商店のおじさん達は気前が良い
そして、まだ日が昇らない朝に涼しい空気を感じつつ俺達は城に向かうことにした。
涼しい空気を感じる為、スノーとアイビーを抱っこして歩く。
「ふゎーふわ、ポカポカー。気持ちいいー」
「リリー、今日は少し肌寒いわね」
「シルクも、スノーとアイビーで温もる?」
「そんなことをしなくても、リリーだったら魔法で自分の周りを暖めれるでしょ?」
「出来るけれど、スノーとアイビーの肌の温もりが一番なの」
スノーとアイビーの温もりを感じていたら、田舎のワン子とニャン子を思いだした。
幼い頃、冬休みに田舎の祖父母の家に泊まりに来ている時の話である。
暖房を点けていない寒い朝、布団の中から外に出られないでいると、布団の中でモゾモゾ動く暖かい物を発見すると決まってニャン子が丸まっているのだ。
そのニャン子を布団の中で抱きしめ温もりで暖を取ってから服を着替えて暖房を点けにいく。その一連の動作が、寒い田舎の朝の過ごし方であった。
外に散歩に行くにしても、ワン子を連れて行き北風が吹いてくるとワン子を抱きしめて暖をとった。まあ、それはワン子の為の散歩とも言うけれどね。
「ワン、ワン【ワオーン、ワン、ワフワフ】クウーン?」
『シルクも今朝、僕の上で【今朝は寒いから、アイビー布団が役に立つわね】とか言っていたよね?』
「それは、私が寝ているといつの間にかアイビーが側にいるからでしょ」
「ワフ? クウーン、ワン、ワオーン」
『違うよ? シルクの寝相が悪いから、いつの間にか僕の上で寝ているの間違いだよ』
俺の胸元と腕の中で繰り広げられる二人を見ていると、本当に仲が良いのが分かる。
そんな二人を見て和んでトコトコと歩いて行くと、綺麗な朝焼けが見えてきた。
朝焼けに照らされていると、少しずつ周りが暖かくなってくるのが分かる。
城に向かう前に途中で冒険者ギルドがあるので、ギルドにも報告をと思い冒険者ギルドに寄る事にした。
歩いていると太陽で暖かくなってきたので、スノーとアイビーを降ろす。
「暖かくなってきたね。スノー、アイビー? 降ろすけれど良いかな?」
「うにゃん」
「ワン」
『はい』
シルクは、俺の胸元から出てきて飛んでいる。
アイビーに最近太ってきたよ。と、指摘された事がかなり気になっているようだ。
暖かくなった今は、アイビーにも乗らず頻りに俺の周りを飛んでいる。
もしかすると、ダイエットに励んでいるのかもしれない。
俺達が歩いていると、早朝から店を出している八百屋のおじさん、果物屋のおじさん、パン工房のおじさん、お肉屋のおじさん達が甲斐甲斐しく準備をしていた。
「お早うございます」
俺が小首を傾けぺこりと挨拶をして、おじさん達の前を通ろうとすると
「お嬢ちゃん、これ持っていきな」
と言って、果物や野菜、それに様々なお肉の塊やパンをくれた。
俺はスノーとアイビーを降ろして、スノーを大型犬位の大きさにしてから八百屋さんから貰った大きな籠を背負わせた。
「スノー、籠を持ってもらったけれど平気?」
「うにゃん」
スノーに籠を持ってもらうと、アイビーも俺の足下で、
「ワン、ワン」
『リリー様、僕も持ちます』
と言った。なので、アイビーにも小さな篭を背負ってもらって荷物をスノーとアイビーにも持ってもった。
「はぅー! スノーとアイビー、愛らしいばい」
「リリー、スノー様とアイビーに籠を背負ってもらっただけでしょ?」
「愛らしい子達が、籠を背負っている。それだけで、価値があるのよ」
うん、良い感じ。スノーとアイビーが、小首を傾けて籠を背負って俺を見据える感じが何とも言えない。
二匹が俺を見て、不思議な表情をしていたけれどペットを飼っている方々なら分かるかもしれない。
ペットショップに行くと、ペット用のリュックが売っている事がある。
ここのは只の籠なのだが、動物が背負っていると不思議と可愛らしいのだ。
そして冒険者ギルドに着く頃――スノーとアイビーの背中の籠と俺の両手には、持ちきれない程の量の様々な食材があった。
俺が冒険者ギルドの扉をお尻で開けると、いつもの呼び鈴が鳴る。
カラーン、カラーン
しかし、食材の山と見間違える程の荷物を持った幼女がお尻で扉を開け、動物達と共に現れたものだから驚いて立ち上がる。
「ん? 食材の山? と幼女と動物?」
強面の冒険者が真っ先に気づき俺達の元に来てくれて、冒険者達に声をかける。
「って、リリーちゃんじゃないか! 大丈夫か? リリーちゃん。俺が、食材持つぞ? おい! お前らも、手伝え!」
「ぐはっ、持ちすぎだろ! リリーちゃん、大丈夫か?」
「ロベリアの嬢ちゃん、リリーちゃんが食材に埋ってるから手伝え!」
「え、何? リリーちゃんどうしたの? ってエェェェェェェ! ギルドマスター! ギルドマスターも手伝って下さい!」
「なんだ? ロベリア騒がしいぞ! って、リリーちゃん何だその馬鹿げた量の食材は? 商店の奴ら可愛いリリーちゃんの、ポイントを稼ごうとしたとしても持たせ過ぎだ」
「ギルドマスター、ロベリアさん、冒険者のお兄さん、お姉さん、皆荷物持てくれてありがとう」
実は……色々な商店の前を歩いていると、おじさん達が朝の用意をしているのだが、俺が笑顔で挨拶をすると様々な食材をくれたのだ。
俺がアイテムボックスに食材を入れようとすると、今度は隣のおじさんが笑顔で挨拶してくる。
なので、俺も挨拶をする。そうすると、食材をくれる。
食材をもらいに歩いていってお礼を伝えると、次の商店のおじさんから声をかけられる。
なので、挨拶をすると食材をくれる……。
アイテムボックスに入れる暇無く声をかけられ、その度にどんどん食材が増えていき【リリーちゃん、いつも可愛いね】と言って後ろを振り向き、声をかけられ右に左にと――そうして、アイテムボックスに入れるタイミングを完全に失ったのだ。
結局、冒険者ギルドに辿り着くまでに凄い量をスノー達と一緒に持つ羽目になった。
いや、途中で気づいてさっさとアイテムボックスに入れろよと言われそうなのだが、スノー達が食材を平気そうに持っているし、その姿が何とも可愛らしいのだ。
その愛らしい姿に心を奪われ、おじさん達に声をかけられるという板挟み……それが商店街を抜けるまで続いたのだ。
沢山貰った食材が有るのでどうしようかと勘考していると、ギルマスがギルドの飲食亭に持ち込んで何か作ったらいいぞと言ってくれた。
ギルマスが飲食亭に行くと、スタッフに断りを入れ厨房を借りてくれた。
なので、スキルを使い高級な食材に変わった、女性冒険者に人気な野菜とお肉のサンドイッチや、男性冒険者に人気のお肉たっぷりサンドイッチに、誰もが好きな人が多いフワフワ卵のサンドイッチ等を沢山作っていった。
更に、各種健康面を考えたタップリ野菜の果物ジュース等を作っていった。
それを、ギルドの飲食スタッフに渡すと結構な値段で冒険者達に提供しだした。
リリーちゃんの、手作りプレミアムご飯と書いて売り出すものだから飲食亭にいつもは出来ない行列が出来て大賑わいだった。
俺達は、その間にギルドマスターの部屋に行き南西の大洞窟の件を伝える事にした。
「ギルドマスター南西の大洞窟の件なんですけど……」
「それがな……全く集まらんのだ。各地で招集依頼をしているのだが、招集まで数か月以上かかる。城に行って今後について話し合うつもりだが見通しはつかないだろう」
昨日門番に伝えたはずが、まだ冒険者ギルドに伝わっていない事に疑問を感じ、ギルドマスターに伝える事にした。
「ギルドマスター、昨日の夕方に西門の歩哨さんには伝えたのですが、私達が一昨日に南西の大洞窟に行った事聞いています?」
「リリーちゃん、俺は一人で絶対に行くなと忠告した筈だぞ」
「でも、興味があったのでスノー達を連れて行っちゃった。アハッ」
「行っちゃった。アハッじゃねえ!」
ギルドマスターは、顔から火が出てる様な勢いで危険性について詳しく語りだし俺を叱った。まあ、俺の事を心配しての事だから仕方がない。
「で、地下何階まで行ったんだ?」
何だかんだ言ってるが、やはりギルドマスターとして興味が有るのか聞いてきた。
「えっと、一昨日に一階から地下三階までのゴブリンやオークの塊と、スケルトンナイトの団体さんとアイアンゴーレムの団体さんを倒して……」
ギルマスは話を遮るように
「おい、何を簡単なお手伝いでもするかの様に言ってるんだ!」
と、言ってきた。
「ギルドマスター、話は最後まで聞いてよね」
「リリーちゃんの強さは知っているが、まさかな……」
「そして、昨日地下四階のオーガゾンビを倒してから地下五階の変異種の巨大ゴーレムを倒しましたよ?」
「そうか……今何て言った? 俺の聞き間違いだろう。もう一度、言ってくれ!」
「えっと、一昨日ゴブリンとオークの……」
「いやそこじゃない! 地下五階の方だ」
「地下五階の変異種の巨大ゴーレムですか?」
「リリーちゃんは、なぜ王国騎士団や俺すら知らない魔物を知っているんだ?」
「倒したからかな?」
「ちょっと待て! 王国騎士団ですら地下四階入り口で、異常に強すぎるオーガゾンビの集団に這う這うの体だったのだぞ!」
俺が倒したと言うが、流石に王国の精鋭騎士団が百名撤退する以外方法が無かった、オーガゾンビの集団等の証拠が欲しいと言ってきた。
なので、一体ずつ証拠のスケルトンナイトの残骸とアイアンゴーレムの残骸をギルドマスターの部屋に出していく。
すると、慌ててギルドマスターが両手を振って俺の前にくる。
「ちょ、ちょっと待てくれ! 頼むからここで出すのは止めてくれ!」
「だって、ギルドマスターが証拠と言ってきたので……」
俺は先ほど出した魔物を収納して、スノー達と共にギルドマスターに連れられ、解体作業場に案内されたので魔物を一体ずつ出していった。
俺がオーガゾンビを出した所でギルドマスターの顔色が変わった。
ロベリアに高ランク冒険者招集の解除依頼を直ぐに申請する様に手続きをして、各地の冒険者ギルドに通知を出した。
「リリーちゃん、い、一体……何体位有るんだ?」
ギルドマスターは、あまりの魔物の討伐量にゴクリと喉をならしていた。
「たぶん、ゴブリンとオークとか元々いた魔物が二万体程で、スケルトンナイトが五千体程で、アイアンゴーレムが三千体程で、オーガゾンビが千五百体程度かな? それに巨大ゴーレムが一体。でも、巨大ゴーレムは大き過ぎてここには出せないですねー。それと、今から城に報告しに行く予定ですよ」
ギルドマスターは頭を抱えて片膝をつき、ロベリアは腰を抜かして招集依頼の撤回の書状を持ったまま座り込んでいた。
俺は魔物を城で見せるのでと、ギルドマスターの断りを入れて一旦収納する。
そして、ロベリアより早く回復したギルドマスターと一緒に外に出てくると、冒険者達や飲食スタッフ達が、リリーちゃんの手作り御飯美味しかったと絶賛していた。
ギルドマスターが、
「リリーちゃんが作った料理の売り上げは、後で冒険者専用の個人口座を作って入れておく。だから、明日以降にギルドに取りにこい」
と、言ってきたのでお任せする事にした。
俺達がギルドを出ようとすると「俺も今から、城に行く」と言ってギルドマスターもついてきた。
なので、ギルドマスターと一緒に城に向かうことにした。
俺達が城の門近くに着くと、歩哨達が俺の前に走ってやって来た。
そして、俺とスノー達が
「どうぞ、こちらに」
と言われ、歩哨達の所を顔パスで通過するのに対し、ギルドマスターだけが歩哨達から入場許可書と事前に連絡はしたかと聞かれていた。
なので、俺が冒険者ギルドのギルドマスターの事を伝えると歩哨達は笑顔でギルドマスターも一緒に通してくれた。
「……リリーちゃん? なぜ、冒険者ギルドのギルドマスターである俺より、城の歩哨達に信頼されているんだ?」
「えっと……幼女だから?」
俺達とギルドマスターは走って来た副騎士団長の案内の元、王の間に案内された。
途中から騎士達がメイド達に追いやられ、代わりにメイド長率いる親衛隊が警護に付いた。
「女神様、こちらです」
「リリーちゃん。メイド長が女神と言っているが気のせいか?」
「気にしないで下さい! たぶん、私の通り名です」
俺は手でメイド長と親衛隊を呼んで、小声でギルドマスターにはまだ女神という事は秘密で伝えていない事を伝えた。
すると、王室の側付きメイドを呼び寄せて、王妃達に伝えて貰った様だ。
「コホンッ! リリーちゃん、この前は有難う」
「いえ、勿体なきお言葉です」
「ホワイトバイオレットの元に早馬で出立した王も、娘が全快したので現在娘と共に城に向かっているわ。明日、ご帰還されるそうよ」
「それでは、ホワイトバイオレット様の為にも、何か美味しい物をご用意しないとですね」
「王子も、リリーちゃんには本当に感謝していたわ。それとね、昨日の夕方にリリーちゃんから報告を受けたでしょ。でも責任があるので、南西の大洞窟に騎士団精鋭部隊の騎馬隊と共に確認しに行っているわ。確認が取れ次第戻って来るから、改めてお礼がしたいそうよ」
「勿体なきお言葉です。王子様にも何か美味しい物をご用意しないといけませんね」
俺と王妃が普通に話している中で、ギルドマスターだけが跪き下を向いてまだ控えていた。
小声で「リリーちゃん、どうなっているんだ? 俺はいつまで控えていたら良いんだ? と聞いてきたので、王妃にこれまでの話を伝えた。
すると王妃は
「ギルドマスターも、面を上げて良いわ。リリーちゃんと話に夢中だったので……」
と言い、俺に笑みを向ける。
王妃様、ギルドマスタ-の方を見てあげて……
「いえ王妃様、お気遣いなく。では……王妃様は、リリーからの報告は信用が有るが、念の為に現場検証も含め、今現在、王子が確認中との事なのですね」
「ギルドマスターの、仰る通りです。それに、リリーちゃんが今日来てくれると報告を受けていたわ」
「なるほど! 理解致しました」
俺は王妃様に証拠となるゴーレムを見せたいが、巨大すぎて出す場所が無いので如何したら良いか聞いた。
すると、明日の夕方に王と王子が帰還予定である為、帰って来た時に城の大訓練場の大広場で王達と共に見たいと仰せられた。
俺達はその申しつけに了承して、明日の夕方に再び来城する事となった。
俺とギルドマスターの話が終わり、俺を残してギルドマスターのみが退室をした。
すると、パープル王女が待ってましたと言わんばかりに俺の前に来て、抱きついて言葉をかけてきた。
「リリーちゃんどうしよう? クッキーは有るのだけれど、親衛隊以外の一部のメイドがフルーツタルトは傷むと思いこんで開封してしまったの。なので、仕方なく皆で分けて食べたのでもう無いわ。怒ると怖い、御姉様に叱られちゃう。どうしよう?」
「明日お城に来るとき、色々と食材を仕入れてから来るから大丈夫。だから、安心してね」
「リリーちゃん、食材は全て、王室の物を使っても構わないわよ」
王妃が城にある食物庫の食材を使っても良いというが、城の者でない俺が何度も頂いていいのか?
少し不安になったリリーであった。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
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シルク「ねえ、リリー? あれだけ商店のおじさん達が、無料で食材くれる
なら飲食亭で料理を提供したら儲かるかもしれないわよ?」
リリー「あれはね、スノーとアイビーが籠を背負っている姿が見たかったから
なの。それに、料理を作ったのは冒険者さん達が運ぶのを手伝って
くれたからですし、商店のおじさん達が気前が良いと言ってもね?」
シルク「そうかな? あの後商店のおじさん達見たら、皆幸せそうだったわ
よ?」
実はリリーは、串焼き屋のおじさんがあの後商売で大成功した事で
商売の女神として奉られていたのだ。
そうとは知らず、暢気に商店街を歩くリリー達一行であった。




