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それでもこの世界を愛そう  作者: じぇい
 第1章 ルナの娘 【アルバイノ】
8/11

08 『彼女が見せたモノ』




「ちょいちょい落ち着けって!」



「違うから!下着持ってなくて街の人からもらっただけだから!」



「お前の場合『盗んだ』が正解だろう?それでも当人のセンスが現れてると思うけどねぇ」



「違うからぁぁぁぁ!!」



 掴みかかってくるハルに抵抗するがやはり彼女の力は異様に強い。逃げようとしてもすぐ元の場所へ引きずり戻されてしまう。



「ちょい待ち!誰かこっちにくるぞ?」



 自分達のいる草むらの外から男性二人の話し声が近づいて来た。

 声質にとても紳士的な雰囲気を感じる。



「今回の女性達はかなりの上玉ですよ。集めるのに苦労しました。前回とは違いハズレ無しです。保証します」



「いやぁ、本当に貴殿には頭が上がりませんよ。毎度の事、質の良い女性を集めて頂いて。それなんですが、今回...その、バツイチ子持ちの三十路で性欲強めの女性はいるので?」



「ハッハッ。相変わらず変わった趣味を持ったお方です。安心して下さい。用意済みです。性欲の部分はご自身でお確かめを」



「いぃやぁ!素晴らしい!これで貴殿への金一封も私の下半身もさらに膨らみを増しますぞ?!」



「「ハッハッハハッハッ!!」」



 先程抱いた紳士的というイメージをものの見事に打ち砕かれた。

 それと共にこの男達が向かう場所で何が行われるのか気になってしまった。



「なぁハル?お前はいつもここに来てるのか?」



「たまにね?この街で1番大きい貴族の屋敷の庭で、月に1回くらいパーティーが開かれるの。たまにそれにイタズラしにくるんだ。行こ行こ」



「ちょっと待てって、厄介事は御免だぞ」



 どうやらここは貴族の屋敷の庭園のようで、今自分達は手入れされた草むらの中にいる。巨大な庭園の中によくある草の壁の様なアレだ。名前は知らない。



 草をかき分けながらハルを追っていると、ティーカップの音や、貴族達の賑やかな話し声等が聞こえてきた。数にして三十人はいるだろう。



 皆が歴史の教科書で見るような服飾を身につけていた。

 そして適当な場所を見つけ草の壁の中からその風景を覗いた。



「あなたはとても美しい女性だ、是非私の妻として。あっと、金や子供達の事なら心配なさらず。私の家系は曽祖父の代から領主で...」



 さっきの男だ。バツイチ子持ちの三十路で性欲強めがいいと言っていた男が、気の強そうなキツめの女性を必死に口説いている。

 一体なぜそんな趣味になるのか、シンには到底理解出来なかった。



 (領主だから『守備範囲』も開い。のか。貴族ならもっと選べるだろ。あぁ...そういうことか。いや、わかんねーな)



「あのドレスいいなぁぁぁ」



「ていうかハル、見せたかった物って貴族のお茶会かよ?俺はお前のお茶会鑑賞に付き合わされただけか?」



 その風景に早々に飽きたシンは足元の芝生に胡座をかいた。



「もうちょっとだけ!まっててよ、今にあの変態を吹っ飛ばして」



「おっ....?」



 シンが目にした者、パーティーの中心から少し離れた場所のベンチで、退屈そうにパーティーを見つめている女性───。



 長い波打つ赤褐色の髪、綺麗な耳飾り、そして凄く触り心地の良さそうな薄水色のドレス。

 歳は二十歳程に見える。



 西洋人形の様な貴族の女性は、そのメルヘンな情景と相まって、シンにはより一層彼女が美人に見えた。



「めっっちゃ美人じゃん。友達になりてぇ...。出来ればそれ以上」



 ハルの下着の時ほどにガン見していると、毛先をくりくりと弄っていたその女性がこちら側にゆっくりと視線を向けた。



「ん?あの子俺のこと見てる?いやいや、んなわけ」



 気づくわけがないと思い込みその女性を見続けるが、何秒経っても視線を逸らさない女性にだんだんと違和感を覚えてくる。



「うん。なんか見てる気がするんだけども。ずっと二人で見つめ合ってる気がするんだけども」



 先程からピクリとも表情を変えないその女性がとうとう、微笑みを浮かべこちら側へおしとやかに手を振ってきた。



「うわ!気づいとるやん!」



「ぺぷし!!!」



 そこでハルの大胆なクシャミがパーティー会場中に炸裂した。



「ちょっと今はやめろよぉ...」



 貴族達がこぞって草むらのシンとハルの方を指差し、ガヤガヤと騒ぎ始めた。



「おいあそこに誰かいるぞ!ガードマン!!」



 まずいことになった。貴族の敷地に侵入したとあっては何をされるかわからない。



「おいハル!逃げるぞ!早く!」



「ぺぷし!ぺぷし!ぺぷしッッ!」



「呼び寄せるんじゃあねぇ!」



 ハルの口を手でガッチリと塞ぎ込み、ローブのフードを被せ、顔を見られぬ様に自分もティーシャツを顔へ引っ張り上げると、草むらから飛び出し地下通路方面へ走り出した。



「あそこだ!!おい止まれぇ!!止まれと言ってるだろうが!」



 ハルと走りながら地下通路を目指す。しかしハルの様子が少しおかしい。



「はぁ...はぁ...は...」



 目を細くし鼻の穴を広げ、口をへの字に開きながらヒクヒクと震え未だクシャミをしようとしている。



 そこで突然、ハルは足を止め追ってくるガードマンに振り返った刹那───



「───ぺッッッぷしん!!!!!」



 骨まで響く物凄い風圧と轟音。

それと共に地面の芝生がえぐられ、ガードマンが瞬く間に空中へ打ち上げられた。

 その後に鈍い音を立て地面へ落下する。



「うぅ...」



 空中から落下し腰を打ったガードマンが露出した土の上で悶絶している。



「シン!逃げよ!」



「なにそれお前?!ちゅっげぇぇぇ!!!」








 


 





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