妖精と幼狼との出会い
大量の落ち葉や砂埃が光に照らされ、舞い落ちる――
この情景も、女神の住まう大森林だからなのか?
落ち葉や砂埃と光が幻想的な舞を舞うかのように、演出してくれる。
恐らく女神の住まう大森林だけあって、落ち葉や砂埃にも精霊が宿っているのだろう。
砂埃が少しずつ消えて、辺りが見えるようになってきた。
落ち葉の上で尻もちをつき幻想的な情景に浸っていた俺は、抱っこしていた筈のスノーがいないことに気がついた。
隣を見ると、スノーは落ち葉の上に普通に立っている。
どうやらスノーは、落ちるときに俺の手から離れて華麗に着地したようだ。
俺とは、大違いである……。
虎だが、生まれたての子猫のように小さい。
身軽さを生かして、猫のように着地したのだろう。
白銀の毛並みが、光に照らされて美しい。
「スノー、怪我とかない? 大丈夫?」
「うにゃん」
俺は辺りを確かめる様に、ゆっくり立ち上がる。
すると、ふと眼前に小さな固まりをみつけた。
モフフサの柔らかそうな小さな固まり――
その上にちょこんと座る、美しく煌く蝶の様な羽を持つさらに小さな者と目が合う。
そして目線を下げると、小さな可愛いモフフサと目があった。
「えっ、何? この可愛いモフフサの柔らかそうな動物と、綺麗な妖精?」
俺は思わず衝動的に飛びつき、小さなモフフサを抱きよせた。
「ワフワフ、クゥーン」
「△☆ー」
叫び声? あの妖精が、何か言っている?
妖精は器用に俺の手を避け、美しい羽を優雅に羽ばたかせる。
そして、睨むように俺を見上げた。
【システム スキル 文字言語自動変換 を発動しますか?】
システムの問いに、俺は【はい】と答えた。
「ちょっとぉ! 貴女いきなり、危ないじゃない」
「えっ?」
妖精はエメラルドグリーンの双眸で、同系色の髪が肩まであり、頭には微小のティアラを付け、豪奢なドレスも相応しく高貴な者だと判断できる。
そして、豪奢なドレスのミニスカートから覗く健康的な太腿も相まって顔立ちが整った美少女だった。
ここで一つ、ことわりを述べておこう。
眼前の妖精は、信じられないくらいの美少女だ。
女神サラに比べれば……いや、比べる対象が美の象徴である女神なのは酷だよな。
つまり、男なら誰しもが目を奪われる存在の美少女。
しかし、俺には眼前の美少女を超える存在を知っている――
あえて言おう。俺の義理の妹だ。
女神サラのあまりにも美しく可愛い笑顔を見た時も、妹を彷彿した位だ。
要するに――俺は美少女より、可愛いモフフサの方が気になったのだ。
俺はモフフサの幼いワン子を抱いて、頭を撫でる。
そして妖精の言葉の意味を理解しつつ、危ない事って何かしたかな? と考えた。
小首を傾け――
「スノー、私何かしたかしら?」
と言って、近くのスノーを見る。
その瞬間、モフモフが増えた嬉しさが抑えきれずに思わずスノーも一緒に抱きしめた。
ぼふっ!
「ふにゃー。愛らしいモフモフフワフワが、二匹になったばい」
興奮冷めやらぬ気持が一気に高ぶり、叫んでしまう。
「モフモフゥゥゥゥゥゥー、ハッピィー・フェスティバール」
「うにゃん」
俺の心からの嬉しい叫びに、スノーが返事をしてくれた。
「ねえー、貴女……女神様? 女神様なの?」
妖精が何か言っている気がするが、モフモフを堪能する方が先だ。
スノーとモフフサのワン子をモフモフしていると、ワン子が何か言っている気がする……
「クウーン、クーン、クウーン、ワフ」
「ワン子どげんしたと? お腹空いとーと? 何か伝えたいん?」
俺は、ワン子が何か言っている様に思えたので、耳を傾けてみた。
【システム スキル 文字言語自動変換 を発動しますか?】
再び、システムの問い。俺は【はい】と答えた。
「ワン。クウーン、クーン、クウーン。ワフ」
『女神様。どうか妖精族と妖精狼族の皆を、助けて。お願い』
「ふぇ? なして言葉が分かったっちゃ? ワン子、ちかっぱ愛らしかー」
システムの答えで、ワン子の言葉が理解できる事は分かっていたが、驚きと嬉しさのあまりつい言葉が出たのだ。
ここで言っておかなければならない事がある。
それは……俺の願いは、【女神の身体を借りたので、出来る限り平和に暮らしたい】だ。
しかし俺は【フワフワ、モフモフ、モコモコ】の可愛い動物に、めっぽう弱い!
そして、二匹を抱いたまま立ち上がった。
「モフモフば、こなしよる奴は許さんけん」
ぽっぷん!
俺の頭の中で、眼鏡をかけた女神サラの女教師バージョンが出てきた。
「私の説明が必要なようね」
今度は俺の頭の中で、子供の頃の俺が出てきた。
「先生おねがいしまーす」
「今日は【こなす】など、少し難しいと思われる方言について教えるわよ」
「はーい」
子供の俺が席に座ると、女教師バージョンの女神サラが説明する。
「【こなす】とは、【意地悪して苛めている】ことを表すわ」
「あーい」
「つまり、【こなしよる奴は、ゆるさんけん】とは【苛める奴は、許さないから】という意味よ。分かったかなー」
「はーい」
「説明は以上よ。また少し難しいと思われる方言が出たら説明するわね」
「はぁーい。先生ありがとーございまーす」
妄想説明劇場が終了し、現実に戻る。
俺は立ち上がり、出口に向かって二匹を抱いたままモフモフを堪能しつつ走り出した。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。場所も知らないくせに、私を放置して置いて行くなー!」
美少女妖精が叫んでいたので、そういえば場所の事を知らないなと思い立ち止まった。
そして仕方なく美少女妖精を肩に乗せ、出口に向けて走り出した。
「で、どっちなの?」
「あっちよ! それに、アイビーが道を案内してくれるから離しなさい」
「アイビーって?」
「妖精狼の幼狼。その子の事よ」
「この子の名前って、アイビーって言うんだ。良い名前ね。モフモフ、ちかっぱ愛らしかー。で、貴女は?」
「なによ! その序でに、私の名前訊くような言い方して。私は妖精の王女シルク。幼狼のアイビーも妖精狼の王よ」
「王女と王様なんだー。でも、モフモフフサフサして幼狼ちかっぱ愛らしかー」
幼狼の可愛いモフフサの方が気になり、俺はあまりシルクの話を訊いていない。
そして、アイビーも案内するので僕を下ろしてくださいと言っている。
しかし、まだモフモフ成分を十分堪能していないので離さなかった。
シルクが、俺の顔を突く。
「アイビーが案内するって、言ってるんだから離しなさいよ」
「なんば言いよっと? ちかっぱ愛らしい子、放す訳がなかろうもん。モフフサは正義ばい」
「貴女、言っている意味か分からないわ。それに私が案内する場合、飛んで先導するしかないのよ。でも、飛ぶと遅いから時間かかるの。事が頻拍しているんだから、アイビーを放しなさいよ!」
シルクが至極全うな事を言ってきたので、俺は仕方なくアイビーをもう一度ギュッと抱きしめた後に解放した。
すると、アイビーは微笑み――
『女神様有難うございます』
と言って、シルクを首の上に乗せた。
そして、こっちですと言って走り出した。
俺はスノーも同じく解放し、アイビーの後を足早について行く事にした。
「そう言えば事情も何も訊いてないけど、何があったの?」
「こっちも吃驚したわよ! 貴女が何も訊かずに、アイビーを抱いたまま、急に立ち上がって走り出すから悪いんじゃない。本当に置いて行かれると思って、ハラハラしたわよ」
「あは、あははは」
俺は、アイビーの上からこちらを振り向いて話しているシルクに、微苦笑いで誤魔化した。
幼狼って見た目以上にモフフサで、本当に凄く可愛いのだ。
目の前に柔らかそうなモフモフの尻尾が、左右にパタパタモコモコと見える度に心が和む。
「ふにゃー。この子ちかっぱ愛らしかー。勿論スノーも愛らしいけん、バリすいとうよ!」
「うにゃん!」
モフモフの可愛い子が困っていたら、貴女はすぐに助けるの?
と、誰かに言われたら絶対に助けると答える。
俺はアイビーに案内してもらいつつ、スノーを引き連れ走りながら事情をシルクから訊くことにした――
「ふむふむ。その願いをしている最中に、私が上から降って来たと……。成る程ねー、事情は分かりました」
一通りの事情をシルクに走りながら確認しつつも、俺は問題あるかどうかスノーの顔色を確認しながら訊いていた。
スノーは何も問題無さそうに話を訊いている。
俺は先頭のアイビーから少しだけ距離を取り、スノーに身体の戦闘能力を『小声』で確認する事にした。
以前確認したステータスを、もう一度確認する。
ステータス→基本情報→全体像→詳細情報。
やはり、何も変わらない……。
もしかして、数値化されているのではないか? と、淡い期待を込めて確認したが無駄であった。
『ねえスノー? ステータス詳細の、攻撃防御とか数値が無くて全て斜線なのだけれど……。私、戦っても強いの?』
『はい。ステータス詳細の攻撃防御等の斜線は、既に数値で表す限界値を越えており、能力値の上限が無い事を表します。うにゃん。つまり、数字で表す事が不可能なための処置と考えて下さい。うにゃん。そして同時に、管理者の能力により無限に上昇する事を意味します。うにゃん』
俺が不安な顔をしていると、スノーがスキルと魔法の事を話しだす。
『スキルと魔法無しでも、リリー様の身体能力のみで大抵の事を対処可能です。うにゃん』
『武器も防具も、本当に何もないのよ。こんな感じで、腕も足も華奢なのに。私、強いの? ほら、見てよ。この二の腕と太腿。凄く柔らかくてスベスベして、プニプニよプニプニ』
『はい。攻撃モード状態【攻撃すると考える事で発動】に入ると、普通に拳や足で攻撃するだけで、この世界で伝説に謳われた最強の古竜や英雄よりも遥かに強いです。うにゃん。それに、リリー様は独自の攻撃方法で、スキル同様の力を使用可能です。うにゃん』
『【女神の身体ってやっぱり普通じゃないんだ……ボソッ】って独自の攻撃方法ってなあに?』
『はい。例えば、リリー様が元いた世界のゲームや漫画アニメ等の技です。うにゃん』
『こちらの世界のスキルや魔法を、何も覚えていない状態でも、元いた世界のゲームや漫画アニメ等、独自知識の技が使えるとは……』
『但し、使用不可能なものもあります。うにゃん。リリー様に莫大な魔力は有りますが、まだ覚えていないため、こちらの魔法等がそうです。うにゃん』
『って、使えないのも有るの? それってリアル格闘ゲーム技を実践しながら試せって事? 不明瞭な点が多いのね? 少し厄介ね。〇〇拳とか、〇〇〇〇波とか使えたら便利なんだけど……使えないって事かな?』
『リリー様、あちらの世界の技の事を言われても分かりません。うにゃん』
『仕方がない。まあ、実戦あるのみ? かな……』
不安になりながらも、漫画アニメやゲーム知識を活用できるのなら何とかなるか?
思考を働かせていたが、目の前の左右に動き回る可愛い尻尾が気になっていた。
アイビーが急に立ち止まった束の間、俺の尻尾を触りたい欲求が頂点を迎えた――
「もー、どうしたらよかとー。我慢できんばい。モフモフ愛らしかぁー」
そして思わず飛びつき幼狼を抱きしめた時、ようやく妖精の村に到着した事を知る。
「着いたわよ。って、ちょっと何してるのよ。アイビーを放しなさい!」
ポカッ!
俺はシルクに怒られて、頭を「ポカッ」と叩かれたので仕方なく幼狼のアイビーを放して村の様子を窺う。
すると、村の惨劇を表すように――空の色が、赤焼け色になっていた……
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