遠慮がちに主張している膨らみを持つ、天使のような美少女がいた……。
「何これ、可愛すぎるだろ!」
俺の驚きに、白銀虎が相槌を打つようにすり寄ってくる。
「うにゃん」
全体像表示の隣には、大きく上下左右の十字キーによる矢印がある。
それをクリックする感覚で押すと、表示されている美少女が上下左右立体的に動く。
上下左右に動かすと、サラの羽衣が少し小さい様で白く美しい細く華奢な足が太腿のつけねまで見えていた。
ここで、気になることが一つある。そう――この羽衣の下着である。
まるで下着を着けていないかのように、正面から見ると肌が羽衣から透けている。
そして構造色なのか、角度が変わり揺れるたびに虹色の光沢が輝いて守護している。
更に、上下左右どのような角度にしても不可思議な光で遮られるのだ。
つまり、この羽衣の下着は不明なのである。
某アニメの、駄女神の羽衣のように……。
まあ、自身で捲ってみれば真相にたどり着けるのだけどね!
おっと、話を戻そう。
この世界の女の子って、たぶんここまで太腿見せる服って着ないよな?
「えーと、この羽衣も素敵だけど、他に洋服は無いの?」
「アイテムボックスに、特別な服のセットがあります。うにゃん」
そういえば俺の世界の管理者で、第二級中位管理者……シュミーロ?
確か――女神サラが、ヤロウからプレゼントされた服があるって言っていたよな。
アイテムボックスの中を確認するように、念じると――
「これかな? シュミーロの愛情セットボックス。貴女に愛を込めて……」
「うにゃん」
【シュミーロの愛情セットボックス】
【システム ピピー 使用不可 × 】
【システム 第一級下位管理者より使用可能です】
白銀虎が首をコテっと向けてきて訪ねてきた。
その姿があまりにも可愛すぎて耐えられなくなり、アレルギーも無くなった事でフワフワ動物大好きの制御が外れ思う存分抱きしめた。
フワフワな白銀虎が「うにゃんうにゃん」言っていたが、撫でまわしてお腹に顔を埋めて堪能した後に伝える。
「私の管理権限では使用不可なのだけれど、他に服は無いの?」
考え込む白銀虎が――
「うにゃんうにゃん、うにゃんうにゃん」
と、誰かと話すように呟いていた。
そう思っていると、急に煌びやかな音色が鳴った。
♪~♪~♪~♪♪
なに? この賑やかな音色?
「サラ様にお伺いしたところ、送付メールが来ました。うにゃん」
「え? 今のメール音かいな?」
俺は白銀虎に激しく突っ込みたいのをこらえる。
そして、手渡されたメールに送付された大き目の箱【女神サラの羽衣セット】を開けてみた。
メッセージが入っていたので読んでみると、内容はこうだった……
【メッセージ】
―――――――――――――――――――――――――――――――――
この羽衣セットは、この世界の一般的な羽衣です。
手に取ると、その者のサイズに自動変更されます。
基本的に汚れや傷などは付きません。
でも、気になる場合は――アイテムボックスの、洋服専用修復ボックス。
そこに、収納してくださいね。
入れたあとに取り出すだけで、ほかの服等も綺麗な状態に戻ります。
私が心を込めて選んだものを、数点入れてあります。
自由に使って下さいね。気にいってくれると嬉しいです。
サラより。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
両手を合わせて握り、両膝を折り――天を仰ぎ見て、女神サラに心底感謝した。
「女神サラ様! ちかっぱ感謝ばい!」
俺は立ち上がると――本当に助かるなと、感謝溢れる嬉しい気持ちで早速取り出した……
そして、見た瞬間下に叩きつけた。
「もー、ぐらぐらこいたばい! ふとかとうきびで、女神サラくらすぞ!」
ぽっぷん! 俺の頭の中で、眼鏡をかけた女神サラの女教師バージョンが出てきた。
「ふふ。今回も私の説明が必要なようね」
今度は俺の頭の中で、子供の頃の俺が出てきた。
「先生おねがいしまーす」
「今日は【ぐらぐらこいた】と【くらす】の、少し難しいと思われる方言について教えるわよ」
「はーい」
子供の俺が席に座ると、女教師バージョンの女神サラが説明する。
「【ぐらぐらこいた】とは、【頭にきた】という意味よ。それと【くらす】これは【殴る・叩く】という意味を表すの。ちなみに、【ふとかとうきび】とは【大きな玉蜀黍】のことね。つまり【もー、頭にきたわ。大きな玉蜀黍で、女神サラ殴るよ!】という意味なの。分かったかなー」
「あーい」
「説明は以上よ。また少し難しいと思われる方言が出たら説明するわね」
「はぁーい。先生ありがとーございまーす」
妄想説明劇場を終了し、現実に戻る。
「ご主人様どうされましたか? うにゃん?」
「オホホホホ……いえ、何でも御座いませんわ」
中の服を確認し俺は思わず下に叩きつけた。
折角感謝したのに、裏切られた感じがして頭にきたのだ。
盛大に女神サラを玉蜀黍で頭にツッコミを入れたくなり、方言をはいた。
先ほどまでの、感謝と喜びを返せ! と、女神サラを突っ込みたい心をどうにか抑え込んだ。
いや実際、我慢できずに言葉と態度で突っ込んだけどね。
心配している白銀虎を安心させるため、優しく抱き寄せ撫でて表情を落ち着かせる。
「ふー、さっきのは……只の一人突っ込みです」
「うにゃん?」
中には、いかにも王侯貴族が着る豪華なドレスにアクセサリー等と小物までもが入っていた。
どうやら貴族や王族が着る服は、女神サラの中では一般的な服らしい。
俺が考える一般的な服の基準と、女神サラの考える一般的な服の基準には相違があるようだ。
「これが一般的な服? いや、違うよね!」
「うにゃん?」
俺は、他にまともに着る事が出来そうな服か無いのか必死に探してみた。
そして一番奥に、如何にも紛れてしまった感が漂う布袋に入った一着に気がついた。
中身を確認すると……
「普通の村娘が着そうな服? と靴? これ位しか無いよね?」
でも、生地が何となく普通ではない気がする……
「まぁ、無いよりマシよね?」
他の布袋も無いか手を入れて掻き混ぜ探すが――
王侯貴族が着そうな、煌びやかなドレス。
艶やかなイブニングドレス。
そして、特別な時に着るパーティードレス。
加えて、ヒール、アクセサリーの数々しかない。
布袋の中の――その村娘っぽい服? と靴? を早速着てみた。
女神サラの身体の権能なのか、服の機能なのか? 【着替える】と考えるだけで、一秒もかからずに自動装着される。
なので、そこだけは凄く至便だ。
だけど、美少女の着替えシーンだ。
服を装着と同時に、キラキラのエフェクトが周りを華やかにしてくれる。
所謂、美少女アニメ等の定番シーンだ。
それに美少女がどんな服を着ても、凄く可愛く見えるよね。
妄想といえばそうなんだが、そういうイメージが俺の頭の中だけでながれる。
おっと、重要な事を言い忘れる所でした……
この服は、ちゃんと履いてましたよ。
この服に相応しい綺麗な純白――なので、心配して下さっているお兄様お姉様方御安心下さい。
「どう? 白銀虎。似合います?」
「よくお似合いです。うにゃん」
「白銀虎、ありがとっ」
俺は素直な嬉しい感想を言ってくれた白銀虎を抱きしめ、耳をハムハムしてモフモフを堪能した。
「クゥゥゥゥゥゥー! モフモフ、ハッピィー・フェスティバール」
幼少の頃モフモフ達を抱きしめては、頗る気分が高揚した時に発する言葉が自然と出てきた。
毎日祖父母の自宅に通っては、ワン子とニャン子に抱きついて言っていたなぁー。
本当に、あの頃が懐かしい。
大人になりアレルギーが発症して、動物達と触れあえなくなった時の悲壮感は大きかった……。
でも、今は違う! 思う存分、モフモフ達と触れあえる。本当に、嬉しくなってきた。
ニマニマしながら白銀虎の可愛い瞳を見つめて、満面の笑みを向けた。
※ ◇ ※
【サラティーSIDE】
鈴君の身体を調べれば調べる程、私の能力を持ってしても、再構成する事が困難だと分かってきました。
それを解明する為、私は自室のベットに鈴君の身体を丁重に置いて、調べることにしました。
「これで、良いです」
この部屋は、私と本体の白銀虎しか入ることが不可能な部屋です。
奥にも私が許可した者しか入れない秘密の部屋があります。
ですが秘密の部屋に鈴君の身体を入れてしまうと、本体の白銀虎ともテレパシーで連絡がつかなくなりますからね。
それに私のリンクスキルで鈴君に貸し与えている特別召喚の白銀虎は、分隊のうちの一体ですので、この自室でも連絡がつかなくなるのです。
ですので、自室に籠もる訳にもいきません。
ですが、鈴君の身体気になります。
「……見れば見るほど、お兄様としか思えない姿。魂を映し出した姿も、お兄様そのものでした」
「サラティー様、うにゃん」
私が鈴君の身体の髪を手で触っていると、白銀虎のテレパシーが伝わって来ました。
白銀虎、遠慮せず私の部屋に入れば良いのに。
あの子は、お兄様が創った特別な存在ですからね。
「白銀虎、そちらに行くわね」
テレパシーで白銀虎に言葉を返し、隣の部屋に来てみると白銀虎の分隊から連絡が有ったみたいです。
「サラティー様、白銀虎の分隊からメールが来ているようです。うにゃん」
「白銀虎、ありがとう」
メールを見てみると、シュミーロの愛情セットボックスが使用不可能と記載されていました。
そう言えば、シュミーロが送って来る物は全て権限が付いていましたね。
忘れていたわけではないのですが、私はセットボックスを見ていませんからね。
では、この世界でも人気がある装いを私がアレンジしてお渡ししましょう。
鈴君が困らないよう、色々と機能が付いた洋服専用修復ボックスも付けましょう。
「サラティー様、これを。うにゃん」
平民が着そうな装いが一着入った袋を、白銀虎が渡してきました。
「白銀虎、この袋は?」
この装いは、私の趣味ではありません。
私は、気品がある装いが好みです。
シュミーロが送りつけてくる装いは、どれも私の趣味ではないですし。
「白銀虎の分隊が、戦闘時に必要になると思いますので。うにゃん」
白銀虎の、分隊の装いですか。
それでしたら、問題はありません。
「では、一番下に入れておきますね」
鈴君、喜んでくれるかな。
「はい。うにゃん」
私は鈴君の身体を調べる為に、白銀虎と別れを告げ自室に戻ることにしました。
ですがもっと詳しく調べる為には、秘密の部屋に入るしか方法はありません。
この部屋で、再構成が容易ではない理由が分かれば良いのですが……。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。