地下に伸びる異質の階段
成る程、シルクがオーガゾンビ一体相手に、これほど苦戦するのなら第一騎士団が這々の体で撤退するのは分かる。
これほど強力な魔物だと、A級冒険者パーティーでも荷が重いだろう。
地下四階の最奥に行くと、情報とは異なる地下五階に降りる階段らしき物があった。
なぜ、階段らしき物と言うのか。
それは、明らかに今まで地下に降りるまでに無かった材質でできていたからである。
スノーに、鑑定してもらったのだが――やはり、異質の鉱石で出来た階段であった。
「変ね? 確か冒険者ギルドや王子様に地下四階までって聞いたんだけど……階層主の部屋なのかな? でも、ここの隣に中部屋が有るよね? ねえ、シルク? その中部屋、何も居ないよね?」
「そう言えば、そう言っていたわよね。――――。……リリー? さりげなく、背中を押すのはやめなさい」
俺は中部屋に何もいないことが簡易レーダーで分かっていたので、興味津々と中部屋を覗いていたシルクを手伝ってあげる気持ちで、背中を押してあげただけなのだが……シルクから、怒られた。
「もぉー、ホントにリリーは……絶対に今度から、何もいないって分かっていても押すの止めなさいよね。このフェアリードレス最後の一枚なんだから、また濡らしちゃったら困るでしょ」
「え? シルクもう無いの?」
「汚れている、ドレスしかないわよ……」
「じゃー、臭くなる前に私の洋服専用修復ボックスに収納する? 下ろし立ての様に、綺麗になるよ。しかも匂いも綺麗さっぱり」
「リリー、臭い臭い言うなー。私の、芳しい花の薫りのどこがよ!」
「ワン、ワフ、ワフン……」
『シルク、今の服、少し……』
「五月蠅いエロ犬! いちいち、嗅ぎに来るな!」
俺は、シルクが持っていたフェアリードレスを洋服専用修復ボックスに収納し取り出した。
「はい、これで匂いも綺麗さっぱり」
「リリー、恥ずかしいから匂いのこともう言わないで……」
シルクの今着ているフェアリードレスも、真新しくなったフェアリードレスに交換した。
「ワン、ワフワフ」
『シルク、匂いしなくなったよ』
「だから、アイビー嗅ぎに来るな!」
俺はスノーを抱いて「あの二人見ていると楽しいね」と言って和んでいた。
そういえば、地下一階から地下三階までの中部屋の階層主も全ていなかった。
恐らくだが、既に討伐済みでリポップしていなかったのであろう。
そして、この四階の中部屋――階層主が居たはずの場所も、階層主は居なかった。
もしかしたら、巨大なオーガゾンビが階層主さえ倒したのかもしれない。
底の見えない長い長い階段を、手探りで俺達は降りていく。
「ここ、さっきまでの所と違って、暗いね」
この大洞窟の地下四階までは、冒険者が何度も来ているので、光りを灯す松明が自生している光蘚の近くに多量に置いてあったのだ。まあ、それを拝借してここまで来たわけだが……
「そうね、ってリリー? 貴女光りを灯す魔法使えるでしょ。魔法で明るくしなさいよ」
「うん」
すっかりその事を、忘れていた幼女であった。
光りを灯す魔法でかなり下まで見えるようになったので、スノーとアイビーを抱きかかえシルクを胸元にインして、底の見えない長い階段を一気に降りる。
「いやー、キャー! リリー、ダメー! ダメなのー!」
「ねえ、シルク? その叫び方、変よ。私が何か、シルクにしているみたいに聞こえるわ」
「だって、実際にこんなにも長い階段を、もの凄い早さで降りているじゃない」
「スノーとアイビーは、静かよ?」
「スノー様は知らないけれど、アイビーは丸くなって震えているでしょ?」
「アイビー……気持ちが良いよ?」
確かにアイビーは、気持ちが良いマッサージ器のように震えていた。
「リリーの変態じみた趣味は知らないけれど、もう少し考えなさいよね」
俺はシルクとアイビー、それに元気なスノーに、エリクサーレインをかけて回復してあげた。
「うーん、どうしよう? この階段の最下層までは、魔物はいないようだけれど……」
「リリー様、スノーにお乗り下さい。うにゃん。加護も有るのでリリー様が走って降りるより早くそして振動もなく降りることが出来ます。うにゃん」
「そうなんだ。スノー、ありがとっ」
スノーに大きくなってもらい、俺達はスノーに騎乗する。
周りの壁や階段は明らかに異質の鉱石で出来ているので、恐らくスノーの高速移動でさえ耐えるだろう。
それに、今は賢者の魔法のお陰で防壁を張ることが出来る。
ならば、周りを筒状に防壁を張って進めばソニックブームを気にする必要はないのだ。
「スノー、周りに筒状の防壁を張るから安心して走れるからね」
「うにゃん」
スノーが走り出したので、シルクを胸元に入れて
「アイビー……」
俺が言葉を発しようとすると、シルクが首元からピョコッと顔を出す。
「リリー? 何を、しようとしているの? そこの幼女! スカートを触るな!」
またシルクに、アイビーをスカートの中にジャストインするのを止められてしまった。
「モフモフは正義、絶対に諦めないもん」
「リリー、心の声がダダ漏れよ」
不撓不屈の精神でアイビーをスカートにジャストインすると心に誓うリリーであった。
最下層までたどり着いた頃には、アイビーとシルクがぐったりしていたのは言うまでもない。
そして、地下五階にやっとたどり着いたのか?
眼前に、異常に巨大な門があった。
「スノー、乗せてくれてありがとっ」
俺はスノーにお礼を伝え、スノーとアイビーに飲み物を与え、シルクの服を着替えさせてから飲み物を与えた。
「はぁー……リリー、飲み物ありがとう。生き返ったわ。慣れては来たけれど、スノー様早すぎよ」
「うにゃん? リリー様、下り階段でしたのでスピードを落としました。うにゃん」
「あは、ははは……スノー気を遣ってくれてありがとっ」
シルクがスノーに早いと言っていたが、スノーの様子を見ると階段でなければ、まだ早く走れるようだ。
扉を開こうとすると、スノーが俺の側に来る――
『「リリー様、宜しいでしょうか? うにゃん?」』
『「うん。いいわよ?」』
何かと思ったら、スノーが『眷属間テレパシー』をしてきた。
『「リリー様は第一級下位管理者になった事で、澱みの魔石による改変された魔獣等が纏う障壁に対して以前のように近接のみ破壊可能と言うわけではなくなりました。うにゃん」』
『「え? じゃあ、近接しなくても――例えば、魔法や遠距離攻撃をしても障壁を越えてダメージを与えることが出来るの?」』
『「はい、その通りです。うにゃん」』
良いことを聞いた。それなら危険を冒してまで、近接戦闘する必要は無いわけだ。
賢者の魔法や聖女の聖属性魔法が効く相手なら、比較的楽に倒せるかもしれない。
『「スノー、例えばだけど……私が賢者の魔法防壁をアイビーに二十に張った場合は澱み関係の魔獣の攻撃も守れると?」』
『「それは、リリー様の管理者レベルと澱みの魔石の大きさにもよります。うにゃん」』
成る程、大きな澱みの魔石を有する魔獣や魔物程、強さが増して行くと言うことか……
『「分かったわ。あっ! じゃあ、私格闘幼女にならなくても良いのね?」』
『「うにゃん」』
良いことを聞いた。
しかし、眼前には巨大で重厚そうな扉があり、その異質の鉱石で出来ている事を勘考すると、異常な重量が有りそうなのは明白である。
俺は、拳鬼の力で力任せに押し開き中に入ろうとする。
しかし、扉が意外と軽い――指一本で、開閉自由だ。
今ならこの扉の、秘孔を突けそうな気がする。
「シルク、この扉大きい割りに案外と軽いよ? ほら、見てみて! 指一本! 開いたり閉じたりできるよ」
「リリーが、馬鹿力なだけでしょ?」
「ワン、クウーン、クウーン……」
『リリー様、重力を操る僕の能力を駆使しても無理です……』
「この中でリリー様以外、この扉を開閉する事が可能な者は居ないと断言できます。うにゃん」
「――あはっ、あはは。はぁー」
スノーとアイビーにまで否定されたら、もう笑うしかない。
ため息交じりに、俺は指一本で扉を完全に開いて皆で中に入る。
すると、中央に不思議に黒く輝く巨大なゴーレムが鎮座していた。
遠方より、スノーに鑑定してもらうと。
鑑定結果は――体躯 約50m。巨大化した、未知の鉱石でできたゴーレムの変異種。
しかし、それ以外の詳細は一切不明である。
……某有名ロボットアニメの体長かっ! 思わず突っ込みを入れたくなる。
って言うか、デカすぎるよ。ホントに! 小学生の、50m走じゃないんだからね?
女神サラの身体じゃなかったら、小学生低学年女子だと10秒以上かかる距離だぞ!
「ふにゅにゅにゅにゅにゅ」
……我慢していたが、久しい突っ込み所の多い相手に、ひょっこり突っ込みの女神様が降りてきてしまいそうになり、スノーとアイビーの肉球を触り落ち着かせる。
「リリー? 口押さえてモゴモゴさせた後、何でスノー様とアイビーの肉球触っているのよ?」
「シルク、これはね私なりにあのデカ物を分析しているの」
「ふうーん。どうみても、スノー様とアイビーの肉球触りたいだけとしか見えないんですけど……」
シルクはそう言っているが、スノーとアイビーの肉球を触って心を落ち着かせてから分析すると一つ判明したことがある。
それは、この世界に存在しない異質なゴーレムであり、簡易レーダーに示された黒い点。
「ねえスノー? あのゴーレムも弱点は他のゴーレムと同じ魔石に接続されているコアかな?」
「不明です。この世界に存在してはならない、変異種である事は確かです。うにゃん」
「スノー変異種という事は、アイアンゴーレムが巨大化した物で出来ているという事?」
「ゴーレムの弱点と身体の素材を分析中ですが、鉄では無い事は確かです。うにゃん」
アイアンゴーレムの弱点は、胸部のコアだった。
しかし、あのゴーレムの胸部はどの部位よりも分厚い。
通常弱点であるはずのコア部分も、弱点になっていない気がする。
……俺の気のせいか?
ゴーレムが巨大なせいか、部屋も異常に大きく広大だ。
俺にとっては、戦いやすく戦術が汲みやすい。
俺は、パッシブスキルに威力向上の叡知無比をセットし直した。
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【賢者限界突破スキル】
-
全魔法無詠唱威力絶級スキル
- 叡知無比
特殊
-
全賢者・限界突破スキル習得
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そして、念のために俺達を囲うようにして強力な対物理と対魔法の両方を防ぐ防壁魔法を展開し、異常に強力になっているファイアーダガーを唱えることにした。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
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シルク「りり、それにしてもあの階段長かったわね」
リリー「うん。おむすびコロリンしたら大変だったね」
シルク「おむすびコロリンって……普通、あんな階段では食べないわよ」
リリー「でもシルク、口に食べかす付いていたよ?」
シルク「あれはお菓子だから、別腹で食事とは呼べない軽いものよ」
リリー「スノーとアイビーの、お菓子入れの中身全部食べたのに?」
平気な顔をしているシルクを見て、もしや過食の神の加護が
宿っているのではと密かに勘考するリリーであった。




