新学期の始まり
ピピピッ!ピピピッ!俺の頭の上からそう煩わしい音が聞こえる。
まだ頭も体もベッドにいたいと訴えるがそれも虚しく時間に突き返され、眠い目を擦りながら洗面台へ行き顔を洗う。
冷たい水は俺の意識を無理矢理覚醒させ、今日から学校が始まることを理解する。
強制的に春休みでダレきった生活習慣に終止符を打ってくれることに感謝と不満の感情が入り乱れながら家を出た。
春の優しい日差しと、爽やかで気持ちのいい風を浴びながら俺、日向拓真は高校生活二年目を迎える。
学校に着く頃にはもう不満の気持ちが折れてくれたので、新学期を迎えることに高揚感を抱きはじめていた。
一年の教室を離れて、新しいクラス、新しいクラスメイトに囲まれて充実した日々、いや青春ってやつを目一杯堪能してやるぞと息巻いていた。
が、俺にはやらなくてはならないことがあると忘れていた。
「もう今月の生活費がないんだ。頼む!優佳少し貸してくれ!!」
そう、金欠である。
別に遊ぶ金欲しさでこう言っているのではない。生活費、食費がないのだ。
これは間違いなく一世一代の危機といえるだろう。
「あんたねぇ、今年も同じクラスになっての第一声がそれ?もう少し節約ってもんを覚えなさいよ。仕送りだってたくさん貰ってるわけじゃないんだから」
こう言うのは幼馴染の姫川優佳だ。
遠目から見てもわかるさらさらとしたきれいな茶髪で、背は少し小さいものの大きく膨らんだ胸と整った顔立ちをしている。
さらに付け加えるならきちっとした性格をしているので去年はクラス委員をしていた。
俺とは昔から家が近く、小中高と同じ学校へ進学している。
「もうそれは反省してるって、、、今月だけ!今月だけでいいんだ!頼む!!!」
と土下座の構えをとり始めると、優佳は困ったような顔をしながらも財布を取り出そうとする。
優佳は、昔からこうするとなんだかんだで頼みをきいてくれることが多い。
宿題、忘れ物、金欠、これらに関しては何度助けてもらったのかもう数えきれないほどで、いつかはこの恩を返していきたいと思う。が、結局は頼りっきりになっている現状に情けなさしかない。
「あ、また優佳にお金借りようとしてる〜。拓真いけないんだ〜」
そう言って、突然ひょっこりと俺の後ろから飛び出してきたのは、一年の時から同じクラスで優佳ととても仲のいい親友の佐倉柚月。
誰にでも分け隔てなく話しかけて盛り上がることのできる、とても明るい性格の持ち主だ。
「別にいいだろ。お前に借りるわけでもないんだし」
そう言うと、柚月は少しむっとして、
「いいわけないじゃん!あたしの大事な友達からお金を巻き上げようとしてる現場を見て黙ってはいられないって!」
と声を大きくする。
俺もこのことを同じクラスになったばかりの奴らに聞かれるわけにはいかないので柚月の口を塞ごうとするが、それに抵抗して俺と揉み合いになってしまう。
その一連の流れを見ていた優佳がやれやれ、といった表情をしながらも俺に1万円を渡してくれた。
柚月はアチャーって顔をしたが、無視してありがたく受け取る。
「そ・の・か・わ・り今回だけよ!あと、来月返さなかったらわかってる、、わよね?」
普段からは考えられないような物凄いプレッシャーを纏わせながら放たれたその言葉に、俺はちぎれんばかりの勢いで顔を何度も縦に振った。
「ところでさ、今年は九重さんも同じクラスなんだね。相変わらずかわいいな〜〜たくさんの人に囲まれて本当に人気者って感じするね!」
そう言う柚月の視線の先には人だかりがあり、その中心にいるのは九重夏鈴という子だ。
この人のことを知らない人がこの学校にいるのかというくらいの有名人で、長く凛とした桃色の髪を持ち、よく笑うところが可愛らしい美少女である。
去年彼女がされた告白の回数は数知れずだが、誰もOKは貰えていない。
サッカー部のエースでイケメンの先輩すら撃沈したほどだ。
「女の私でも惚れそうなくらいの可愛さね」
思わず漏れたその言葉に俺と柚月も同意する。
まあ、同じクラスになったところで俺なんかじゃ同じクラスの都合上、たまに話すのが関の山。
彼女とは住む世界が違うことは誰よりも俺が一番わかっているし、たまたま今同じ場所にいるだけで勘違いして可能性を感じることは俺にはできない。
そもそも俺には、高嶺の花の摘みにいく理由を持ち合わせてはいないのだ。
初日は午前のみで終わったので、優佳に貰った1万を握りしめて買い出しへ向かう。
(もうバイトでも始めないと駄目なのかねえ、俺は節約のほうが好き!なつもりではあるんだけど………まあ説得力皆無だな。とにかく!この1万円が俺の命!。なんとしてもこれで今月の残りを過ごさなくては!。………そうなると、現実的に考えても今月はもやし生活一直線だなぁ…。)
俺はがっくりとしながら近所のスーパーへと足を進めた。
(いやー買った買った!近所の特売回ってたら夕方になっちゃってたぜ。!家に着いたらこれは一休みするか〜。)
俺の家は絶賛両親不在中で、母が世界を股に掛けるバイオリニストで父がそのマネージャーといった具合だ。
子供からしても結構稼いでいそうなのでもうちょい仕送りの金額を増やしてくれてもいいのではないかと思ったりもするが、なかなか厳しいものだったりするのだろうか?
2人は俺が高校生になってから、正月と盆しか家にしか帰ってこなくなり、自動的に俺は1人暮らしをすることになった。
親としてそれはどうなのかってことは一旦置いといて、、、つまり俺の家には俺しかいないはずなんだ!そう、そのはずだったんだが………
家に帰ると、そこには1人の女の子が堂々とまるで自宅のようにくつろいでいた。
よければ好評価、ブックマークよろしくお願いします!