未来人との遭遇?
そこにいたのは、エメラルドブルーの目を持ち、色々と際どくて目の付け所が分からない服を着た俺とちょうど同い年くらいの女の子だった。
「お、ようやく帰ってきたか。待ちくたびれたよ」
思わず見惚れてしまい思考が停止していた俺は、頭をフル回転させる。
一体誰だ?そもそもどうやって入ってきたんだ?
「お、お前は誰だよ?窃盗犯か?それなら盗んだものを全部出してから出て行ってくれ。今なら特別に警察には黙っててやる。」
うまう平静を保つことができず、とりあえず俺は手に持っていた荷物を下ろし腕を構えて戦闘態勢をとる。
「まあそんな構えなくてもいい、私は不審者ではない」
このご時世、ドラマやアニメでももう少しマシな言い訳をするぞ……それだけでは当然信用できるわけないし、根拠があまりにも無さすぎる。
「なら、その証拠でも出してみろよ!」
つい語気が強くなったので、女の子は少し困った顔をしたが、その後すぐに、何かを閃いたようで、ぱぁぁっと笑いかけてくる。
「君のことを私は全て知っている。その証拠として君が私に質問してくれれば君のことなら全て答えよう。これなら信じてくれるかい?」
……本気で言ってんのか?
にわかには信じがたい話だった。
だが、本人がそれでいいと言うのなら構わない、警察に突き出すだけだ。
だが、どこから出てくるのかわからないその余裕ぶった顔がますます俺を困惑させる。
とりあえず質問をしてみないことには何も始まらないので簡易なものから訊いてみることにした。
「俺の名前は?」
「日向拓真」
「俺の年は?」
「現在高校二年生で16歳」
「俺の両親の仕事は?」
「母はバイオリニスト、父はそのマネージャー」
………まじかよ、なんで初対面のやつがこんなに俺のこと知ってんだ?それにこの一つ答えるたびに、どうだ!と態度で主張してくるのも少しむかつく。
でもまだこれくらいなら、俺の家を窃盗するために調べた事前情報という可能性もある。
「俺の好きなゲームは?」
「ドラゴンリクエスト」
「俺の一番好きな食べ物は?」
「モツ煮込み」
「俺の今の悩みは?」
「彼女がいない」
クッッッソーーまじで全部当てられてる!!!なんでだよ?ここまで来ると恐怖の方が勝ちそうだ。
それでも、その気持ちを打ち消すためか、認めたくないだけなのか、絶対黙らせてやる!と意気込んだ。
その後も30ほど質問を繰り返したが返答が来ないことはただの1度も無かった。
お互いに意地のぶつかり合いをするだけでエネルギーの無駄だと悟り、俺もこの子のことを無関係では無いと認めざるを得ないのではないか、というところまで考えが進んでしまっているのも事実。
「もう私も疲れてきたんだけど?そろそろ信じてもらえた?」
くたびれたのか、ベッドで横になる。
「お前がただの窃盗犯ではないことはわかった。だがお前は何者だよ?俺しか知らないことまでなんで知ってるんだ」
うっかりしてた、と言わんばかりに目と口が少し開く
「確かに、一番大事な部分の説明が遅れていたね。私は正真正銘、未来人よ!」
………この人は何を言っているんだろう。ようやく信じかけていたところなのになんでまたこんなわけのわからないことを。
病院に連れて行ってあげたほうがいいのかな?主に頭の。
「おいそこ!頭の病院に連れて行くことを検討するな!。でもさ、私が未来から来たからあなたのことを知ってるってのは割と筋が通ってると思わない?」
この少女、疲れてきたのか少しづつ最初とキャラが変わってきてるな。
信じてもらうために、未来人っぽい雰囲気を出そうと頑張ってたんだろうけど、こっちの方が話しやすい。
とはいえ、本当にこの子が未来人だなんて考えられない。
そんなものはSFや小説の中の世界の話だ。
俺達はそれを安全な上の方から各々に感情移入したり、同情したりしながら登場人物達が奮闘する様を眺めている。
そこに自分は登場しないから実害をもらうことはなく、[世界の危機]なんて、現実では体験することのできないものを追体験し、地味で平凡な自分の人生の憂さ晴らしにする。
非現実的な話はそういうものだし、そうあるべきだ。
しかし、現実は小説より奇なりとでもいうのだろうか。現実に、目の前に、有ってはならない未来人と世界の危機がそこにはあった。
「まあ、仮にお前が未来人だとして、一体なんの目的で俺のところに?」
それを聞くと、待ってましたと言わんばかりに説明を始める。
要約すると、未来では資源の減少に伴って第3次世界大戦が始まり、それを終わらせるために資源を無尽蔵に生み出す物体が作られたが、それを独占しようとする組織により研究所が襲われて奪われそうになった。
極秘に開発されていたもう一つの研究品、所謂" タイムマシン" は持ち出せたが、その物体は手間取ってしまい持ち出すことはできなかった。
しかし、ロックをかけることには成功したので、時間や場所、大きさや状態を変化させることによって奪われることは防いだ。
しかし、鍵も一緒に散らばってしまい、調べた結果この時代のこの街のどこかにあることがわかった。
その鍵というのは人の心に入り込んでしまうから普通には触ることができない。
そこで、鍵の探知機(通称ハートロックオン)を使用して鍵の所有者を探し当てる。
そしたらその子を恋に落として、それによって出現する鍵を回収すると俺の任務が完了となる。
いわく鍵は全部で7つあるらしい。
「とにかく、あなたが未来を救う鍵になるんだから!役割を実行しなさい。」
「嫌だと言ったら?」
試すように訊く。
「未来の情報漏らしちゃった以上生かしてはおけないわね」
なるほど、どうやら俺に選択肢はないらしい。
なんで俺がこんな目に遭わなくちゃいけないのか、全くもって意味がわからないけれど、命を人質にとられてしまった以上、了承以外の返事は見当たらなかった。
(………ん?待て待て、なんか流れでOKしちゃったけど、任務の内容の後半部分、冷静に考えたら意味分からなくないか?恋に落とす?なんだよそれ、そんなことできるわけがないじゃないか!。俺の人生詰んだかも……)
了承したものの今更不安そうにしている俺を見かねたのか慰めるように
「大丈夫よ拓真さん、私だってできない人間にはこんなことさせない。あなたにはできるから頼んでるの。だから自信持って!!」
そうは言われてもなぁー、今まで彼女1人いたことないやつができるもんかねぇ、、、。
次回は明日更新のつもりです。