大浴場1
俺達は、笑顔のギルマス達と別れを告げて冒険者ギルドを後にした。
夕方少し前に宿屋に着くと、キノットさん夫妻が夕食の準備に大忙しだった。
でも、殆ど作り終えているので手伝わなくても良さそうだ。
なので、俺は早速ライムお姉さんに大浴場を裏庭に作って良いか聞いてみた。
するとライムお姉さんは、? を浮かべていたが――
「そうね……裏庭の空き地は、広いだけで何も無いから良いわよ」
と、言われた。
「ライムお姉さん、ありがとっ」
俺はライムお姉さんにお礼を伝え、早速裏庭に出て場所を確認する。
「うん。これだけ広ければ、大きな温泉施設作れそうね」
シルクが、不安そうな顔で俺の側に来る。
「ねえ、リリー? 本当に、こんな所に大浴場とかいう物作るの?」
「作った事は無いから、まだ確信は持てないんだけどね。でも、材料も有るしたぶん作れるはずよ」
そう言って、職が絶級建築士になっているか改めて確認する。
詳細情報
職業 絶級建築士
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なぜ、職を改めて絶級建築士になっているか確認したのか?
それには訳がある。
通常建築は――簡単に言えばであるが、様々な技術職の匠がそれぞれの担当場所の施工を行う事でようやく完成する謂わば技術の塊なのである。
それに、本格的な建築なんて本職でない限り普通はしない。
いや、できないと言った方がいいだろう。
元の世界でも、日曜大工的なことは何度もした――
そう、ワン子達の為に広大なドックランとフラワーガーデンが一緒になった祖父母の庭。
ニャン子達の為にフラワーアレンジメントを所々に鏤めたキャットウォーク件、祖父母の家にある俺の部屋。
簡易的なものは、子供の頃に作った犬小屋だ。
俺は扉を開けただけで、大浴場が崩壊するなんてコント的なことはしたくない。
いや、ここはオチがあった方が番組的に盛り上がるぞ!
えー、待ってくださいよプロデューサー。○時だよ! 全○集○のコントじゃないんですからー……っと、冗談はさておき。
なので、俺は職を絶級建築士にしたのだ。
もしかすると、職が絶級建築士であれば何らかの安全補正がかかるかもしれないと。
まあ分かることだが、あえて先に述べておこう。
そう、杞憂であった。
女神サラの身体と、第一級下位管理者の魂になった俺。その俺が選ぶことが可能な職である。ポンコツな訳がない。……たぶん。いやだって、身体は女神サラのだからね。
ふふっ、至極当然の事だよ君達。って誰と話しているんだ俺は……。
両手の指でくの字を作り、模写をイメージする感覚で広げると、透明な立体の箱が広がる――
その立体を広げた状態で、俺が知っている高級温泉の宿の大浴場と温泉――
数々のパンフレットで確認した、様々な温泉宿の大浴場と休憩所――
それにネットで見た、お洒落な海外の女性が使用するパウダールーム等をイメージすると……目の前にミニチュアの模型ができあがり、大きさ、内部の状態、仕様まで細かく確認することができた。
ミニチュアを拡大すると、中にある様々な施設、消耗品の詳細等が確認できる。
しかも俺が知っている、元いた世界のブランド化粧品のエンブレムまで完璧だった。
他には、リラクゼーションやエステ等を行える大休憩所や個室サロンも……。
勿論、大浴場全ての施設に自動で調節される冷暖房完備、自動消臭機能及び自動清掃機能完備である。
俺は中の状態、仕様を事細かくチェックする――
「これなら、私のイメージ通りね」
納得がいく仕上がりができたので、シルク達を後ろに下がらせ空き地に誰もいないか確認してからスキル名を口にする。
「【【絶級建築創造】】」
俺の目の前に、豪華な元いた世界の高級温泉宿に有るような壁に囲まれた屋根付きの男湯と女湯が有る休憩所と大浴場――それに、外にも上手く周りから見えない様にした露天風呂ができた。
俺は序でに、宿屋の裏口から屋根と壁を作り温泉まで雨が降っても問題ない様に繋げた。
スノーが、俺の側に来て足下に擦り寄る。
「リリー様、お見事です。うにゃん」
「スノー、ありがとう」
驚いていたアイビーが、尻尾を振って側に来る。
「ワオーン、ワン!」
『凄いです、リリー様!』
「アイビーも、ありがとう」
最後にシルクが開いていた口を閉じて、震える声で――
「なっ……何? この巨大な建物……宿屋より、大きいじゃない」
「あははは、ちょっとイメージ膨らみすぎたみたい。テヘッ」
創造した大浴場と温泉施設は、宿屋より大きくなってしまった……でも、空き地が広かったので問題ないよね? でも、今度王妃様に確認しないとな……。
「みんなー、大浴場の中に入って確認するね」
「うにゃん」
「ワン」
『はい」
俺は、心が震えるくらい嬉しい気持ちで大浴場の入り口に立つ。
スノーとアイビーも俺の喜んでいる姿に共感を覚え、新しい建物の匂いに鼻をスンスンさせアイビーに至っては尻尾が千切れんばかりにフリフリしていた。
しかし、独り渋っているものがいる。それは、シルクである。
「リリー、この建物に入るの?」
「シルク、外で待ってる?」
「独りはいやよ!」
これはもしや、俺は試されているのか? ならば……
「じゃー、入りたい人」
「うにゃん」
「ワン」
『はい』
うん、うん。スノーもアイビーも、分かってるじゃない。
スノーとアイビーの返事にシルクが――
「……じゃー、私も」
これは、いける。しかし、スノーとアイビーはこの後のセリフ知らないよね?
なので、俺が独りでシルクに向かって手を差し伸べる。
「どうぞ、どうぞ」
「って、今の何よ。ちょっと、リリー押さないでよ……」
いや、シルク今の言い種は逆効果だよ。
そんなことを言われると、ついつい押したくなるよ。
俺の中にある、ボケと突っ込みがザワつくが……
「シルク、大丈夫!」
俺はシルクの手を引いて中に入る。
すると、シルクの怯えていた震えが止まった。
どうやら、大浴場の前にある大休憩所の豪華な施設に驚いているようだ。
「ね、シルク怖くないでしょ?」
「凄い……」
しかし、今度は俺が戸惑う。
「あれ?」
「リリー、どうしたの?」
「何でもないから、皆次の扉まで進んでね。私は少し外を確認するから……」
「うん。確認済んだらリリーも早く来てね」
「はーい」
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
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シルク「ねえ、リリー? 貴方只のモフモフ好きの幼女じゃなかったの?」
リリー「うーんと……シルク、知ってるよね?」
シルク「何がよ?」
リリー「私が女神だって事」
シルク「あっ……だって、女神の奇跡は何度も見て驚かされたけれど、スノー様やアイビーにしている事の方が変すぎて……」
リリー「ハムハム? モニュモニュ?」
シルク「そのどっちもよ!」
スノーとアイビーに行う、愛情表現のどこが変なのか理解できない
リリーであった。




