幼女と、小さな虎?
クリックしたつもりで念じると、キラキラと雪の結晶が辺りに舞い降りる。
そして眼前に尻尾の長さも合わせると、体躯が約20mは有ろうかと思うシルエットが現れ花弁を宙に舞い上げた。
その美しい情景に、心を癒やしていると、
ポン!
急に、気の抜ける様な音がした。
すると、シルエットがまるで生まれたての子猫の様なシルエットに変わり神秘的な花の宝物湖に舞い降りた。
不思議に思っていると、神秘的な花の宝物湖の隙間から白銀のフワフワした尻尾がひょこっと現れた。
そして、その尻尾が可愛くヒョコヒョコと動き俺の元に近づいて来た。
「うにゃん」
そして、フワフワしている尻尾の主がその可愛らしい姿を現した。
えっ? 猫? 虎?
小首を傾けてくるその姿が、何とも言えない。
こんなにも心を癒やしてくれる、動物なんて見たことが無い。
見た瞬間、心を奪われた。
「はうー! なにこん子? ちかっぱ愛らしかー!」
そして、思わず実家の方言がでた。
ぽっぷん!
俺の頭の中で、眼鏡をかけた女神サラの女教師バージョンが出てきた。
「私の説明が必要なようね」
今度は俺の頭の中で、子供の頃の俺が出てきた。
「先生おねがいしまーす」
「今日は【ちかっぱ】少し難しいと思われる方言について教えるわよ」
「はーい」
子供の俺が席に座ると、女教師バージョンの女神サラが説明する。
「【ちかっぱ】とは、【とても】という意味よ。でも、よく知られているのは【バリ】が一般的かもね。つまり、なにこん子? ちかっぱ愛らしかー。とは、なにこの子? もの凄く可愛いー。という意味よ。分かったかなー」
「あーい」
「説明は以上よ。また少し難しいと思われる方言が出たら説明するわね」
「はぁーい。先生ありがとーございまーす」
妄想劇場を終了し現実に戻り、補足する。
俺は興奮したり好きな動物の側で気が緩んだりすると、実家の方言が出る傾向がある。
先ほどの妄想劇場で説明したとおり【ちかっぱ】とは――俺が幼少期、頻繁に使用していた最大表現を表す言葉だ。
しかし、俺の方言はハッキリ言うと色々と混ざっている。
言い訳になるかもしれないが――
俺が大学の在学中に一番実感したのだが、大学は多方面地方からの入学者が多い。
そのため、地方の友人が多い場合は――
様々な方言に、晒される事になる。
方言が色々と飛び交うと、よく分からない方言になる。
つまり、周りの友人達が話す方言――
そして、俺の方言がそれぞれに伝染し影響を及ぼす。
似非方言だと思う人もいるだろうが、実際に体験すれば分かるかも知れない。
初の職場も大阪の勤務で、二十歳から約十年間勤めていた事も有って大阪弁も混ざっている。
標準語も無理をして覚えていた事も有ったが、ハッキリ言うと無駄であった。
焦ると、大阪弁や実家の方言が混同して出る。
因みに妹も焦ると、俺の影響で大阪弁が混じることがある。
まあ、そんな方言やスキルの事よりも、目前の物体が気になる。
俺は、スキルを全て終了させ、思わず抱きしめた。
「あっ! ヤバい」
あまりの可愛いフワフワに、己がアレルギー体質である事をどこかに置いてきたのだ。
ヤバッ! と、思ったが既に遅い。
全身にアレルギー反応が――
発症しない?
身体が、むず痒くも鼻もでない?
何ともない。
あれ? 治ったのか?
あれだけ酷かった、アレルギー性鼻炎やアレルギー性結膜炎等が一切発症しない。
「もにゅもにゅ。うにゃん」
モフモフを堪能し思いに耽っていると、モフモフが何か言っているようなので抱きしめる力を緩めた。
「はじめましてご主人様。白銀虎です。うにゃん」
何この子? 可愛い。
しかも話せる。
手触りも良い。
いつまでも抱っこしていたい。
「俺は、花楓院 鈴だ。よろしくな!」
フワフワな白銀虎は、生まれたての子猫の様にとても小さかった。
毛並みは白銀に光沢があり、手触りが最高で肉球は柔らかかった。
白銀虎の小さな顔は、残念そうに溜め息をついたように見えた。
「ご主人様……俺というのは、少しギャップがあります。うにゃん」
「そうか? でも、俺って言い慣れているのだが?」
「私など、お言葉を選ばれた方がいいです。うにゃん」
成る程――この世界では、俺という言葉遣いは変なのか?
世界には様々な言葉や方言がある。
日本語にも方言があり、様々な地方で使われている。
異世界でも同じことが言えるはずだ。
俺は独りで納得していると、フワフワな白銀虎はさらに言葉を続ける。
「お名前も変更された方が、いいと思います。うにゃん」
「へ? 名前も? はて?」
俺は不思議に思いながらも、可愛い子猫はクリクリした双眸を潤ませて顔を近づけた。
可愛いその双眸を覗き込むと――
「ん? ……」
小首を右に倒してみる――小首を左に倒してみる。
そして右手の人差し指と中指を立ててピースを作り、右頬に添えて右でウインク……
可愛い美幼女が映っている――
「あっ! そうか! 身体は、女神サラ様の容姿端麗な幼女姿だったな」
成る程、アレルギーが起こらない理由は身体か。
って言うか俺、白銀虎の双眸を見るまで気づかなかったってどういう事だよ。
俺の両手や装い――それに発する声までもが、今までの自分とは全く異なる。
女神サラの癒やされる声音。
可愛い小さな掌。
この世の物とは思えない美しい装い。
アニメや漫画でよく同じシーンがあったけれど、実際に経験してみると納得した。
一人きりで異世界に飛ばされたら、冷静な判断は不可能であると――。
いやいや――そんな名言じみた事や、一昔前のポーズをとって可愛いと喜んでいる事より、尤大事なことがある。
そう。今は、白銀虎に言われた事の方が大切だ。
確かに容姿端麗な幼女だと、名前と言葉遣いを変更した方が自然だよな……。
いつも職場で「俺」から「私」と普通に話せていた。
そして方言も異常に興奮――
油断しなければ、何とかなっていた筈だ……たぶん。
丁寧に話せば、何とかなるかな?
いや、でも、しかし――
兎に角、言葉遣いも少し女神サラの容姿寄りに近づかせた方が違和感無いよな?
そうだ――
この身体に元々ある権能で、性別と姿は変えられないか?
白銀虎に聞いてみるのも、一つの手だな……
「えーと、私の容姿の変更とか無理なのかな? 例えば性別を女性から男性とか?」
白銀虎が、残念そうに俯く。
「性別は変更不可です。うにゃん」
「そうなんだ……残念ね」
「でも髪や睫毛の色の変更と、年齢を上げる事で、多少容姿なら変更可能です。うにゃん」
良い事を聞いた。
実は俺のストライクゾーンである年齢は、自分の容姿が実年齢よりかなり下――
十代にしか見られない事から低い。
ただ、流石に俺の妹の年齢である十二歳より下ではない――
兄として、そう思っている。
まあ要するに、下は十六歳から上は三十五歳と広いのだ。
女神サラの容姿は、幼女なのに――
この美しさと、可愛さだ。
もし十八歳くらいの成人女性になれるのなら、一度見てみたい。
それに、見た目が幼女では――
流石に常識を考えると、何かと不便なはずだ。
髪色の色や睫毛の色も、日本人らしく黒にしたい。
今はピンクゴールドと言う、俺の世界では存在しなかった色だ。
いるとしたら、アニメの主人公等を模したコスプレイヤーぐらいだろう。
「何歳くらいまでなら、変更可能なの?」
白銀虎は、クリクリした双眸を自信ありげにキラキラさせる。
「今の年齢から最大で五歳上です。うにゃん」
はうー。
クリクリした双眸で、上目遣いの白銀虎可愛いなー。
「って結局、最大でみため九~十歳っちゃ! ほぼ変わってないばい」
俺は思わず故郷の方言が出て、突っ込みを入れた。
白銀虎は俺の方言での突っ込みに、固まっていた。
が、咳払いで誤魔化しそのまま話を進める。
「おほぉん! でも、みため四~五歳の幼い女の子よりマシよね?」
白銀虎の一瞬固まった表情も非常に可愛かった。
「……どうやって変更したらよかと?」
白銀虎は、双眸を大きくさせた表情で説明する。
「ステータス画面を開けると、年齢の近くに矢印があります。うにゃん」
ステータスを開けると→基本情報←と表示される。
その下に、名前 花楓院 鈴
性別 女 年齢 五歳 と表示されており年齢のすぐ下に矢印があった。
更にその下に【オプション】そのすぐ下に+と表示されている。
そして、一番下には、【リセット】 ※年齢及び髪と睫毛色と表記されていた。
「うん。ステータス開けたよ」
「矢印を押していき、上げたい年齢までクリックすると良いです。うにゃん」
「なるほどぉー、クリックする感覚で基本情報が開くのね」
「髪の色の変更は【オプション】→【髪や睫毛の色彩変更】好きな色に変更可能です。うにゃん」
「オプションも+を押す感覚で、開けるのね」
「元の髪の色や年齢に戻す場合は、リセットで元に戻ります。うにゃん」
「なるほどねー」
あれ? 年齢を下げる矢印は押せないぞ。
五歳から十歳までが、変更可能なのか。
では、年齢を上げる矢印をクリックっと。
よし、次は髪の色を変更だな……
俺は【オプション】のすぐ下にある+を押す感覚で開ける。
すると【髪・睫毛の色彩変更】と表示され、すぐ下に+が表示される。
更に+を押す感覚で開けると、様々な色がパレット表示された。
その下には、現在の表示色である、髪色 ピンクゴールド (デフォルト)
――その下に、睫毛色 ピンクゴールド (デフォルト)と表示されている。
一番下には、【リセット】 ※年齢及び髪と睫毛色と表示されていた。
俺は日本人らしく……まあ異世界だが――
黒に変更する為、パレットからブラックを選び変更する。
ポチッとな……
「やったぁ! 白銀虎、黒髪で十歳に変更出来たわ」
「では、その状態で【はい】を選択すると良いです。うにゃん」
ステータス
→ 基本情報 ←
名前 花楓院 鈴
性別 女 年齢 十歳
← →
【オプション】
-【髪・睫毛の色彩変更】
- □□□□□□
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髪色 ブラック
睫毛色 ブラック
【はい】 【いいえ】
【リセット】 ※年齢及び髪と睫毛色
髪と睫毛の変更色表示の下に【はい】と【いいえ】が出現し、点滅表示されている。
なので、俺は【はい】と念じてみた。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。