リリーvs巨大ゴーレム2
「うそでしょ? 木の棒が砕けた……」
俺は即座にスノーに『眷属テレパシー』を行う。
『ねえ、スノー? この巨大ゴーレムって、この世界の勇者や剣聖が来ても倒せるものなの?』
『聖剣を所持する勇者や剣聖でも、このゴーレムの装甲は破壊不可能と判断致します。うにゃん』
うわー、スノーがとんでもない事を言いだした。
確かに、【女神サラの身体】が持つ剣聖の限界を突破したスキル絶剣無双は、木の棒さえこの世界の聖剣同等の力を発揮し取り扱うことが出来る。
つまり、木の棒は強度や聖剣の能力さえも同等の力を有していたと言うわけだ。
にも拘らず、衝撃に耐えきれず粉砕した――という事実。
それは、聖剣が粉砕した事と同等であり聖剣は絶対不滅のものであると信じていた俺からすれば衝撃的だった。
「木の棒……」
俺は上空で、上下を元に戻すように回転し【マウスLV1】を使用して瞬間移動を行い距離を取る。
そして、周りに手に馴染みそうな棒が無いか探すが落ちていない。
初めにファイアーダガーを放ったことで、周りが綺麗に焼却されていたようだ。
先手を、過ったか……
「クッ! 例え、私の大切な相棒が折れようとも――私には、皆の思いが詰まった【心の剣】が有るんだからー」
俺が木の棒の思いに浸って叫んでいると、シルクが遠くで叫ぶ。
「昨日この洞窟でリリーが拾った、只の普通の棒でしょ! 何大切にしていた相棒の武器の様に浸って、格好良いセリフ吐いているのよ!」
シルクの無慈悲な突っ込みが入ったが、俺は怯まない。
右足を失った巨大ゴーレムは、少しだけ動きを緩めるが普通に近づいてきた。
そして、急に俺の眼前で動きを停止させると巨大ゴーレムの目が光りを収束させだした。
何事かと様子を窺いかけたその瞬間、目から凝縮された光が放たれた。
俺は、瞬時にその光を避ける。
ギュイーン! ピカッ! ドゴォォォォォォ!
「あたらなければ、どうって事はない」
「キャー! 衝撃が近くまで来たじゃない」
シルクが遠くで叫んでいた。
そしてスノーとアイビーが地震のような揺れが起きた事で、コテッと転倒していた。
か、可愛い……
「転倒して、コロッとしたスノーとアイビーも愛らしかぁー」
「リリー、バカなこと言ってないで早くあのデカ物を倒しなさいよ」
シルク達までは、かなり距離が離れている筈だ。
しかし、衝撃が近くまで来たらしい。
と言うか、シルク地獄耳だよな……。
いや、そんなことより――あの光りを収束させる巨大ゴーレムの動作、気をつけないと。
光を収束開始した瞬間に、シルク達の所に行った方がいいかもしれない。
早期に、対処した方がよさそうだ。
武器は有るが、ロリコンヤロウの武器が異常性能すぎる気がする。
正直、大洞窟では崩壊の危険性があるので使用は避けたい。
俺は皆の所に戻って来ると、スノーに大きくなってもらった。
そして、シルクとアイビーを乗せて距離を取る様に指示を出す。
「スノー、あのゴーレムの分析と皆の事は頼んだからね。それに、危険が無いようにもっと距離を開けてね」
「うにゃん!」
「ワン! クーン、ワオーン?」
『リリー様! 武器が見つかるまで、僕が相手を翻弄致しましょうか?』
「アイビー、心配してくれてありがと。でもね、攻撃がアイビーに当たったらと思うと怖くて逆に動けなくなるから……」
「リリー、どれだけアイビーに過保護なのよ」
シルクーの過保護という言葉に反応してしまい
「だって仕方が無かやなか。小しゃな愛らしかモフモフが動き回ると、巨大なゴーレムを攻撃しようとするより、和んでモフモフば追いかけとうなってしまうんだもん」
と、少し本音が出てしまった。
「本当に、貴女見た目は良いのに、考え方が変態よ。変態! アイビー、スノー様に乗ってリリーの邪魔にならない様にするわよ。スノー様、乗るわね」
「うにゃん」
シルクに罵られたが、結果的にアイビーを危険から回避させることに成功した。
どうやら先ほどの、凝縮された光の様なレーザー攻撃をした後は、しばらく動きを停止させるようだ。
俺は再び地を蹴って達観しながら近づき、ジャンプして巨大なゴーレムに肉薄。
賢者の魔法で足場を作り、今度は拳を使って左足の付け根に正拳突きを食らわした。
「やぁー!」
ドゴガギィィィィィィン! ボゴォォォォォォ!
辺りに轟音と衝撃波が起こり、巨大なゴーレムの左大腿鼠径部が大きく陥没。
巨大なゴーレムの左大腿鼠径部が歪に変形し、地響きを上げて転倒した。
ゴォォォォォォォォォォォ!
しかし、シルクとアイビーはあまりの轟音に耳を塞いでスノーに顔を埋めていた。
先ほど木の棒で切り裂いた時はそれほどでもなかった音が、拳を使っての攻撃では轟音を上げていた。
スノーは平気そうであるが、音を遮断する魔法を施した方が良いかもしれない。
俺はスノーの元に駆け寄り、シルクとアイビーの状態を確かめる。
「スノー、シルク、アイビー、大丈夫?」
シルクとアイビーは、スノーに蹲ったままだ。
「リリー様、音を軽減する魔法か遮断する魔法をシルクとアイビーにお願い致します。うにゃん」
「スノーは、平気?」
「うにゃん」
俺は魔法でシルクとアイビーに、空気伝搬音遮断と、個体伝搬音遮断を行い、同時にパーティー間スポット伝搬音を構築した。
パーティー間スポット伝搬音は、俺達が会話する場合のみ作動し、空気伝搬音遮断と、個体伝搬音遮断の一部を一時的に解放し糸電話のような音を伝わらせる物を形成させ声を届ける魔法だ。
スノーとは眷属間テレパシーで話せるが、これでシルクとアイビーとも話すことができるだろう。
俺の攻撃は、初め拳鬼を習得していないキメラ戦と比べると、明らかに攻撃力が増していた。
やはり、拳鬼を習得したおかげで基本とも言える攻撃自体が別物なのだろう。
シルクとアイビーを、魔法で回復させた後スノーにシルクとアイビーを任せた。
次は連続して右腕、左腕と素早く移動し、巨大なゴーレムが倒れている間に両腕も変形させた。
ドゴガギィィィィィィン! ボゴォォォォォォ!
シュシュシュ、ドゴガギィィィィィィン! ボゴォォォォォォ!
辺りに異常ともいえる轟音と衝撃波が起こっていたが、これで巨大ゴーレムの動きは完全に封じ込めただろう。
しかし、あの分厚い胸部にコアが有るとして拳鬼の攻撃で破壊する事が可能なのか?
拳で裏まで貫通させる事が可能なのか? 問題は山積みだ。
巨大なゴーレムの胸部は、鼠径部よりも大きい。厚さも、数倍以上はある。
歪に変形した左足と両腕で、ぎこちなく再び立ち上がろうと藻掻く巨大なゴーレムの心臓部に、今度は飛び蹴りを食らわせた。
巨体が吹き飛び心臓部を大きく陥没させ、地響きと共に地面に転がり、地震の様な衝撃が起こるが再び立ち上がろうとする。
ドゴォォォォォォ! ガギィィィィィィン!
ボゴォォォォォォ! ダァァァァァァン!
やはり、拳や蹴りの攻撃では最後まで貫けないか……。
ん? 拳? 拳で貫けないなら――
「ジャンケンでも言うでしょ。グーがダメならパーが有るじゃない!」
パーと言っていたが、実は手刀である。
手刀は本来、骨を折ったり腱等を傷つける為に使われるのだが、俺の早さであれば――
歪に変形しているゴーレムの左大腿鼠径部を狙いジャンプして賢者の魔法で足場を作り手刀を抜き去る。
キィィィィィィン!
甲高い音共に、左大腿鼠径部を1割程切り裂いた。
「くっ!」
やはり、全部の力を乗せ切れていない横から切る手刀では、完全に切り去るのは難しいか……
ピィピィピィピィピィピィ!
奇妙な音と共に、また巨大ゴーレムの目が光りを収束させだした。
また、レーザー攻撃か?
俺は即座に、回避出来るよう巨大ゴーレムの目を見据える。
しかし、巨大ゴーレムの目の収束が治まった――まさか、不発か?
俺は不思議に思いつつ、巨大ゴーレムの様子を窺おうとした。
その時、シルクから【パーティー間スポット伝搬音】の声音が――
【「リリー、今良い?」】
俺はシルクのパーティー間スポット伝搬音に対して『従者間テレパシー』を使った。
『「シルク、どうしたの?」』
【「また、あのゴーレム大きくなったわよ」】
『「えっ? どれくらい?」』
【「そうね、大凡2割増しよ。でもね、まだ大きくなりつつあるわ」】
『「シルク、教えてくれてありがとう」』
どうやら、魔物の同士討ちをさせて倒された魔物を吸収し、自身の体躯を俺との戦闘中に更に大きくさせているようだ。
ワールドマップで確認すると、再リポップなのか、もしくは別のどこかから呼び寄せたのか、スケルトンナイト、アイアンゴーレム、オーガゾンビが地下三階から地下四階に昨日俺が倒した数に近い状態に戻っていた。
その内、地下三階のスケルトンナイトだけが消滅していた。
恐らく、その消滅したスケルトンナイトの分大きくなったのだろう。
大きくなることで、俺の攻撃に耐えようとしているのか?
どのような条件で大きくなるかは不明であるが、もしこのまま大きくなり続けるのであればこの大洞窟を崩壊させ俺が対処できる大きさを超えてしまうかもしれない。
まあ、俺が対処できない大きさも不明ではあるが……。
『「シルク、もし巨大ゴーレムの成長が少しでも増える異変があればその時は教えてね。それで、大きくなる条件が分かるかもしれないから」』
【「リリー、了解よ。巨大ゴーレムに、少しでも異変があれば教えるわね」】
『「うん、シルク頼りにしているわ」』
俺は【マウスLV1】を使用し下に瞬間移動して素早く走り、右に左に走り抜け巨大ゴーレムの足を切り裂いていく。
シッ! シッ! シッ! シッ! シッ! シッ!
やはり、地に着いたまま走り抜けるように切り裂く手刀はジャンプした時に比べ威力が段違いだ。
しかし、主要な部位を攻撃するためにはジャンプして攻撃するしかない? ――いや、ある。
俺が名案を思いついた時、
キュィキュィキュィキュィキュィキュィ! ゴォォォォォォ!
今度は奇妙な音と共に、巨大ゴーレムの前に異質の鉱石で出来た地面より闇の霧を纏った門が現れた。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
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シルク「ねえ、リリー? 両手の親指立てて、何しているの?」
リリー「指圧の練習よ。肩が凝っていそうな、ライムお姉さんにプニプニするの」
シルク「その言い方だと、他のこと連想するわよ」
リリー「お風呂でも、ライムお姉さん辛そうだったよ」
シルク「あれは、あれのせいでしょ」
リリー「あれ?」
シルク「だから、あれよ!」
シルクが、目線を下にさげていた。
リリー「ああー、ちっぱいね」
シルク「五月蠅いわね! リリーもでしょ!」
リリー「指圧する?」
シルク「そんな事で、大きくなるわけがないでしょ。毎日しても、無駄だった
のだから……」
既に、実施済みのシルクであった。




