07 熱き者達
比較的早めの更新(今までが遅すぎた)
夜の基地、男の吐息が静寂の闇の中から聞こえる。
何も如何わしい行為をしているわけではない。リアムの同室、マックスが自主トレをしているのだ。一体何時間、何キロ走ったのかは不明だが、疲れ果てたマックスは膝から崩れるようにして倒れ、胸が動くのが見えるほど大きく呼吸をしていた。
「まだまだ、リアムには勝てない……」
マックスにとってリアムは目標であった。入軍試験のとき、圧倒的体力を見せつけた彼を、追い越したいという強い気持ちがあった。
ガエルの自殺後、陰鬱な雰囲気が拭いきられることはなかった。しかし、訓練はやや軟化し本来あるべき訓練強度へと変わった。
それから数週間、全員が生活に慣れ始め食事で吐くこともなくなりマックスは元からであるがこうして余暇の時間にトレーニングをするような余裕が生まれた。
──そんな中で俺は、余暇の時間までトレーニングなどバカらしく、いつも適当に施設をほっつき歩いていた。
基地には様々な施設があり、グラウンド以外に元の世界で言うジムトレーニング場みたいな施設や、今の俺達は入れないが剣技場等もある。ちなみにアンネはよくトレーニング場にいる。
そして、今日は今まで入っていなかった図書室に来てみた。漫画みたいなのはないだろうけど退屈しのぎになるものがないかと期待していた。
「おや、君が訪れるなんて珍しいね」
囁き声で聞き覚えのある綺麗な声が呼び掛けてきた。
「なんだよソフィア」
「君は本なんて読むタイプじゃないと思ってたからね。気になったから声をかけたまでだよ」
事実、俺は堅苦しい本なんて読まない。イメージ通りだとは思うがそれを言われると少し腹が立つ。俺はちょっと意地を張って難しそうな本を選ぼうとしたが本を広げた瞬間文字の量に圧倒されそっと閉じた。
「ふふっ、やっぱりそうだよね」
ソフィアはそんな俺をみて微笑した。そして、本棚から一冊の本を取り出してきた。
「簡易版のフジミナル神話の本、子供向けにアレンジしてるけど為になるから置かれてるんだ。君にはこれくらいが丁度良いと思うよ」
「お、おう……ありがとよ」
薦められた本を読むと俺が知らない物語が沢山書いてあった。何個か印象に残った話がある。その中でもバトリエルという戦いの神の話が印象に残った。戦いを愛し、戦いを生み出す神でもある。この神に気に入られたものが勝利者になれるなんて話で軍の紋章にも描かれている。それに、この本には人間以外にも魔物のような人外生物が多数取り扱われていた。所詮物語なのだろうが妙にリアルだった。
読み終わり一息着くと、ソフィアが近くの椅子に座ってきた。
「その本、僕も幼い頃読んだことがあるんだけど──魔物、存在すると思うかい? 」
「あんなの作り話だろ? この本じゃそりゃリアルに書かれてたけどそれは作者が上手く表現してるだけだろうし……」
「比較的人に近いエルフであったり、そうでない者……ドラゴンだったりとかも出てくるけど僕はいるんじゃないかと思ってる」
「それは何でだ? 」
「中立国家のマジリック王国は知ってるよね? 」
「お、おう」
確かここ来る前の社会か何かのテスト勉強で出てきたはずだ。
何でも箒で空飛んだり手から炎を出すようなこの国とはまるで別世界のような魔法が存在する国だとか。
「今のところ化学では証明できない魔法というものを扱う民族。似たようなものをこの本で魔物が使っていたりもする。だからこの民族を大袈裟に表現したものが魔物なのかもしれないけれどね。でも、マジリックの移民者により作られた魔法の籠められた剣、魔剣がこの国でも少数ながら存在しているし、この本は有名だからその人達も知ってる。でも、この本の魔物が自分達の誇張表現という証言はないんだ」
「そりゃ神話にわざわざそんなこと言うやついないだろ」
「確かにそう、普通ならそう。でも実はこの神話は現実に存在したのではないかという説が濃厚なんだ。話は少し飛ぶけど島国武蔵大国でも似たような魔物の絵巻物が存在し、実際にそういった間も無くが使っていたのではないかとされる道具も見つかっている。マジリック王国の魔法も神から人と魔物に与えられたものなのではないかとされている」
こいつはいつも小難しいことをいうが、今日は少し違う。なんというか、転生前の友人のオタクみたいに熱く語るし話が飛んだり早口になったりする。そして目が楽しそうだ。
「この話、好きなんだな」
「当然さ、化学では証明できないようなことが実際に起きていて、まだ解明されていない。夢のような話だよ。僕はこの話の真実を追ってみたいとも思っているんだ」
「なら軍に入らず学者になればよかったろ? 」
「僕はこれでも欲張りなんだ。そういう研究は一般人でも出来るけど軍に関する研究は全てここでしか出来ない。軍に関わる技術はその国最高峰の化学技術が詰まってるからね。気になってしまうのさ」
今日はちょっと彼女に対する印象が変わった日だった。いつも澄ました顔して何事にも一歩引いた位置から取り組んでいる少女に思えたが、実はこんなにも感情を出して熱く語れる側面を持っていたんだ。今日の余暇は有意義な時間にはなった。夜寝て目が覚めればまた地獄の訓練が始まる。毎日それを繰り返す。でも、いつかは終わる。その日まで頑張るために適度に息抜きをしていこう。それが俺のやり方さ。
今回はマックスメインで書くつもりが気づけばソフィアメインになっていました(汗)
日々の訓練の中にもこういった時間はあるが、その時間をどう使うかで差が開くものです。果たして修業時にはどう成長するのでしょうか?