02 東の港湾都市 イーストポートシティ
極力直接的表現を避けた性的表現がありますので御注意下さい。
2021/4/30一部修正
ソルジアの家に預けられた俺は二階に個室を与えられ、日々ガルシアに見張られて勉強をさせられていた。この爺さん隙が無さすぎる。もっと歳らしくボケていて欲しいものだ。夜は寝る前にこの国の歴史を聞かされる。この国の名前がフジミナル王国ということ。俺が今いる場所が北の都市ノースフォートレスシティであること。この場所も昔獲得した領土であること。ここより更に北には、仮想敵国ウォーブリッツ帝国があること。さて、今日は何を聞かされるのだろうか。
「よいか、今日話すのはこの国の近代の歴史じゃ。これは知っておかないと恥をかくだけじゃすまされないぞい」
今までのは知らなくても恥をかく程度なのだろうか?絶対そんなことは無いと思うが。寝る前なので俺はベッドに入り、照明は落とされている。そしてそこから何処にいるかもわからないガルシアの声に耳を傾ける。
「今の王は十六代目の王でな、この二つ前の十四世から話を始めよう。キング・フォウンダー十四世は歴代でもトップの帝国主義のお方だった。侵略により今の王都であり、かつての全領土フォウンダーグラウンドから現在東西に存在する港湾都市を獲得した。これにより国は海軍を保有出来るようになり、軍事費は戦時から更に膨れ上がった。戦争が終わればそんなものを更に作る必要はないと思っていた市民にとってそれは衝撃的だった。十四世は言った『先の戦争は序章に過ぎない。戦いのあとに平和があるのではない。戦いの後にあるのは次の戦いである。今はその束の間の休息に過ぎないのだ』と。五年後、今の南の都市であるサウスガーデンを獲得。更にその先にある大陸の最南端の国ナブリ共和国を侵略せんと戦争状態に入っている最中、そのどこまでも貪欲な行為に愛想の尽きた14世の妻が毒殺。十五世が王になった」
「自分の妻に殺されたのか」
「ああ。これによりこの国は大きな転換点を迎えることになる。十四世を見て育った十五世だが、彼は父の思想を嫌悪しており、完全平和主義を掲げ、ナブリ共和国との戦争も終結させた。その思想は戦いに疲れ果てていた市民に大いに歓迎された。しかし、完全平和主義を喜び歓迎するのは国内だけではなかった。フジミナル王国に大打撃を与えられたナブリ共和国は、再軍備の末に占領されていた地域の奪還に出た。完全平和主義を掲げる十五世により軍は解体され自警団が少々あるだけだった占領地は、簡単に奪還され更なる侵攻を許した」
「親子共々両極端だな。その人は何か言ってたのか?」
俺は十四世のような代表的な言葉を残しているものかと期待した。
「まあ、無いことはないな。ナブリ共和国の侵攻を受け、国の生活水準は十四世の時代より下回り、国民は王にこれからどうするのかと問うた。すると十五世はこう言った。『私達が完全平和主義を示し続ければ、相手も理解してくれるだろう。何故ならこちらは殴る拳を捨てたのだから。自警団も解体しましょう。きっと自警団があるから相手は攻撃を仕掛けてくるのです』とな。」
「バカじゃん。十五世ただのバカじゃん」
「まあ、仕方無いことなのかもしれんな。父の姿を見て嫌悪を抱き、母に何があっても父のようにはなるなと言い聞かせられ続けていたようだからな」
「十五世も十四世の被害者だってこと?」
「まあそうなるわい。そして、この言葉を聞いた国民は激怒し、元軍属を中心とした自衛組織が急遽設立。ナブリ共和国軍を撃退した。そして、革命を起こした」
突然現れた革命という言葉に、俺は興味を示した。
「即刻革命と呼ばれているが、その通りでまさに一瞬の出来事だった。親衛隊すら持たない十五世はあっさり革命軍に拉致され、公開処刑にあった。ちなみに当時十六歳だった現国王は父を見捨て逃亡していた。革命後、国のトップに立ったヒスト・エンドオブリーという男は十五世のせいで困窮した大量の解雇者を救う雇用問題、軍備の再生を図ったのだが失敗。そこで再びトップに立ったのがキング・フォウンダー十六世だった。たったの三年で王政は復活したのだ」
「具体的にそのヒストって人は何をしたの」
「自衛組織の設立、革命の立案者であり元軍人よ。彼の行った政策は再軍備と全国民強制雇用というものなのだが、これがまた出来が悪く、全国民強制雇用というのは雇う側からすればただの損な話で、無能な奴もクビに出来ない。その上給料は払わないといけないもんだから商売上がったり。そのせいで経済は回復せず再軍備の資金も調達できず。結局彼の行った政策は何一つ役に立たなかった」
「じゃあ、十六世はそんなどん底な国をどうやって立て直したんだ?」
「それを今から話すところよ。彼は王になるとまず、公共事業として国境線に大きな壁を立てようとした。これにより雇用問題を解決させようとするのだが、まずそんなことすら出来ないほどこの国の経済は低迷していた。そこで先に大規模な漁船郡と農場を用意した。三年後、食料の基盤が出来た国では経済活動がやっと上向きになってきた。国の資金力が増えてきたところで十六世は国境線に壁を作った。これにより雇用問題は解消。路頭に迷う者は激減した。経済も活発になり、今まで小規模だった軍隊を拡大していった。そして三十六年前、軍学校を各都市に設立。これにより毎年安定して軍事力を上げられるようになった。そして二十四年前、ここ、ノースフォートレスシティに存在した国を占領した。理由は人口密度解消にあった。経済が安定してきたことにより、餓死者が減り人口が増えていったのは良かったが。今の領土ではその全てを賄いきれなくなっていた。そしてこれは昔十六世が言った彼の理念なのだが……」
ガルシアがそれを言おうとしたとき、部屋のドアが開き光が入ってきた。誰かいるが急に眩しくなったのでよく見えない。
「『領土拡大とはヤドカリの如き行為である。今の体が手狭く感じたら殻を大きいものに変える。即ち領土を拡大する。自分に小さな殻を被り続ければ窮屈な生活を強いられる。つまり今のこの国のように人が溢れかえる。かといって、自分の体に合わないような大きな殻を持ってしまえば、外部からの干渉に弱くなる。領土を必要以上に広げることは国防力の低下を起こすことになる。手狭く感じたら丁度よくなる程度の領土拡大が望ましいことである』と」
声の主はソルジアだった。
「帰ったかソルジアよ」
「おかえりー」
「三日後、東の港湾都市であるイーストポートシティに用事が出来たから二人を連れていこうと思う」
「用事ってなに?」
と俺が軽い調子で聞くと、「軍事秘密だ」と冷静に返され教えてくれなかった。
「言葉で聞くだけではわからないこともある。折角だから見せてやりたいのだ。この国の光と影を」
「わしはこいつの見張りかい?」
「はい。私がいない間一人にするわけにはいきませんので」
「あいよわかった。おいリアム、さっさと出掛ける準備をせい!」
「予定は三日後なんだろ?明日用意してもいいじゃん」
「バカモン、あそこにいくにゃ馬車で二日はかかるんじゃ」
そうか、電車とか車とかは無いのか。不便な世の中だなと思いながら着替えを始める。
俺のいないところで二人はこう話していた。
「ガルシア。私が会議に出ている間に少なくとも軍港は見せておいて欲しい。私が戻る頃には夜になるだろうからそれまでに町の光の部分を見せるようにして欲しい」
「任しときんさい」
そして、日が出る前には馬車に乗り込み移動を開始した。馬車は最大四人乗りで、馬を操る人も含めれば実質五人乗りだ。馬の操作はガルシアがしており、中では俺とソルジアが向かい合って座っている。
「他の兵隊は一緒にいかないの?護衛とかで」
「それは教えられないが、少なくとも行くとしたら全員がバラバラになって行くだろうな」
これはいるということだろうか、それともいないけどいる風に言っているのだろうか。俺にはわからない。
「そういえば、この中には何が入っているの?」
と、俺は自分の横に置いてある大きめのキャリーバッグを指差す。
「それは正装だ。今の私はカモフラージュとして貴族風の衣装をしているだろう。あとで着替えるのだ」
そう。気になっていたのだがソルジアは今黄色がかったロングドレスを着ており、頭には顔が隠れるくらいの帽子を被っている。イメージに似合わずオシャレかと思いきや、まさか変装の類いだったとは思わなかった。その姿も美しいには美しいのだが、本人のことを知っていると素直に美しいと惚れ惚れ出来ない。さて、目的地に着くまでに通った町は俺達の住む町と比べ大分田舎という感想を持った。人は多いが溢れ返る程ではなく、大きい農場があったりして自然を感じる部分もある。
それに比べて目的地のイーストポートシティは、石造りの建物が密集しており自然を感じるのは海と川くらいのものだった。
「では、私は仕事へ行く」
それだけ言うとソルジアは歩いて行ってしまった。
「さて、じゃあわしらは男子なら大喜びの艦を見に行くとするかのう」
どんな艦かと思ったら、海賊とかそんな時代の艦に近いものだった。木造船で帆があって、横から大砲覗かせて、船の後ろに水車のようなものが取り付けてあるような船だった。あれがこの時代、この国の軍艦らしい。
「見てみい、あの一番デカイ船。『アドミラル・ジョーンズ』と言ってな、ひとつ前のこの地域の軍の司令官だった者の名が入っておる。ここの艦隊の旗艦で、大砲一二〇門全長七〇メートルにもなる超大型の船じゃ」
俺は船とかの知識があるわけでもないが、よく知られてる戦艦大和とか、護衛艦いずもなんて時代より遥か前の船で、教科書に乗るほど有名だという戦艦三笠よりも前の技術で作られているんだなということはわかった。
「東の方の艦隊には『キング・フォウンダー十五世』という時代の最先端を行くことをコンセプトに、鉄板を挟んで装甲を付けた船が旗艦をやっているのだが、今の機関の技術だと鉄は重すぎて足が遅い。わし的にはこっちの艦の方が好みじゃの」
「ふ~ん」
一応頭の片隅には入れときつつ、俺は海に浮かんでるその他の軍艦や漁船、輸送船を見ていた。
「はっきりいってこの国の造船能力は普通じゃ。決して低くはないのじゃが他の国はもっと先を行っている」
「えっ」
突然ガルシアはボソッと言った。
「他の国は装甲艦を新しい機関で運用しているという噂もある。ちなみにこの国のことを侮辱する発言を警察に聞かれれば、一般人なら酷い拷問を受ける。お前はまだ一般人なのだから気を付けな」
「ガルシアはどうなんだ?」
「わしゃ元軍人じゃ、それでも大声では言わんがな」
ここは恐怖で国を治めているのかと不安になった。その後港の市場を見たりしていると日が落ちて夜になった。
ソルジアが仕事から戻ってきて最後に見せるべき場所があるといい、再び港の方に移動した。
港は暗く、よくは見えなかった。ソルジアは何を見せたいのだろうか?
「船から降りてくる男を見ていろ、そのうち女がやってくる」
適当な男を観察していると、何人かの衣服がボロボロな女が男に群がった。
「あれは何?家族って感じでもないけど」
「売春だ」
ソルジアはさらっと言った。
「あれはこの国で働く場所を失い、住む場所を失った女達だ。体を売ることで何とか食い繋いでいるこの国の闇だ」
「国の闇…」
「表向き栄えていて活気のある国だが、堕ちた者を救われない。だから大人はどんな劣悪な労働だろうと受け入れ、社会から堕ちないようにしがみつく。働き手が欲しいから子を作るなんてことが出来るのは並みの収入を得てからだ」
これを見せられたあと、俺達は宿に向かった。さっきまで気付かなかったけど、細い路地では男と女が交じり合う音が微かに聞こえる。
宿に着くと、ガルシアは明日の帰りの支度をするといい早々に部屋から出ていき、ソルジアと二人きりになった。俺はベッドに寝かし付けられ大人しく寝ようと思っていたらソルジアが話を始めた。
「お前みたいな子供に見せるには刺激が強いこともあるかもしれない。だが、あれを見ずしてこの国のことを理解することは出来ない。実は、私も小さい頃あそこにいた」
「えぇ!?」
眠気なんて全て吹き飛んだ。こんな冷酷な雰囲気の人が売春をしていたなんて。
「少し話させてくれ。私は社会から堕ちた女の股から産まれた子供だった。普通そんな子供は殺されるのだが、本当に偶然だった。母性に目覚めた母に私は育ててもらえた。母は売春グループを纏める存在だったこともあって私は六歳になった。私は子供にしては色々と知りすぎていた。母は、口だけでいいから手伝えと私に言った。それ以来私の奉仕活動は増え、七歳になる頃には立派な収入源となっていた」
ソルジアの口か…なんて一瞬想像してしまったが我に帰った。
「ある日、出張で港に訪れた真面目な士官が海軍の友人に連れられて私の元に来た。幼い少女がこんな行為をしていることに胸を痛めた士官は、私を買い取った。しかし、そんな訳ありの子供が簡単に軍人の養子になることは叶わず、私は八歳から特別要成員として軍人になる為に育てられた」
そして今に至る。長話済まなかった。寝てくれ。そういってソルジアは俺に布団を被せ、自分は隣のベッドで寝てしまった。
驚き続きの一日だったが、興奮して眠れないということもなくぐっすりと眠れた。
翌朝から家に帰るために馬車に乗って再び来た道を帰ったのであった。
フジミナル王国 主な都市
北の都市 ノースフォートレスシティ
仮想敵国に隣接する現在最重要地域。
リアム達の住む都市であり現在最も兵力を強化している都市。
東の都市 イーストポートシティ
漁業の盛んな港を中心に発展した都市。海軍が統治している地域。航海帰りの男を狙った売春婦達が多い。
西の都市 ウエスタンネェイヴァル
国の最新鋭の船『キング・フォウンダー16世』を筆頭に強力な艦隊が集う都市。
漁業はイーストポートシティほどでは無いが栄えている。
海軍統治の地域。警備が厳しく売春婦は少ない。
南の都市 サウスガーデン
現在最も平和な都市。
陸軍統治の地域であるが海軍も存在する。
中央都市(王都)フォウンダーグラウンド
王が直接統治する都市。都市の境界全てに壁があり、出入りには手続きが必要。
都市内は親衛隊が監視しており、所属する者は万を越える。
王宮に隣接する形で親衛隊の拠点があり、何があっても王を守るという意思が出ている。