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ある恋の物語

作者: 野津敬
掲載日:2020/07/17

ショートショート


もうすぐ十年が経とうとしている。


あの日、高校の卒業式のあと、私は校庭の端にある桜の木の下で、ずっと胸にしまっていた想いを彼に伝えた。

「僕も君を……」

彼は少し照れたように微笑んだ。

けれど、すぐにその笑みをそっと閉じるように首を振った。

「歌手を目指して上京する僕が、君の想いを受け止めるわけにはいかないんだ」


夢を追う彼の思いは一途で、その強さに私は言葉を失った。

風が吹き、紡いだ言葉が空へ散っていくように感じた。


見上げた太陽が、ただ眩しく私を照らしていた。

ふと気づくと、彼が優しく手を握っていた。

「十年後、もし運命があるなら……またこの場所で」

彼はそう言った、まっすぐな視線で…

私は早咲きの桜にそっと頬を寄せ、静かに頷いた。


•• •• ••


仕事から帰って何気なくつけたラジオから、彼の名前が聞こえた。


番組のパーソナリティが

「本人からのリクエストです」と紹介し、

あの日の情景を思わせる彼のヒット曲が流れ始めた。


桜の木の下での告白。

すれ違い。

十年後の再会を願う歌詞。


「どうして……また、この歌なの」


胸の奥でずっと燻っていた想いが、再び熱を帯びて立ち上がった


一般企業で働く私と、歌手になるという夢を叶えた彼…今では、まるで別の世界に住む人。


それでも……

あの日の告白以来、

彼への想いはずっと私の胸を焦がし続けている。


そして今日。

十年後の約束の日。


私は会社を早退し、電車を乗り継いで懐かしい母校へ向かった。


桜が今年も咲いている。

別れを惜しむ生徒たちが、再会を約束し合っている。


私は校舎の片隅に立ち、そっと目を閉じた。


今日で十年…あの日の続きに、終止符を打つために__


※下の欄(ランキングタグ欄)にYoutube へのリンクがあり、本編のストーリー曲として掲載しています。宜しければお聴き下さい。




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