03『お2人はどこへ?』
どれ程走っただろう?確かめるため後ろを向くと、村は遠く、豆粒ほどの大きさになっていた。
「あんな所、二度といくか」
あの武装した集団はなんだったのか、そう思いながら前に向き直る。
ここはあたり一面が小高い木で囲まれている。
右後ろには別の道があり、あの村とは違う方向へ伸び、Y字型で今居る道と繋がっていた。
その道の先から、何がが近づいてきている。
ガタゴトと音を立てている何か、車?にしてはエンジン音がしない。
そう考えているうちにもこちらに近づいてくる音。
そして聞こえてくる人の会話。シンは警戒して木の影に自分の体を潜めた。
「デュセールってこっちであってるよな?にしても長い道のりだ。まだ薄暗いうちに村を出たってのにもう昼時じゃないか」
「そうねぇ。ところであの街には色んな料理屋があるみたいよ?是非寄っていきましょう?」
「構わないがよ。あまり沢山飲み食いするなよ?今回は村開発の交渉に来たんだ。ただでさえお前はトイレが近いってのに、帰り道に何度もうんこ休憩されたもんじゃあ日が暮れちまう」
「あんたって本当にデリカシーのカケラもないわね。結婚前はあんなに優しくてチヤホヤしてくれたのに。あの方はどこに行ったんだい?」
「そっちこそあの引き締まった美ボディーはどこに行ったんだよ。打ち上げられたブロブフィッシュみたくタユンタユンじゃないか?えぇ?」
「ざけんじゃないわよッ!」
「いてぇぇ!」
シンは夫婦らしきその中年男女の会話を聞きながら馬車の荷台で揺られていた。
無銭乗車だ。
荷台の乗り心地は意外と悪い物ではない。積まれている牧草ロールがいいクッションとなった。
どうやらこの先にデュセールという街があるらしい。
この2人が色々な料理屋があると言っていることから、そこそこ大きな街なのだろう。
そこに着いたらどうしよう、うまくやれるだろうかという心配とともに、
自分は死んだのではなく、別の世界、『異世界』に来てしまったのだという考えが確かになるのを感じていた。
「ったく、いい加減その夫を叩く癖やめろってんだ。あの日でストレス溜まってるなら俵を好きなだけ殴らせてやるよ。その腹も多少は引っ込むだろ」
「あんたこそその憎たらしい減らず口やめないと帰ったらいい事してあげないんだからね」
「...お、おぉい、そりゃないよ?頼むから機嫌を治しておくれ。俺が悪かった」
「仕方ないわねもう。あなたったら」
「んほっ。こっちおいで子猫ちゃん?」
(おいおいやめてくれよ)