授けられた権能
「まず一つ目は【無限アイテムボックス】です。これはどんな大きい物でも無限に容量関係なく、時が止まった状態で思ったものが自由に出し入れする事が可能です」
定番の、アイテムボックス来たー。
誰もが一番欲しい定番の能力と言っても、過言では無いだろう。
俺も権能にこの能力が無ければ、追加をお願いするところだったくらいだ。
「二つ目は【文字言語自動変換】です。今は私が鈴君の言葉に合わせていますが、下界に行くと文字言語が通じなくなります。鈴君が理解する事が出来る世界の文字言語に【鈴君がこの文字言語を知りたい】と思考すると自動で翻訳変換してくれる権能です」
これまた便利な能力来たー。
俺は勉強が苦手な方では無いが、この能力が有るのと無いとの差は歴然だ。
「三つ目は鈴君がこの世界に来た直後、私宛にヤロウがメールを送ってきたのですが……」
ヤロウ? 誰だ? まさか管理者の恋人?
「あっ! ……ヤロウとは鈴君の世界を管理する、第二級中位管理者の事です」
なんだ俺の早とちりか。それにしても俺の世界の管理者か……。
「メールの初めの文には、遂に完成したので是非私にと……」
へー、俺の世界の管理者なかなかやり手か? 上位管理者にプレゼントとは。
「詳細文には私の身体に合う素敵な羽衣【シュミーロの愛情セットボックス】ですと……」
管理者がセットボックスと言った後、何か『ボソボソ』言っている……
『私は怖くて確認していませんが』
何を話されているのか俺には聞き取れないが……まあ、重要ではない内容なのだろう。
それにしても、手作りの洋服か……
上位管理者は、どのような服を着ても似合いそうだな。
「今からこの身体は、しばらく鈴君の身体ですので差し上げますね」
管理者が差し上げますと言った後、また『ボソボソ』言っている……
『私は見たくもないので』
今回も聞き取れないが……まあ、重要ではない内容なのだろう。
って、あっ! そうか……今日から俺の洋服として、使用しても良いのか。
異世界で着る服なんて、俺には何も想像がつかない。
なので、洋服を頂けるのなら本当に嬉しいプレゼントだ。
「四つ目……これは身体の権能ではなく、管理者の魂に近くなった鈴君の魂に、私が鈴君の権能として別のスキルを宿らせようと考えた時に、突如貴方が持参した器具が反応し自然とスキル化した鈴君だけの異世界スキルです」
俺の器具が反応?
「【スキル マウス&キーボード】と言います。この世界に無い特殊スキルなので使用方法は不明です」
成る程、俺がいつも寝落ちして枕にしているあれか……。
「五つ目は【ワールドマップ】です。これは地図検索や索敵機能等が至便に使えます」
おっ、これまた定番中の定番来たー。
地図が有るか無いかで、初めて行く場所も迷い難くなるから本当に助かる。
「六つ目は鈴君のサポートを色々としてくれる私のリンクスキルです。私の管理者権限による【特別召喚の白銀虎】です。この子は通常の四聖獣と呼ばれる……聖獣とは毛触りも能力も違います。けっ、決して白虎じゃないんだからね! ケホケホ……」
管理者が、ちょっと蒸せた。
「コホン! 鈴君の魂が正式に管理者権限を授かり、且つ鈴君の身体を鈴君にお返しする前に、私と鈴君に通じる為のサポートペットのような物です。分からない事などがあればこの子に色々と聞いて下さいね。権能は以上です」
権能を伝えるたびに小さな掌の指を一つずつ折り曲げながら説明していく様は、何とも可愛らしかった。
抱きしめたくなる衝動を抑えるのを、何度も必死にこらえていた俺よく耐えた。
そう言えば俺の妹も、今の管理者の様な仕草や表情を浮かべていることが多かったのも、耐えられた要因なのかも知れない。
最後は拘りが有るようで白銀虎の説明でむせていたが……
まあ可愛い管理者だから、何を言っても全て許せるけどね。
「第一級上位管理者様、色々お心遣い感謝致します」
俺は上位管理者に笑顔でお礼を伝えた。
すると管理者の頬と耳が薄紅色に染まり、含羞の色を浮かべていた。
管理者は、本当に俺の妹と相通じるものが多い。
もしかしたら、管理者にも俺みたいに兄妹がいるのかもしれない。
揣摩臆測だが、最上位管理者あたりが兄だろう。
姉であれば、俺に対する仕草や表情が説明できないからだ。
恐らく、俺が管理者に妹を重ねた様に、管理者も俺に兄を重ねたのだろう。
おっと、忘れる所だった。異世界の地に立つ前に――【この世界の事】を確認しないとな。
それに、もう一度名前を――まあ、名前は覚えているが長いから出来れば短縮してほしいのだ。
「第一級上位管理者様、大変失礼と存じますが、お名前が長すぎて正式なお名前を忘れてしまいました申し訳ありません。できればバカな俺でも分かる様に、お名前を短くして頂けませんか?」
「私の名は、サラティー・L・ホワイト・M・ライラックです。
下位の管理者の方々には、よく第一級上位様やライラック様と言われます」
うん、何度訊いても、やっぱり凄く綺麗な名前だ。
管理者は、含羞む表情の後に笑顔を向ける。
「でも、鈴君には他の者とは違う称呼をして欲しいです。そうですね、ではサラティー……いいえ【サラ】と称呼して頂いても構いません」
女神サラは少し頬を赤らめて、嬉しそうにそう言った。
「有り難うこざいます。では、女神サラ様と称呼致しますね」
俺が女神サラの名を称呼すると、女神サラの頬と耳が薄紅色から朱色になった。
「それと、もう一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ふぁい。どうじょ」
女神サラの返事が、噛み噛みだ……
もしかして、サラと呼ばれることに慣れてなくて照れたのかも知れない。
恥ずかしいなら、サラと呼ばせなくてもいいのに……。
でも女神らしからぬ表情が可愛いので、無問題。
女神サラが少しの間後ろを振り向き、表情を元に戻そうとしている――うん。俺はお兄ちゃんだから、それくらい待てる。だから、安心してください。
「鈴君、失礼しました。続をどうぞ……」
「こちらの世界は、俺がいた世界と違いなどはございますか? もしよければ、簡単で結構ですので教えて頂けないでしょうか?」
女神サラは人差し指をプニッとした頬にあてつつ、小首をコテっとさせて少し考える……。
本当に女神サラは、美しくそして可愛い。
何をしても、全てのちょっとした仕草が可愛いのだ。
暫くした後、女神サラは語りだす。
「簡単に言えば……私の管理する世界は鈴君がいた時代より少し古い時代の文明です」
成る程……古い文明か。
古い文明は様々とあるが――まあ、行ってからのお楽しみかな?
「それに、一部の者が魔法やスキルを使用可能です。大まかに説明すると――一部の種族、一部の職種等により、様々な魔法、スキル等が使用可能です」
おおー、魔法とスキルかー。ロールプレイングゲーム好きにはたまらない世界だな。
「そして、様々な人種、魔人や魔獣、魔物などがいます」
これまた異世界の定番だ。
エルフやドワーフ、俺が居た世界に居ない人種に逢えるのは、今から凄く楽しみだ。
「成る程……俺の世界で言うと、ゲームのような世界って事なのかな?」
俺は自分で納得するように呟き、ゲーム等にある世界観に思考を働かせていると――
「詳しくは私がオマケで付けた、私のリンクスキル――鈴君だけに授けた、特別召喚の白銀虎を呼び出して色々と訊いてみてください」
と管理者は語った。
「あっ、はい!」
女神サラが最後は説明が面倒くさくなったのか、白銀虎に丸投げしてきたので俺も頷いて返事をした。
「それと、鈴君の身体が出来たら――こちらから白銀虎を通して連絡いたしますので、それまではこの世界を自由に楽しんでください」
「はい、有り難うございます。女神サラ様」
女神サラは、右手を高々と上げて淡い光を纏わせ――幼いながらも美しくプニプニの頬で微笑み、手を俺に向けたと思うと眩い光が俺を包み込んだ。
「私の世界へようこそ! 鈴君の魂は、私の身体に宿った状態で、私が二千年ほど前に舞い降りた大森林で目覚めます」
そして一言――
「行ってらっしゃい」
『何あの子? ちょっと可愛すぎなんですけどー』
と、呟きたい事を我慢し――俺は「行ってきます」と言った。
すると目映い光がよりいっそう激しさを増し、俺を包み込んだ――
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