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04 教育隊基礎訓練

遅れてしまい申し訳ありません!

2021/4/30 一部修正

 時は早々と過ぎ去っていき、俺達の教育隊への入隊式の日がやって来た。一週間前から採用者が軍の寮に入っているのだが、そこで俺はあのチビと再会することとなった。

俺の相部屋がそのチビと一緒だったからだ。








「もしかしてお前が俺が倒れているのに気づいてくれたっていう人か? 医務室で聞いたんだよ! 先頭走ってた奴が気づいてくれたって、それで俺ずっと先頭走ってた奴のこと覚えてたから! くぅ~そんな命の恩人と相部屋とは感動だぜ~!俺の名前は『マックス・ガッツァ』よろしくな!」


 各四人の相部屋で、俺が部屋に入るなり中にいたこいつは俺の顔を見てはっとしたのかすぐさま駆け寄ってきて、そのまま勢いよく俺の右手を掴んで両手で握手してきた。


「お、おう。俺はリアム・ウォード・フォスターだ。よろしく」


 こいつが元からおしゃべりなのか、それとも興奮していたからか、聞いてもいないことをベラベラ話してきた。こいつの家が貧乏で土地借りて農業やっていて、自分が次男坊で長男は農家の後継ぎなんだとか、誰も聞いてないんだがこいつは話す。チビ、としか印象になかったこいつを改めて観察すると、英語の教科書に出てきそうな陽気なヨーロッパ人みたいな見た目をしている。金髪の男にしてはやや眺めの綺麗な髪に光に満ち溢れた青い瞳、頬の上辺りにはソバカスがあるがそれすらも良いものに見えてくる。

 マックスの話を聞いていて唯一俺が気になったのは、貧乏で栄養のある食事を貰えなかったから去年身長が足りなくて受験出来ず今年やっと一センチ伸びたことで受験出来るようになった。つまり俺と同い年なのである。他のやつらは基本十八歳だろうから何だか親近感が湧く。性格は全く親近感湧かないけど。

 折角なのでそのまま俺を含めた残り三人も軽い自己紹介をした。身長は百七十前後で目が小さくて俺と同じ黒髪の『ジョン・ケンプ』とやや太ってる『ガエル・デブス』二人共普通な感じで絡みやすくて安心している。

 そして、一週間丸々この入隊式の為の訓練が行われたのだ。故に、全員が隊列を乱さず入場するし、歩く腕の角度もほぼ均一。まるでロボットだな何て思った。行進が終わり全員が列び終えて、壇上で教育隊の人が長々と形式的なことを喋っている。学校にいたときから校長先生の長い朝礼なんて聞き流してた俺は、これも全部聞き流していた。だから俺は翌朝悲惨だった。


「貴様ぁぁ! 訓練初日から失せ物とはいい度胸じゃねぇか!」


教官の怒号が俺を襲う。休めの姿勢を少しでも崩したらさらに怒号が増す。ソルジアの冷徹な怖さと違って、こっちはシンプルに怖い。幼稚園の頃に悪さしてお母さんに怒られてるくらいの怖さがある。


「俺は間違いなく昨日の入隊式中に、今日必要なものは伝えた! なのに貴様、何故インナーを着ていない!」


そう、これがもっと目立つ場所なら俺も途中で気付いたのだが普通にしてると見えない場所ゆえに俺は気付けなかった。整列した際に一斉点検されて発覚した。


「貴様! 名を名乗れ!」


「り、リアム・ウォード・フォスターであります!」


「リアム・ウォード・フォスター……貴様が」


少し驚いたような顔をしたが、教官はすぐに先程までの怒りの顔に戻った。


「いいか! 戦場で何かを忘れたらな、忘れましたじゃ済まされないんだぞ! 貴様の命だけでなく、小隊の命、中隊、大隊の命、場合によっては国の命すら奪いかねないのだぞ! 貴様はこれから軍人になるという自覚が足らん!」


「はい! すみませんでした!」


「リアム・ウォード・フォスターの同室の者は名乗り出ろ!」


「「はい!」」


並んでいたマックス達が手を上げて名乗り出て、教官は名乗り出た三人の前に立った。

「貴様等は何故気付かなかった! 戦いは個でやるものじゃないんだぞ! 一人で戦いたいたければ剣闘士にでもなれ!」


それだけ言うと教官は俺の前に戻ってきた。


「罰として貴様はここでスクワット百回だ! 小太りの貴様こっちへ来い!」


「は、はい!」


ガエルが上擦った声で返事をしてこっちに来た。


「貴様はスクワットをするリアム・ウォード・フォスターの背中に乗れ!」


「はい!」


「よし、スクワット始め!」


流石に少し重いぜ……


「一! 二! ……二十一!」


「ほぉ……随分と楽そうだな。おい! 同室の中くらいの者! お前も乗れ!」


「はい!」


くっ……これ以上負担が増えたくない……俺はこれ必要以上に辛そうな顔をしてスクワットを続けた。なのだが、半分を差し掛かった頃に理由もなくマックスまで背負わされた。


「九十九……百!」


疲れた。流石に少し疲れた。これ以上やらされたくないのでわざと息切れを装った。


「反省したのならダッシュで部屋からインナーを取ってこい!」


「はい!」


俺は全速力で部屋まで行って、インナーを取って帰ってきた。


「貴様……疲れていたように見えたが随分と元気そうだな」


しまった、ハメられた。


「そんな貴様にぴったりなものを用意しておいた。ここでこれに着替えろ!」


そういうと教官は手に持っていた茶色い粗末な布っ切れのような服と手足にはめる為の金属製のリング、そしてチェーンのようなもので出来た鎧のようなものを地面に落とした。


「教育隊の伝統的懲罰のひとつ、囚人晒しだ。その茶色いボロ切れのような服は罪人が着せられる囚人服の払い下げ、つまり顔も知らない囚人の血と汗と憎しみや汚れがたっぷり染み付いたものということだ」


いや、汚いよ! 排水溝レベルに!


「それを、この訓練用防護服の中古品の下に着ろ。直接切ると危ないからな。そしてこの四つのリングは、つまるところ足枷や手錠のようなものだ。これらを全て装着して今日の訓練を受けろ! わかったか!!」


「はい!」


ふざけんじゃねぇよ! 何で何処のおっさんが着てたかもわからない服を肌に直接着なきゃいけないんだよ。せめて可愛い女の子のお古ならいいのになぁ。

渋々着てみると案の定臭い。そして、結構重い。


「訓練用防護服の重さが15キロ、四つのリングの合計が20キロ。なに、貴様に取っては大差あるまい……ん? 何だ、不満そうな顔だな」


俺の中の不快な感情がどうも顔に出ていたようだ。まあ無理もないだろ。だって排水溝に手を突っ込んでヌメリを触るくらいにはばっちいもん。


「いいか! 貴様ひとりのせいで他のやつらの貴重な時間が今も尚失われているのだぞ! 見てみろ! あいつらはしっかりと整列したまま待っているではないか! それなのに貴様はなんだその態度は! 馬鹿者めが! その根性きっちり叩き直してやる! 覚悟しておけ! わかったら戻れ!」


「はい! 以後気を付けます!」


小走りに元いた列の場所に戻った。


 この日の午前中の内容は今後の訓練の為の馴らしが多かった。そして、ようやく昼飯だ。手の重りのでせいでフォークやスプーンが扱いづらいし服が臭くて食欲も減る。まあ、これは周りにいる皆も少なからず影響があるから俺が文句言うわけにもいかない。袋叩きに合いそうだ。


 午後は最初は食後と言うこともあり座学だったが、午後の訓練も残り半分という頃になるとまた外に出され基礎的な団体行動の訓練を行った。そして、日が沈み始めた頃に教官は最後のメニューとして日が沈むまで延々ランニングをせよと命令した。この国の軍歌を全員大声で歌わされながらのランニング、全員を二列縦隊にして走らされる。夕日が沈む頃には体力に自信のあるものすらヘトヘトだった。全員食欲も湧かないまま食事になり、無理矢理詰め込んだ。

ようやく臭い服から解放された俺が部屋に帰ると俺の、いや、全員のベッドが荒らされていた。


「こ、これが噂に聞く竜巻……」


「知ってるのか、ジョン」


「あぁ、教育隊で行われる伝統的洗礼のひとつ……完璧にベッドメイキングを済ませなければ今後もやられるとか……って、同期の可愛い子が言ってたのを耳にしたぜ」


「なんだ、お前の知識じゃないのか。が、まあ……とりあえずこれをしっかり直せばいいんだな」


そう思い自分のロッカーに手にかけようとするとドアがない。


「あーあ。君、ロッカーの鍵かけ忘れたんだね」


透き通った女の声、誰だと思い声のする部屋の出入り口の方を振り向くと。


水色の髪で肩にかかるくらいの長さ。目は黒に限りなく近い茶色

少し兵士になるにしては不安なくらい可憐で繊細な凹凸の少ない体。そして声に負けない美少女がそこに立っていた。


「僕は『ソフィア・ライブラリアン』。気軽にソフィアって呼んでくれて構わないよ」


「あっ、この子だ! この子が竜巻のこととかを話してたんだ!」


ジョンが美少女のソフィアを指差して大きい声で言う。


「そ、それでソフィアさん。何かご用ですか?」


マックスが割り込んできて尋ねた。


「今日の就寝前の自由時間、各部屋から一人来てもらって大会議室で話し合いをするからそれを伝えにね。出来ればリアム君だよね、君ともう一人だれか来てほしいな」


「じゃあ俺が行くよ。でも大会議室って、使って大丈夫なのか?」


マックスがあっさり引き受ける。こいつらコミュ力高くないか?それとも俺が低い?


「大丈夫。教官殿には許可を得ているよ。じゃあ、僕は他の部屋にも伝えてくるからまたあとで。あっそうだ。ロッカーのドアは教官室に預けられてるからそれなりの謝罪文考えてから取りに行きな」


 最後に俺にそう教えてくれるとスタスタと次の部屋に歩いていった。俺、もしかしてまた教官に怒られるのかよ。勘弁してくれよ。

重い足取りで教官室に向かう。教官室の前にはもう一人、入りずらそうにしている男がいて、どうやらそいつもロッカーの鍵のかけ忘れらしい。仲間ができて強きになった俺は教官室のドアを開けて、ロッカーのドアを返却してほしいと申告した。


「貴様、何故ロッカーに鍵をかけているかわかるか?」


「は、はい! ロッカーの中には御国から授かったものが入っているからです」


「足りん! もう一人! 他にはないか!」


「お、おす! 正式に軍人になった時には中に貴重な資料や重要な書類を持っていることもあるため、それらを盗難されないためであると思います!」


「よし! 貴様にはドアを返却する! リアム! 貴様はまだだ!」


このあとみっちり説教されて頭の中に施錠の重要性を嫌と言うほど叩き込まされて最後にドアで頭を叩かれて返却してもらった。ちょっとドアの鉄板が凹んでる……

「さて、みんなに集まってもらったのはこれから僕達に与えられるしごきを少しでも減らすために、今できることを全体で共有しようと思ったから。なにか意見のある人は手をあげてね」


 司会を務めるのはやはり美少女のソフィア。書記をしているのはソフィアと同室のアンネ・モーリスバッカ。身長は俺よりデカイ190センチ後半といったところでなんと同い年の19歳。癖のある赤毛で浅黒い肌の超大柄の女性だ。多分メスゴリラとかあだ名を付けられるようなタイプだ。でもこの人がいなかったらもしかしたら大会議室が大乱交会場になっていたのではないだろうか?ソフィアはそれに気付いていたのかはわからないが、今ここには大量の男とほんの僅かな女性がいて、みんなが大人しく席について意見を交わしている。


「はい、そこの君」


「今日のどっかの誰かさんみたいなことが起こらないように部屋のものでしっかりお互いの身だしなみを確認すべきだと思います!」


「うん、良い意見だよ」


「てか待てよ、何で本人が堂々と座ってるんだよ!お前のせいでこっちにも迷惑がかかったんだからな!」


突如近くに座っていたやつからの攻撃、やべぇよ、男どもの視線が俺に刺さりまくりだ。


「むしろ彼は恩人なんじゃないかな?」


ソフィアがこのバチバチとした空気のなかに助け船を出してくれた。


「基本的にこの教育期間の最初は理不尽な命令に耐えるために軍の訓練の中でも特段厳しい内容になっている。初日は特に僕達にその厳しさを身体に教え込むために例年厳しいと聞く。でも今年はリアム君が目立ったミスをしてくれたおかげでしごきの時間は彼に集中して、他の人たちは比較的少ないしごきでこれから僕達がどんなことになるのかを知ることができた。明日からは出来る対策をしっかり取らないとあっという間に自殺者が出てしまうかもしれない。だから、この時間を使ってるんだ。理解してくれたかな?」


「うす、ソフィアさんの伝えたいことはよくわかりました。自分は起床時間より少し早く起きてこっそり支度を始めるのはどうだろうかと思います!」


「う~んそうだね……起床時間より前に行動するのはもしかしたら危険かもしれないけど、身支度が間に合うようになるまではそうしてもいいんじゃないかな」


そんな感じで意見を交わして、消灯時刻になったので解散した。各自ルームメートに本日のことを伝えるように言われた。


「ちなみに、君を呼んだのは冒頭のあれをするためだよ」

と、部屋に帰る前にソフィアに言われた。


「ふぅー明日も頑張ろうな、リアム!」


「お、おう……お前ほんと元気だなマックス……」


そのときマックスは思っていた。何言ってるんだよ、あんな重りとか付けられてそれでもトップクラスの運動能力を持っているリアムに比べたら、俺は全然体力も元気も足りてない。もっと努力しないと、と。

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