朝の限定デザート1
そういえば、今日はお城に行く予定だ。色々な服に、この美しい容姿!
髪の色も変更できるから、今日は鮮やかな赤い色の服に負けない金髪にするのも悪くはないか。
俺は髪の色を、美しく輝いている金髪にしてみた。
「うん、金髪美幼女の完成よ」
俺は宿屋の裏庭にある水場から、宿屋の中に入る。
すると忙しそうにキノットさん夫妻が、泊り客と朝早くに来店する特定の常連客の為に厨房で朝食を作っていた。
「キノットさん、お早うございます」
「リリーちゃん、おはよう」
「お忙しそうなので、お食事のお手伝いをしましょうか?」
「いや、流石にお客様に手伝ってもらうのはな……」
キノットさんは厨房で甲斐甲斐しく料理を作りながらも、しっかりと俺の話を聞いてくれているようだ。
隣でもライムお姉さんが、キノットさんと一緒に料理をしている。
……ライムお姉さん、朝お忙しいのに魅惑の着ぐるみのせいで手間取らせてごめんね。
俺は心の中で、ライムお姉さんに謝った。
それにしても、来店客用の朝食が多い。
何か他に価値がある商品……例えば目新しい物として、デザートを出せば売り上げアップに繋がるのではないだろうか?
そうすれば、この宿の付加価値が上がり貧しい経営状態を改善できるのではないだろうか?
宿探しに困っていた俺を、快く受け入れてくれた宿屋だしね。
俺がそんなことを勘考していると――ライムお姉さんが忙しい中、俺に笑顔を向けてきた。
「そうよ、リリーちゃんはお客様なんだもん。って、エェェェェェェー!」
叫び声のような驚きの声音に、キノットさんはライムお姉さんの顔を見る。
「ライム、どうしたんだ? そんな顔をして」
「リリーちゃんの髪が……」
「何言ってるって、エッ、エェェェェェェー!」
ライムお姉さんの指摘に、キノットさんも俺の顔を見た瞬間に驚愕した。
え? もしかして、顔に何か付いているのかな?
俺は全体像を呼び出して、確認する……ん?
そして徐に、ギミック表示をクリックしてレッツダンシング――
ダンスと言っても、俺が学んだダンスで一番印象に残っているのは幼稚園の頃お遊戯で踊った【猫さんダンス】だ。
なぜそんなにも昔のダンスを覚えているかというと、親父がビデオカメラで撮って押し入れの奥にしまっていた物を――妹がいつの間にか出してきて編集して、更にブルーレイにまでして俺のマンションでよく見るのだ。
恥ずかしさのあまり妹が帰った後に押し入れにしまい込んでも、また持ってきてわざわざ俺のマンションに来て見るのだ。
まあ、そんなわけで踊りを嫌でも今更ながら憶えているというわけだ。
このギミックはそんな俺の記憶を忠実に再現して、踊っている。
しかも、このギミックに連動して女神サラの身体に入っている俺自身さえも忠実に踊ることができる機能も付いていた。
恐らく、女神サラが挨拶や感情表現の見本として、このギミックに入力した際に使用していたのであろう。
そのギミック通りの踊りを、俺が踊り終え気がついた。
髪の色を金色にしたことに――いや、遅いよって突っ込まれそうだが……許して下さい。
そしてこの踊り【猫さんダンス】は、猫ではないが可愛さは猫にも引けを取らないスノーの名前を一部貰い受け【スノー・ダンス】と名付けた。
実は、久しぶりに全体像表示を確認するとギミックの表示に新しく説明があったのだ。
笑う・踊る・背伸びをする等々、そのギミック表示の通り身体を動かせると……新しい機能があれば、ついつい使用したくなるよね。
「あっ、言い忘れていました。私、装いに合わせて髪の色を変えてみたんです。如何ですか?」
俺はキノットさん達の前で、ヒラリと回って見せた。
「あっ、ああ。リリーちゃん凄く可愛いぞ。今の踊りも、凄く可愛いいな。いや、そんなことよりも、その髪どうやって……」
「乙女の秘密ですよっ」
そう言って俺は、キノットさんにウインクをして誤魔化した。
「リリーちゃん似合っているし、踊りも凄く可愛かったわ。でも、私もその髪色の事、知りたいのだけど……」
「クスッ、ひ・み・つですよ。ライムお姉ーさん」
俺はクルッと横に一回転して、口に人差し指を添える。
そして満面の笑顔で、キノットさん達の質問を華麗にスルーした。
この世界の人々は、なぜか一昔前の仕草や言葉を使うと反応が良いのだ。
そう、澱みの魔獣キメラでさえ一昔前の挑発が効果的だった事からも証明される……かも知れない。
いや実際、検証実験を何度も何度も、繰り返し行っている訳ではないので断定はできないのだ。
なので、俺は誤魔化すために、更に話題を朝食に変更する。
「そんな事よりキノットさん、お食事を作らないとね。それに私が作ると時間もかかりませんし、人数分だけ作るので数秒で終わりますよ?」
「うーん。本当に有難い話だが、リリーちゃんの料理は旨すぎるからなー。今設定している値段では、はっきり言って採算が合わない。それに昨日味わった料理を出したら、調味料などが高額で貴族ですら躊躇する豪華な料理になる。リリーちゃんだって、採算が合わないだろ? それに、毎回作って貰う訳にはいかないからね」
昨日からお世話になっている宿屋だが、冒険者学校に通うまではまだ日にちがある。
それに、昨日のキノットさん達家族の暖かそうな雰囲気から良い人達だと言うことは間違いないだろう。
これから数日間お世話になる宿屋であるし、何か手伝ってあげたい気持ちが凄くある。
なので、俺はキノットさんにいつもの朝の食事ではなく朝限定デザートを提案してみることにした。
「では、朝限定お試しデザートとして――えっと、いつもの朝の食事とは別に……別料金でという意味合いなのですが、パンケーキは如何ですか?」
「デザート? パンケーキ? ……リリーちゃん、それはいったい何だい?」
この世界で、デザートというのは一般庶民にとっては一般的ではないのだろう。
恐らく、貴族など上流階級の人達にのみ知られているお菓子である。
であるならば――実際キノットさん家族に、デザートとしてパンケーキを『ご賞味して頂ければ』一番手っ取り早い。
……貴族の事を思い浮かべると、考えている言葉まで貴族寄りになってしまった。
要するに『食えば』分かる。と言うことだ。
俺は宿屋の具材庫から食材を頂いてパンケーキをスキルで作り出しながら、
「パンケーキ食べたい。パンケーキ食べたい。パンケーキ食べたい。レッツ、ダンシング」
と口ずさみ、お尻をフリフリさせながら一口ずつ小分けにしてお皿にのせる。
そしてそれぞれに、蜂蜜、生クリーム、イチゴジャム、ブルーベリージャム、バター等、簡単な物を作りだしその上に乗せてみた。
手際のよさに驚いているキノットさん夫妻だが、実際は食材をアイテムボックスから取り出すと共にスキルで料理を作り出しているだけである。
難しい料理の工程を知っている俺からすれば、幼女が可愛い声音で歌って踊りながらお飯事をしている風にしか見えない。
厨房内にあるテーブルにパンケーキを置いていくと、娘のレモンちゃんがキノットさん達の手伝にやって来た。
俺はキノットさん達に少し上品な姿勢でカーテシーを行い、
「どうぞ、ご賞味下さい」
と言うと、キノットさん夫妻は少し戸惑っていたが娘のレモンちゃんは、
「リリーちゃん、いいのー?」
と言って食べると、瞬く間に自身の分を食べ尽くした。
キノットさん夫妻もレモンちゃんと同じく口にすると一瞬で食べ尽くした。
なので仕方なく、もう一度今度は巨大サイズのパンケーキを作り出し大皿に全てのトッピングを美しくデコレーションして、テーブルに置くと待ってましたと言わんばかりに食べ出した。
蕩けるような顔のライムお姉さんとレモンちゃんが、無言で一心不乱にパンケーキを食べていたのでキノットさんに感想を聞いてみた。
「キノットさん、如何です?」
「こっ、これは貴族の食べ物なのか? 食べた事が無い、美味さだぞ!」
「パープル姫から聞いたのですけど、蜂蜜などの甘味料は貴重らしいですね」
「パープル・パンジー・フォレストムーン王女殿下の事か?」
「はい」
「リリーちゃん、まさか王族なのか?」
「違いますよ、ただの普通の幼女です」
キノット夫妻がお互いの顔を見てから、吹き出すように笑顔になり俺を撫でてきた。
ライムお姉さんが俺を膝の上に乗せて椅子に座ったので、キノットさんに説明を再開した。
「キノットさん、このお皿……ではなくて、もう少し小さなお皿一皿に二枚のパンケーキとたっぷりの蜂蜜とジャムを一杯乗せるので、銀貨一枚でご提供されるのは如何ですか?」
キノットさん達の前にあるお皿は――
一口サイズのお皿では、玩味する余裕もなく瞬く隙もない勢いで食べ尽していた。
なので、思わず特別に大きなお皿にしたのだ。
そのため、小さくと訂正した訳だ。
「うーん……」
ここに来るお客様は、安い食事を食べに来るお客様が大半だ。
しかし中には、忙しいさなか早い時間からリーズナブルにもかかわらず美味しい料理を提供してくれる宿屋の朝食を目当てに食べに来る商人もいる。
稼いでいる商人ほど、食事代をできるだけ抑える傾向があるからだ。
その証拠に、商人らしい人達が宿屋の朝食を待っているのをチラホラ確認できる。
やり手の商人のお眼鏡に適えば、この宿の評判が今以上に上がるかもしれない。
新商品に手を出す事は、一種の賭けではあるが……
「百皿分用意しますので。それに、物珍しさで百皿限定で出すと、直ぐに売れるかもしれませんよ?」
キノットさんは、初め迷っていたように考え込んでいたが――
「そうだな、物は試しだ。それに、リリーちゃんのこの美味しいパンケーキが、売れないはずはない」
と、快く俺の申しでを受け入れてくれた。
キノットさんの了承を貰ったので、俺が提案した別料金で【特別なお菓子、百皿限定。お一人様、一皿限り】と書いてメニューに記載した。
キノットさんの宿屋の食事処は、通常宿屋の人の予約である為一部の常連客(早朝のみ来る商人らしき人々)以外はあまり知られていない。
開店後、チラホラ商人風の常連客がやって来たが誰も注文しない。
まあ、初めての事だし値段も高額だから仕方が無いだろう。
やっと一名の少し上品な商人風の客が注文し、食べ終り料金を払い終えると急に血相を変えて外に走って行った。
一瞬、食い逃げかと思った。だって、あんなにも必死な形相で走って行くんだもん。
俺は、胸中でホッと胸を撫で下ろした。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
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シルク「ねえ、リリー? あの踊り……」
リリー「シルクも、踊ってみたいの?」
シルク「別に、踊りたいって程じゃないけれど……美少女の私が、リリーと一緒に踊れば可愛さが増すよね?」
リリー「じゃあ今度スノーとアイビーも一緒に交えて、ユニット組みましょうか」
シルク「スノー様は女の子だから良いけれど、アイビーは男の子だからいらないわ」
リリー「なしてー? アイビーも、一緒に踊れば愛らしいばい。そして皆で、モフモフアイドルシスターズって名乗って踊るの……」
シルク「だから、アイビーは男のだって言ってるのに……」
リリーの頭は、モフモフな子が絡むとモフモフバカになると熟々思うシルクであった。




