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朝の限定デザート2

 やっと一名の少し上品な商人風の客が注文し、食べ終り料金を払い終えると急に血相を変えて外に走って行った。

 一瞬、食い逃げかと思った。だって、あんなにも必死な形相で走って行くんだもん。


 俺は、胸中でホッと胸を撫で下ろした。

 暫くすると豪華な衣装を纏う大商人らしき人が訪れ、同様に一皿パンケーキを注文し食べ終えると厨房のキノットさんに詰め寄った。



「このパンケーキを作ったのは、貴方か?」

「いえ……」



 キノットさんが困った顔をしていたので、俺が前に出る。



「えっと、私が料理致しました。お客様、何か御座いましたでしょうか?」

「は? 幼女……」



 大商人の目が点になっていた。

 いや、確かに幼女だけどね。

 しかし、このデップリしたお腹から見下ろすおじさんには言われたくない。



「いや私が言っているのは、この素晴らしい特別なお菓子を作った料理人の事だよ。小さな、お嬢ちゃん?」



 脂ギッシュな額に汗をかき、唾を飛ばしつつもの申す様は、如何にも不快に感じられる。

 もしも、近くに可愛いモフモフな子がいれば耐えられるのだが……



「ですので、お客様。そのデザートを作ったのはパティシエである私です」

「デザート? パティシエ? なんだその奇っ怪な言葉は……」



 あっ! そうか。

 田舎の祖父母に、横文字の言葉で話をしても通じなかったあの時と同じか……

 デザートやパティシエと言っても、意味不明なわけだ。

 俺がいた世界でも言えることだが――現在では一般的である横文字の言葉も、一昔前の通信関係が普及していなかった時代では一般的ではなかった。

 この世界は、まだ通信関係が整っていない数代前の秘境とも呼べる田舎と同じなのかもしれない。

 少し反省だな……



「えっと、そのお菓子を作ったのは私です……」

「なっ、なんだと? ……申し訳ありませんお嬢様。貴女と交渉がしたいのですが」



 急に、大商人の態度が様変わりした。恐らく、俺の装いが普通ではないからだろう。

 確かにロリ服ではあるが、生地や繊細なフリルはどう見ても一般的な服には見えない。

 寧ろ、どこかの高貴な貴族に見えたのかもしれない。



「お客様、交渉とは?」

「レシピを……。いえ、レシピは秘伝なのは重々承知致しております。ですので、残り全てのパンケーキを言い値で買い取りさせて頂けないでしょうか?」

「お客様。パンケーキは、お一人様一皿限定です。申し訳ありません」



 大商人が、そこを何とかといって俺に詰め寄ってきた。

 キノットさんが俺を守るように前に出てくれたが、その大商人の大きな身体(カラダ)と圧力に気後れしてしまう。

 しかし俺は、【お客様お一人様一皿限定】をこの国にある宿屋の名物として浸透するまではまだ変えたくない。


 いや、後数日で冒険者学校の試験が有るのでこの宿に寝泊まりするかは不明なのだけどね。

 恩返し的な意味も有るし、冒険者学校が近くにあれば毎日朝作りに来ても問題ないし。

 俺のスキルで作れば、食べるまでは適温で食べれるからね。

 つまり、作りたてってこと。


 そう言えば王様達に渡したフルーツタルトや果汁シュースも、アイテムボックスから出してテーブルの上に置いてたけれど、手を付けずに皿などで蓋をしていたり、飲み物の蓋を開けなければ新鮮だった。

 急いで食べる必要なかったかも……。今度、教えてあげなくちゃ。

 俺は大商人と交渉しながら、しつこい大商人の交渉に嫌気がさし別の事を考えてるいると大商人に腕を捕まれた。



「ひゃっ! 腕を掴まないで、下さい」

「お嬢さん、私が言っている事をちゃんと訊いて下さっているのか?」



 俺が明後日の方向を向いていたせいか、大商人の鼻息が荒かった。



「ハァー、ハァー、ハァー……」



 俺は心の中で『おじちゃん、息くちゃい』と訴えかけるように――捕まれている左手とは逆の手で鼻を摘まんだ。

 すると、外から騎士達が数名入ってきて俺と大商人のやり取りを見て大商人を睨む。



「何か、もめごとか?」

「いえ……」



 睨まれた大商人は掴んだ手を離し、少し後ろに下がった。

 騎士達の後方から、他の騎士とは明らかに違う上位の騎士服を纏った男が大商人に声をかける。



「何も無いなら、私に席を譲ってもらえるか?」

「あっ、はい……」



 大商人は席から離れると、料金を払いつつ俺達の様子を窺っているようだ、

 上位の騎士服を纏った男が、一瞬大商人を睨んだあと席について俺に微笑む。



「リリーちゃんお早う。腕、大丈夫か?」

「騎士団総長さん、お早うございます。大丈夫です」

「少女の悲鳴が聞こえて、中に入ってみたが……」



 まだ、帰ろうとしない大商人に睨み――



「まあ結果的に、リリーちゃんを探す手間が省けたが……」

「私を探していたんですか?」

「ああ」



 実は昨日メイド長率いる親衛隊達に案内され、王城を出る時に偶然騎士団総長と出会ったのだ。

 騎士団総長は、メイド長率いるメイド親衛隊のあまりの物々しさに声をかけてきた。



「メイド長、なぜ城にいるほとんどのメイド達が集結して、何かを取り囲む様に歩いているのだ?」

「これはこれは、騎士団総長。女神リリー様を、城門までお送りしているところです」

「女神リリー様?」

「はい。ここでは、我々女神リリー様親衛隊がお守りを承っております」

「いや、城にいる者の保護と護衛。それは、騎士団の努めの筈だが?」

「いえ、女神リリー様のとても可愛らしいお姿……それが護衛者にとっても、とても危険なのです」

「何を言っている? メイド長の言っている意味が分からん。それに、私は何ともないぞ」

「え?」



 騎士団総長は、俺の前まで来て跪いた。



「女神リリー様、ご機嫌麗しゅう御座います」



 俺は騎士団総長に礼をしてから、メイド長さん達にこれ以上煩わせたくなかったので断りを入れる。



「メイド長さん、メイドの皆さん、お見送りご苦労様です。お仕事も他にあるでしょうし、ここからは騎士団総長さんに城門入り口まで送って頂きますので……」

「え? 女神リリー様?」



 メイド長の動揺に、他のメイド達も動揺する。



「「「女神リリー様?」」」



 俺が苦笑いしていると、騎士団総長が口添えをしてくれる。



「女神リリー様が困っているだろ。メイド長、それにお前たちも持ち場に戻りなさい」

「そうですよ。貴女達にはお仕事があるのですから、ここからは私と総長に任せなさい」

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

シルク「リリー、貴女よそ見して腕を捕まれたそうね」

リリー「そうなの。痛くなかったけれど、急に捕まれたから驚いちゃって」

シルク「確かにリリーは、話をしている最中にスノー様やアイビーの耳を甘噛みしたり、肉球触ったりするよね?」

リリー「……えっ?」

シルク「リリー、聞きたいけれど……スノー様とアイビーを、どこに押し込んでるのよ変態幼女!」

リリー「スノォォォォォォ、アイビィィィィィィ、ジャストォー・イーン! ダブル、ハピネス・ターン」

    開き直った変態幼女……もとい、リリーであった。

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