攻略を始めよう
その日は結局なにもできないまま家に帰った。
情けないもので、相手が九重夏鈴だとわかった途端、少しづつ芽生え始めていたやる気とか、希望なんてものはあっさりとへし折られた。
春の陽気に乗せられて頑張ろうという気持ちになれていたはずなのだが、現実があまりにもはっきりと見えてしまうと、そうはいかない。
やはり、彼女いない歴=年齢の男には荷が重すぎる。
いっそのこと全て投げ出したいとも思うが、もう賽は投げられてしまった。
かろうじてまだ目は出ていないものの、ほぼ結果は透けている。
どうしたものかと思案していたところ、桃花が心配してどうしたんです?と尋ねてきたので、今日のことを一通りを話した。
「そうですか、それはいきなりまずいことになりましたね…でも、拓真さんならきっと大丈夫ですよ!」
桃花が励ましてくれるのはありがたいが、俺自身に実現できるビジョンが見えない。
一体何から始めたらいいんだろうか?まず仲良くでもなりたいが、あの取り巻き達と同じようにしていても多分ダメだろう。
昨日今日見た感じでは、彼らと九重さんが親しいわけではなく、一方通行の関係のように感じた。
そうなると、何か別の繋がりやきっかけが欲しい。
何が好きで、何をして休日を過ごしているとか、そんな感じのやつ。
とにかく情報だ、九重夏鈴についての情報を集めなくてはならない。
「桃花、急で悪いんだが九重夏鈴について、なんでもいいから調べてくれないか?」
「もちろんいいですよ。やるからには、明日の放課後までに1つは絶対に何か掴んで見せます!」
「それは頼もしい。俺も可能な限りアクションを起こしてみるよ」
俺達は、明日から行動を起こすことを決意し早めに電気を消して寝た。
翌日、朝起きるとそこには桃花の姿はなく置き手紙には、今日学校が終わったら校門で落ち合いましょうとだけ書かれていた。
桃花の仕事熱心ぶりに関心しながら支度をして、家を出た。
この季節、花粉症の人にとってはとても辛い時期らしい。
特に今年は昨年の倍の量飛んでいるのだと、今朝つけていたテレビのアナウンサーが悲痛な声で言っていた。
そのせいもあってか、通学途中に見た花粉症と思わしき人達は皆つらそうな顔をしていて、心の底から花粉症ではないことに感謝する。
さて、今日の作戦について考えるとしよう。
普通に話しかけても、取り巻きAとしてしか扱われないのはほぼ自明ではあるが、やってみないことには分からないのと、最低でも同じクラスメイトだくらいの認識はしてもらえると思う。
それだけでも一歩前に前進すると信じて、俺は午前の授業をこなして昼休みになると、意を決して九重さんの席へ向かう。
途中、九重さんと先に来ていた取り巻き達との会話が聞こえてきた。
『え、九重さんって遊園地とか行ったことないの?意外!』
「そうかな?」
『うん、そんな人今どきいないよ!今度の休み、俺たちと一緒に行こうぜ!』
「う、うーんそれは、、、」
……いや、これは流石に下心見え見えすぎるだろ、もう少し考えて誘えよ。
そんなことを思いながら彼女の正面に堂々と立ち、周りの声を遮るように声を張る。
「はじめまして!俺は日向拓真。同じクラスメイトとしてよろしく」
ありきたりではあるがこんなものだろう。
突然のことに九重さんは面を食らったようだが、すぐにニコッと笑いうん、よろしくとだけ返してくれた。
もっといけるかと思い手を差し伸べたが、頭を横に傾けて意味がわからないというポーズをされたので、まあいいかと思い手をすぐに引っ込め、別れを告げた。
その日はこれ以上の収穫はなく、あとは桃花に期待するだけとなった。
授業終了を知らせるチャイムが鳴り、校門へ駆け足で向かうとそこには、とても真剣な面持ちをした桃花が待っていた。
「どうしたんだ?そんな顔して。」
「いや、それがですね、九重夏鈴の身辺について調査したところ、彼女が小さい頃、父親が事業に失敗したことをきっかけに、両親がお互い別に愛人を作っていて、今は2人とも別居しているらしいんですよ。だから今彼女は、毎月両親から振り込んでもらった生活費と、1人しか住んでいない家で暮らしているらしいんです」
学校にいる九重さんからは、全く考えられない境遇に俺は唖然とした。
両親と一緒に住んでいないという点においては俺と同じとも言えるが、そこまでのプロセスが俺とはあまりにもかけ離れてひどい。
そんな境遇の子が、どうしていつもよく笑う笑顔の可愛い子としていられるのだろう。
俺が同じ立場だったとしたら、あんな風には生きていける自信がない。
そう思ったのも束の間、さらに俺は耳を疑うようなことを知る。
「あとこれは使えるかわかりませんが、彼女、駅前のゲームセンターに通い込んでいるっぽいんですよ」
……俺は九重夏鈴という人間が本当に分からなくなってしまった。
できるだけ早い更新を頑張ります