今日の夕食は久しぶりに……
早馬に乗った騎士を見送り、西門の歩哨達に別れを告げようと空を見ると夕日になっていた。
なので、西門の歩哨に明日改めて城に報告する事を伝えてからスノーに乗って宿屋に戻る事にした。
宿屋の前に着くと、ライムお姉さんが見えたので笑顔で手を振る。
「ライムお姉さん、ただいまー」
俺が声をかけると、なぜかライムお姉さんが少し慌てている。
「お姫様?」
「えっ?」
なんで? あっ! そうか。
今日は姫ロリ服セット(薄紫色)で、しかも髪の色を銀髪にしていた。
確かにこの見た目だと、どこかのお姫様に間違われるかもしれない。
俺を見て、佇まいを正し戸惑った表情でいる。
「うにゃん?」
「……リリーちゃん?」
目線を下げ、スノーが首を傾け「うにゃん?」と言った事でライムお姉さんは気がついたようだ。
確かに女の子……幼女も含め女性は、服装や髪型が少し変わっただけでも雰囲気が代わり別人のように見える。だよね、お兄様方?
いや、お前中身おっさんだろ? というのは、この際無しの方向で……
それに、それは女性に限ったことでは無いのかもしれない。
男性であっても、あるよね。お姉様方?
それと、書き置きで明日になるかもしれないと記載していた記憶がある。
なので、一瞬戸惑うのは仕方がないと思う。
ライムお姉さん、その日の気分で中身がおっさんなのに、服装や髪の色まで変えちゃう情緒不安定な幼女でごめんなさい。
「いえ、なんでもないわ」
ライムお姉さんはそう言うと、表情を柔らかくして
「リリーちゃん、皆、お帰りなさい。リリーちゃん、昨日の夜御飯わざわざ作ってくれてありがとう。凄く美味しかったわ」
と言って、一層笑顔になった。
「お粗末様でした。お口に合って何よりです。あっ! それとね。ライムお姉さん、作り置きしていたパンケーキは足りましたか?」
「勿論、足りたわよ。昨日は朝から、既に二百人の行列ができていたから驚いたわ。即売した後に、侯爵夫人と伯爵夫人の団体のお客様が来たので本当に慌てたけれどね。お断りを入れようかと思ったのだけれど、リリーちゃんが機転をきかせて余分に作ってくれていたのを思い出したの。それでね、侯爵夫人と伯爵夫人にはリリーちゃんが余分に作ってくれていた追加分をお出したの。すると、大層喜ばれてね。リリーちゃん、本当に助かったわ。公爵夫人と伯爵夫人が帰り際に、また来るわねと言って笑顔でお帰りになられていたし。それに今日も大繁盛だったけれど、同じように残りの追加分をお出してどうにか賄えたわ」
予想道理、貴族の団体さんが来たか……しかし、俺が考えていたより想定外の人数が来たようだ。
当初、南西の大洞窟からあと一日は戻って来れらないと思っていたが、早く帰って来ることが出来て本当に良かった。スノーの爆走に、感謝だな。
もし帰って来られなければ、キノットさん達に迷惑をかけていたかもしれない。
朝のパンケーキの対策を勘考しなければならないが、俺、冒険者学校があるんだよね……まあでも、入学できるとは限らないし――ライムお姉さんに相談してみるか。
「ライムお姉さん、大繁盛している所ですが……私、あと数日したら冒険者学校の入学試験を受けるんです。もし、冒険者学校にの試験に合格し入学できて入寮した場合は、パンケーキどうしましょうか?」
入学試験に合格し、入寮した場合――
冒険者学校に事情を話して、授業が始まる前の早朝にキノットさんの食事処に来て、並んでいるお客様を見て判断しパンケーキを作るか?
それとも、冒険者学校の授業が終わってから、キノットさんの食事処に寄って朝のお客様が並んでいた様子を確認し、大凡の量を見積もって前日に作り置き、また今までのように限定にするか?
若しくは、王城のように大量に作り置きするしかないよな? うーん……。
当初の考えとして、キノットさんの食事処は失礼な言い方になってしまうが、高級な料理店ではないので、一部の商人か、お菓子好きな一部の貴族がお忍びで通うだろうと予想を立てていた。
しかし、蓋を開けてみれば……このような事態に。
キノットさん達にとっては、宿屋の宣伝にもなって良い事だろうとは思うけれど、スキルで作っているのは俺な訳で……自身で蒔いた種であるが、想定外な貴族達の行動に俺は頭を悩ませた。
キノットさん達に作り方を教えても、俺の出鱈目なスキルのように同じような味は出せないしな……
「どうしようかしら……でも、リリーちゃん達がいなくなる事の方が寂しいわ」
ライムお姉さんは、本当に嬉しいことを言ってくれる。
初めて会った時もそうだったが、ライムお姉さんは相手の身になって考えてくれる。
以前の俺だったら、人妻であるがきっと好きになっていたと思う。
キノットさんも、そんな所に惹かれて一緒になったのだろう。
「……あっ、ちょっと待って。よく考えたら冒険者学校なら、大丈夫よ。だって、リリーちゃんが作ってくれた大浴場あるでしょ? その裏に大きな空き地が有るのだけど、その空き地を越えた直ぐ先が冒険者学校よ」
「……えっ?」
俺は一瞬、呆気に取られた。
しかし、学校が裏の空き地の側で宿屋から近いなら問題ない。
裏であれば、走ったら直ぐに来られるし少し早起きをすれば問題なくパンケーキが作れる。だって、スキルでちょちょいのちょいだからね。
思考を巡らせていると、お腹が空いてきた気がする。
そう言えば……この世界に来るまでは、これ位の時間にコンビニのお弁当が半額になっており、その半額弁当を夕食として食べていた事が多かった。
朝食は、朝目覚めるといつの間にか来ていた妹が作ってくれていたのだけれどね。
俺の仕事が遅くなり、コンビニの半額弁当が買えなくて、仕方なく自宅にある適当な物で済まそうと帰って来ると、妹が気を利かせてカレーを作って待ってくれていたことを思い出した。
久しぶりに、カレーが食べたいな。
妹が作ってくれたカレーライスの思いに耽っていると――
シルクが、アイビーの上に乗ってバタバタと両手両足を動かして
「リリー、お腹空いたー! お腹空いたー。ねえ、リリー聞いている? お腹空いたー」
と言って騒がしかった。
そして徐に、スノーとアイビーの首から提げたお菓子入れを漁りだした。
アイビーがシルクの服を噛んで、スノーのお菓子入れから引き離そうとしている。
しかし、この様子だとお菓子も直ぐに無くなるので早急にカレーを作った方がよさそうだ。
しかし、主要な材料が一つ足りない。
実は、俺の世界の米と呼べる物に巡り会えていないのだ。
この世界で俺が巡り会った、ライスと呼べるご飯は麦飯である。
なので、麦飯カレーを作る事にした。
麦飯は、キノットさんの食事処でも泊まり客が食べていたのでよく知っている。
食材を購入した時も麦はあった。
妖精王の厨房では、粉として保管してあったのでパンとしてよく食べるのだろう。
今日は異世界に来て、初めてのカレーライスだ。
麦のモチモチとした食感に、カレーが凄く合う。
実は学生の頃、学食でカレーのご飯をお米と麦飯のどちらかを選べる日があり、俺は好んで麦飯にしていたのである。なので、カレー麦ライスは楽しみだ。
俺は早速カレーをスキルで作りだし、キノットさんに寸胴鍋より少し小ぶりな大鍋を二つ借りてカレーを入れ、麦飯を大きなおひつに入れた。
そして、皆に取り分けていきそれぞれに配っていった。
俺が席に着き「いただきます」と言ってカレーライスを食べると、シルクも自身より大きな大皿の前に座り
「これ、美味しい……ゴクゴク、って言うか飲める!」
と言って食べているのをキノット夫妻は見ているが、初め見た目に躊躇しているようだ。
シルクのようにカレーを飲む強者な方もいらっしゃいますが、お米より麦飯は弾力があるのでよく噛んで食べて下さいね。
その様子を見ていたレモンちゃんが、
「アム、ハムハムハム」
と言って、リスの様に口いっぱいにカレーライスを頬張りだした。
ライムお姉さんがその様子を見て、恐る恐るレモンちゃんに
「レモン、茶色いけれど大丈夫?」
と言っていた。
確かに、見た目は茶色いし具材が溶けていたりしているから初めてだと違う物を想像しちゃうよね……田舎を知っている俺なら分かる。
田園で作物を育てる際の肥料に、自身や家族の……食事中につきこれ以上は禁則事項です。
「ゴクンッ。ママー、これ凄く、凄ーく美味しいよー! アムアム、ケホケホ」
「レモン、慌てて食べると噎せるわよ」
ライムお姉さんがお水の入ったコップを渡して、レモンちゃんを注意していた。
しかし、レモンちゃんが慌てて食べるほどカレーライスを頬張っていた事で、二人とも居ても立っても居られなくなったようだ。
キノット夫妻が顔を見合わせてから、ライムお姉さんが一口食べるとスプーンが止まらなくなった。
「モグモグ……うわぁー、本当に凄く美味しいわ! こんなにも贅沢な香辛料をふんだんに使った、美味しい麦御飯シチュー私初めてよ! それに、何だか疲れが取れてくるわ」
ライムお姉さんに釣られるように、キノットさんも頬張りだした。
「これは! 美味すぎるな! 食事処で出したら大繁盛間違いなしだな! うん? 確かに疲れが取れるな。いやー、美味い」
確かにカレーには様々な香辛料がふんだんに使用されおり、漢方に使用される物も含まれている。そのせいもあって、疲れが取れたのだろう。
「これは、カレーライスと言うんですよ。本来はお米を使うのですが、お米が無いので麦飯を使って代用して作りました」
皆、食べる勢いが凄すぎる。そういう俺も、シルクも止まらない。
結局、俺とシルク、キノット夫妻とレモンちゃんで、明日の分まで有ると思っていたカレーの大鍋二つが空になった。
まだまだ作れるが、終わりにしないとシルクは知らないが、キノットさん達はお腹を壊してしまいかねない。
「ゲプッ。これ、美味しすぎ! リリーの料理は、危険よ! 最近お腹の辺りが気になって来たじゃない!」
「ワン、ワオーン。ワン、ワン! クウーン、ワオーン」
『リリー様、美味しいです。シルク食べすぎ! 最近乗せると重いから、運動した方がいいよ』
アイビーがシルクにそう言っていたが、アイビーを見てシルクを見ると、膨らんでいたお腹はもう既にへっこんでいた。
「リリー様、このお肉絶品です。うにゃん」
スノーがオークの肉料理に感想を述べていたので、下の様子を見ると口の周りに付いた肉汁をペロペロしていた。
「お粗末様でした。皆、気に入って頂いてなによりよ」
スノーとアイビーは香辛料が良くないと思い、特製のオーク肉を使った麦リゾットを作ってあげたのだ。
アイビーもオークの肉料理が美味しすぎたのか、スノーと違って顔の周りをベトベトにしていたので拭いてあげた。
二匹とも美味しいと言ってくれたので、お礼にモフモフして撫でた。
因みにキノットさんの家族用に作り置きした夕食があったが、明日食べるとライムお姉さんが言っていた。
蓋をして手を付けていなければ、明日食べても新鮮出来たてなので問題は無いだろう。
食事を終えてシルク達と大浴場に入っていると、ライムお姉さんとレモンちゃんが入って来た。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
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シルク「今日の夕食、色は酷かったけれど凄く美味しかったわ。リリー、カレー
とかいう飲み物今度妖精のお城に帰ったとき作ってね」
リリー「シルク、カレーは飲み物じゃ無くて食べ物よ」
シルク「でも、喉越しも凄く良かったわよ」
リリー「喉越しって、ビールじゃないんだから」
シルク「ビールって、何よ?」
リリー「仕事で疲れたカラダを、中からシュワッと癒やしてくれる大人の
飲み物よ」
シルク「大人の飲み物だったら、私ビールいらない。だって、小さい頃にパパが
隠していた紫の飲み物を飲んで、フラフラして美味しくなくて捨てたの。
それで、代わりに私が美味しい葡萄ジュース入れてあげたら、シルク
ありがとうと言った後に、年代物がーとか言って叫んでパパ泣いて喜んで
いたわ」
リリー「お気の毒に……」
小さくて可愛い娘が、悪気も無く笑顔で美味しい葡萄ジュースにした
よ……とか言われたら、流石に怒れないよね。
今度妖精の村に行ったら、妖精王の為にワインや美味しいお酒をスキル
で作ってあげようと妖精王の心情を理解したリリーであった。




