01 転生、運命の出会い
なろう初投稿作品です。
まだ馴れないこともあるのですがよろしくお願いします。
2021/4/30主に文の配置等を一部変更
高校受験で本気を出さず、結局どこの高校にも行けなかった俺は約二年間ニートをしている。親の最終勧告は月の恒例行事となり、俺はそれを全く気にしていなかった。のらりくらりと親の言葉を躱しながら、俺はこのまま死ぬまで親が面倒を見てくれるだろうなんて思っていた。
しかし、突如として俺の人生は終焉を迎えることになった。いつまでも働こうとする素振りを見せない俺に、母親の堪忍袋の尾が切れてしまった。俺は母に包丁で刺し殺されてしまった。
死んでしまった俺はそのままあの世に向かうことになった。辺りを見渡せば青空と雲、地面さえも雲。その上に当たり前のように俺は立っている。ここは天国だろうか? そのうち天使が来るのだろうか? 現れたのは神様だった。足まで伸びたロン毛に筋の通った鼻、見るものを安心させる優しい目をしている中性的な見た目の方だった。身長は日本の成人男性の二倍くらいの身長があり威圧的に感じないでもないが、その目を見るとその恐怖さえも和らいだ。
「あの、俺死んだんですよね?」
「ああ。死んだ」
「まさか地獄行きですか?」
「お主には審判の材料すら何もない。何一つ成し得ていない人生だったものだから地獄にも天国にも行けん」
神様は眉毛ひとつ動かさずそう言った。
「じゃあ俺はどうなるんですか!?」
「もう一度審判を行う」
「もう一度…審判?」
俺は眉をひそめた。一体何をすると言うのだ。
「もしかしたらお主のいた世界はお主には合わなかったのかもしれない。ならば他の世界に転生させよう。そこでの君の行いを見て、死後君の審判をしようではないか」
「他の世界に転生? まさかこのまんま転生なんてしませんよね? 無理ですよそんなの!!」
俺は上擦った声で神様に頼み込んだ。
「わかった。ならば君の願う力を授けよう。しかしこちらからもひとつ条件があり、私が君を転生させた理由を間違えて殺してしまったお詫びに特典付きで転生させたということにさせてもらう」
俺はその意味が全くわからず、何故か尋ねた。
「審判の存在を知った上で君の本質を見ることなど無理であろう。その為の措置だ」
俺はその理由に納得して二つの力を貰った。
それは『人類最強の肉体』と『異性にモテる力』だ。
「あと、悪くないルックスで頼むぜ! 出来れば外国人みたいに彫りの深いイケメンで!」
「図々しい奴だお主は。この僅かなやり取りから君の親が十年以上君を殺さずにいたことが既に善人のように感じてきたぞ」
「いや、人を殺した奴は悪人に決まってるだろ。それに実の息子だぞ?親が勝手に生んだのに養う義務放棄して殺したんだぞ? 許されるわけないだろ」
「君を見ていたら転生の必要性を感じなくなってきた。しかし神は発言に責任を取る。はっきり言ってこれ以上君と話したくないからもう転生させてもらうぞ」
俺の足元に三角形や円が重なったような魔方陣が現れた。
「君の親が死んだら天国に行かせようと決めたよ。さらばだ」
「待ってくれ!転生される世界は」
どんなところなんだ?と俺が言い切る前に、足元の魔方陣が瞼を閉じても貫通するほど眩しい光で俺を包んだ。
…………そして、再び目を開けた時には、既に別の世界にいた。
「んで、ここどこよ?」
周りを見渡すと西洋の雰囲気のある石やレンガ造りの建物が並んでいる。
自分の身に付けているものを見ると体を覆い隠せるほど大きなマント、その下には黒い上下の衣服、革のブーツを履いており腰には刃渡り80センチ程度の剣が携えてあった。周りを見ると似たような格好のものは居ない。この格好は少々浮いている。鏡が無いので自分の顔は確認できない。髪は短髪のようだし、触った感覚では鼻も高そうだ。まあそんなことはどうでもいい。折角転生させて貰ったんだ。死んでしまった前世の分も良い思いをする為に、早速俺のハーレム計画第一号となる記念すべき女性を探そうではないか!
街を歩く人を眺め、俺は飛びっきりの獲物を見つけた。腰のベルトのお陰で分かるスリムなボディライン。高身長で、衣服から露出した肌は健康的だが白く、腕も脚も筋肉質で引き締まっている。長く黒い髪は乱れる毛もなく艶がある。キリッとした目付きに鼻筋の通った美女。そして胸も中々大きい。
俺は人混みを避けながら早速彼女に接近し、肩を叩こうと右手を出した。
「へい! そこのかのっ」
カノジョと言い終わる前に俺の首には剣の先が突き突けられていた。
「貴様、私を誰だか知った上での行為か?」
「えっ……」
辺りには街の人々はいつの間にか離れ、回りを取り囲むようにしてこちらを眺めながらヒソヒソと何か喋っていた。
「あいつ、死んだな…」
「あぁ、どこのどいつか知らんがソルジア様に手を出そうなどと……」
俺はこの人の美しさに目が行きすぎて、衣服の中で異彩を放っている腰に携えてあった剣に今の今まで全く気付かなかった。
「貴様、この国の者では無いな?入国証を出せ!」
「にゅ、入国証?」
「まさか……不法入国者か!?ならばここで捕らえる!!」
訳がわからないが兎に角ヤバそうだと感じた俺は慌てて後ろに下がり剣を出した。
「ほう……私と戦おうというのか。面白い、相手になろう。周りにいる者は離れていろ!」
剣術なんて何一つ知らないけど大丈夫だ。俺にはこの最強の体があるんだ……負ける筈がない!
「うおおおお!」
俺は剣を振り上げ、剣を構えるソルジアに全速力で接近し渾身の力で剣を振り下ろした。
キィィィン! と、ほんの一瞬金属同士がぶつかり合う音がしたが、次の瞬間俺の剣は地面まで振り下ろされそこに刺さっていた。
しかし、地面に刺さった剣には血が一滴も付いていない。まさか避けられたのか。
「他愛もない……」
背後から氷柱のようなゾクリとする彼女の声が聞こえた。このままだと殺される。こんなところで死にたくない! 俺は剣を地面から引き抜くことも忘れ慌てて前方に逃げ出す。自分でも驚く程の速さで走り出し彼女の攻撃を避けることができた。
「あいつ、なんて野郎なんだ。ソルジア様の攻撃を避けやがったぜ」
近くの建物の二階から俺達の戦いを観ていた男がそんなことを漏らしていた。あいつそんなに強いのかよ! とんでもない女に話しかけてしまったぜ。てかモテる力どうしたんだよ! 最強の肉体のハズなのに勝てないし……状況は最悪だ。俺の剣は地面に突き刺さったまま彼女の前に放置されている。俺は丸腰、万事休す! こうなったらさっきの超スピードで走ってタックルを仕掛けて、押し倒した隙に剣を取るしかない! 早速実行に移し、猪の如き速さで俺は突っ込んだ。
……しかし、俺渾身のタックルは彼女にあっさりと躱されてしまった。
その時、俺に光の如き早さで名案浮かぶ。そうだ、このまま逃げてしまおう! 自分の名案に感心しながら俺は直進を続けた。俺がこのまま逃走しようという意図に気付いたソルジアが走って追ってきた。
「貴様、待て!」
そんな言葉で「はいわかりました」と、ピタッと止まるわけもなく俺はただひたすら逃げようとした。逃げようとしたのだが、俺はこの身体に馴れていないのを忘れていた。
馴れない靴を履いたなら、靴擦れ程度で済むかもしれない。しかし、馴れない身体となると夢の中で逃げようとしたときに少し似ていた。恥ずかしい話、恐怖と不馴れさから上手く逃げられず転倒してしまったのだ。さっきまでは偶然上手く扱えてただけだった……俺が起き上がるとソルジアはもう追い付いていた。
「自ら因縁を付けておきながら逃げ出すとは情けない。恥を知れ」
後頭部に剣を突き付けられ一貫の終わりかと思ったその時、ソルジアが少しの間黙って何か考えているようだった。
「(そういえばこいつは動物的な身体能力の割りに剣術は素人だった。それにこの変な格好。まさか……)貴様、どこの国の者か言え」
突然の質問に驚いた。
「国?そんなの知らないです!」
「名前は!」
「(この世界では)ないです!」
「両親は!」
「知らないです!」
「……まさかとは思ったが、貴様森育ちか何かか? もしそうなのだとしたら……」
ソルジアは何かを考え込んでいる。何が起きてるかわからないがこれはチャンスだと思い、俺は然り気無く亀ほどのスピードでそっと、慎重に、この場から離れようと動き出した。
「そこから動くな」
当然ばれた。
「(最初は殺気を隠してた暗殺者か何かの類いと思って戦ったが、どうやら殺気など微塵も持ってない。それにしても、先程から妙に鼓動が早いな……大した運動量にはなっていないはずなのに……)」
あれ、何かこの人顔赤くないか?色白の肌だから少し顔が火照るだけでも分かりやすいだけだろうか?
まさかさっきの戦いで体力が結構削られてるんじゃ無いか?だから今体力回復の為にここで止まっているのかもしれないな。ならば逃げられるか?
「おい」
「っ!?はっはいぃっ!」
俺が足を一歩動かそうとした瞬間に喋られたものだから、ソルジアの低く鉄の様な冷たさを感じる声に対して、俺は声が裏返り情けない声で返事をしてしまった。
「貴様を生かしてやる。但し、私に付いてこい」
「ちなみに拒否権は…?」
「そんなものは無い!」
それなら始めから聞くなよと思う。俺は縄で手を後ろに結ばれ目隠しもされて何処かへ連れてかれた。
……目隠しを解かれ俺の目に入ってきたものは、大きな門の前に鎧を着込んだ兵士が二人左右に立って警備している建物だった。
門を開けるとさらに多くの兵士が左右に並んでソルジアに向かって敬礼をしていた。そして、灰色の石や煉瓦で出来た砦が中央にそびえ立っていた。その中に入り最上階にある分厚い木の扉の前に立たされた。
「ここは何の部屋ですか?」
「私の上官に当たる、第一旅団第二連隊の連隊長ブレイデン中佐の執務室だ。貴様、無礼な真似は許さんぞ」
俺は恐る恐るソルジアの後ろに付いていき部屋に入った。
部屋をキョロキョロと見ると、左目が潰れている中年の男性が書類に挟まれる机の間から見えた。
「少佐か、何用だ?」
「はい…実は町で………」
ソルジアは俺と会ってからのことを事細かに話した。
「ふむ、町で出逢ったそこの住所不定身元不明男の身柄を拘束したと。で、その男をどうしたいというのだ」
「私の見立てですが、彼の身体能力は軍の戦力になるかと…」
「貴官の目は信用できるが、半年前に今年の入軍試験は終わっている。来年の入軍ではダメなのか?どうも急ぎすぎな気がするが」
「私は戦力になるものを早く育てたいだけです。隣国との戦争がいつ始まるかもわからない今、私としましては」
ブレイデン中佐は小さく溜め息を吐いた。
「どうやら町で風邪でも移されたようだな。今日はもう下がりなさい。その男のことは君に任せるが、軍に入れるなら来年正式にだ。わかったか?」
「………わかりました。失礼しました」
ソルジアは顔を下に向けたままそう言って部屋を出ていった。
俺も急いで後を追おうとするとブレイデン中佐に呼び止められた。
「驚いたな。あの子の心を動かすとはな……一体君は何者なのだ?」
俺は返答に困ったがこう答えた。
「やっぱりあの人、俺に惚れてます?いや~自分モテやすくて……」
わざとらしく頭の後ろを手で掻きながらそういって立ち去った。
「まあ、そういうことにしといてやろう」
ドアを開けるとソルジアが目の前で待っていた。
「何を言われた?」
「イケメンだなって」
「貴様、嘘をつけるのだな」
それ以上言及はされなかった。
次に連れてかれたのは施設内にあるソルジアの部屋だった。
「さて、暫くはここに住んでもらうことになるな。明日からは来年の入軍試験に向けて勉強をしてもらうぞ」
「うげっ勉強!!?」
俺が一番嫌いなものだ。だから高校には落ちたし就職もしなかったわけだ。
「貴様の命は私が預かっている状態だということを忘れぬようにな」
ソルジアは剣を抜く素振りを見せ脅してきた。それにしてもおかしい。俺は最強の肉体を貰った筈なのに何故彼女に勝てないんだ。モテる力は発動しているようだけどこんなはずじゃなかったと言いたくなるような結果。幸先悪すぎはしないか?
「とはいえ、貴様を奴隷のように扱おうとは思わん。どちらかと言えば…家族のように扱うつもりだ」
「それは夫婦みたいな関係?」
「馬鹿か! 精々親と子のような関係だ」
クールで無表情な顔が真っ赤になり、大声でそう否定した。
「じゃあご飯つくってよママ~」
俺はその顔が面白くなり調子に乗ってもう少しからかってみようかと思った。
「ママだと?普通に名前で呼べ。いいな?」
「はーい」
今のに怒ってご飯無しかと心配もしたが、ご飯は出してもらえた。
一人用のテーブルに強引に二人分の食器を起き、椅子は俺に貸してくれたのでソルジアは空気椅子。本人は鍛練だと言っている。出された食べ物は、パンにチーズと豚肉を挟んだものと、飲み物にミルクだ。俺が予想していたのは歓迎としてメチャクチャ豪華な料理が来るか、ダークマターのようなゲロ不味料理の二択だと思っていただけに少々戸惑っていた。
「軍人に必要なものは肉だ。肉体を作ることが仕事の第一歩だ。さあ食え」
「い、いただきます」
勿論こんなシンプルなものが不味い筈もなく、普通に美味しかった。
「どうだ、旨いか?」
「まあ、普通に美味しいです」
「普通……か。まあそれならいい。それにしても、最初は山育ちか何かかと思ったが、言動を見る限り最低限社会的文明のある場所に居たのではないか?」
「そうなのかもしれませんね」
俺はテキトウにその話題を躱そうとした。
「隠し事が多そうだな。だがこれだけは教えてくれないか?」
「何です?」
一瞬、俺の口の中のモグモグとした音が鮮明に聞こえるほど静かな間が生まれた。
「名前は、なんだ?」
捕らえられた時に一度答えた質問だ。
「本当に無いんですよ」
「ならば、名前を決めねばな。そうだな……」
ソルジアはミルクを一口飲み、容器を置いた。
「リアム・ウォード・フォスター。どうだ?」
「リアム…」
言われた名前を呟いた。元からそうだったかのようにその名前が自分にしっくり来たのだ。
「良いですね!」
ソルジアは微かに口角が上がり嬉しそうに「そうか」と答えた。
「私はほぼ毎日訓練がある。私がいない間、その日を悔やむことのない生活をしているのだぞ。あと、悪いが今日は適当に寝てくれ」
「はーい」
付きっきりで面倒を見られるのかと気が重かったのだが、どうやら自由な時間は沢山あるようだ。ところで、俺は床に雑魚寝のようだがソルジアの寝るそのベッドに一緒になんてダメなものですかねぇ?
「ダメだ。起床時間が早いので私はもう寝るぞ。私が起きたらリアムも起こす。今までどんな生活リズムだったかはわからんが私に合わせて貰うぞ」
早寝早起きなんていつ頃からやってないだろうか。少なくとも中学生の時は遅寝遅起き授業寝るの三拍子だったからな。嫌な予感しかしない…………
嫌な予感は当たった。翌朝、俺を揺すって起こそうとしたが起きなかったらしく、時間の無いソルジアは剣の柄で俺の頭を叩いた。流石に俺はその痛さで起きたのだが、朝食の時に「誰かの気配ですぐ起きれないようではダメだ」等々散々言われた。ソルジアはもう着替えており、こう自分の想像してた全身ガチガチの金属プレートで固められた鎧のようなものではない。頭部の防具は着けてないようだがチェーンメイルと言うらしい。なんでも、動きやすく防御力も優秀なのだとか。
「さて、私はもう出るぞ。私がいないときに私の書斎に入ることは認めん。決して入るな。わかったか?」
ソルジアはまた腰に携えた剣を抜くような素振りを見せ脅してきた。
軍のお偉いさんなので機密とかの資料があるのだろうか。そういえば、俺の剣もそこに持ってかれたままだ。返してくれないのだろうか。
「昼食はテーブルに出してある。適当な時間に食べてくれ。学習用の書物も一緒に出しておいた。以上、質問は?」
「外出してはダメですか?」
「ダメだ。いや、無理だな。部屋の中だから忘れたのか?ここは基地の中。お前一人では出れん」
忘れていた。そういえばここはこの国の軍の施設内じゃないか。
ところで、ここってどういう国なんだ?俺はまだ、なにも知らないじゃないか。まあ、夜にでも聞くか。
「では、行ってくる」
ソルジアが居ぬ間に……と俺は転生前のような自堕落な時間を過ごさせて貰った。ゴロゴロしながら昼食を食べたり、昼寝したり……この部屋、生活に必要なもの以外ろくに無いものだからすることが無い。でも勉強はしたくなかった。外からは大声で叫ぶ男達の声が聞こえる。一体何の訓練なのだろうか?その声に耳を傾けていると長い時間が過ぎていたようで、声が聞こえなくなってくると暫くしてソルジアが帰ってきた。
「帰ったぞ。さて、どれくらい勉強した?」
勉強なんて一ミリもしてない。そんなことを言えば間違いなくヤバイ。ヤバイとわかっててやらないからあんな人生を送ったわけだが、逆にここでふとニート特有の名案が浮かんだ。
「俺、喋れるけど文字わからない」
「……そうか…………その段階から教育を受けていなかったのか……それはすまなかった」
通じた。実際はページすら開いてないから読めるかもしれないが、これで読めたらまあ読めないフリで乗りきろう。
「では私がいる間は読み方を教えていこう。それまでは室内で鍛練するようにしてくれ」
この国のこととかを聞くのを忘れた。まあいいか。明日聞こう。
その後三日に渡り文字の読み方書き方を教わり何となく理解した。やはり聞く話すが出来る状態から入ると覚えやすいのだろう。ちなみに昼間は部屋でダラダラと過ごしている。バレてないようで何よりだ。俺はソルジアが買ってきてくれた簡易式のベッドに寝転がりながら、明日からはどうやり過ごそうか考える。さすがに本に一切触れてないのがバレたら大変なことになるだろうな。
と、寝る前思っていたのだが……ニート生活の身に染みた俺の精神はいとも簡単に怠けていた。ソルジアが帰ってくるまでずっと。
「貴様っ……まさかこの四日間全て怠けていたのか?」
「い、いやそんなことはないです……」
「そんな小声で目も逸らしてよく本当だと信じてもらえると思ったな。忘れるな?お前の命は私が預かっているのだ」
初めてあった時の鋭い目付きで俺を睨み付けた。
「は、はい!」
「信用ならんな。今後対策を取らせて貰うぞ」
ソルジアは表情こそいつも通りだが明らかに怒っていた。いつもならチェーンメイルを脱いだあと地面に丁寧に置くところを、今日はジャラジャラと音が鳴っている。俺はいつも呑気に怖いけど美女なソルジアの生着替えを拝んでいるのだが、流石に今日は怖くてやめた。
「食事にする。食器の用意をしておけ」
「はい!」
俺は恐怖で手を震わせながら食器をテーブルに運び「違う、そこではない」とキッチンに持っていった。そうだ、まだ食べ物を入れてないじゃないか。怖くて冷静な判断が出来ていない。今日のご飯はシチューだった。そういえば、この世界の食べ物はこっちの世界と同じだなと今更ながらに思う。そのお陰で舌が慣れるまで苦労するなんて事もなかった。
次の日ソルジアが帰ってくると荷物をまとめるように言われた。俺はまさか昨日のことで追い出されてしまうのかとヒヤヒヤしたが、俺をこの部屋からソルジアの自宅に引っ越しするようだ。要塞を出て馬車で十分、街中にあるソルジアの自宅に着いた。
「階級が高くなると責任が大きくなる。もう毎日帰れるような場所では無くなったのだが、ここにはお前を毎日見張ってくれる人がいるからな」
俺は信頼されるようになったから外に出してもらえたのかと思っていたのに、むしろその逆で四六時中監視をするためだと知りガッカリした。ソルジアはドアを三回ノックして「私だ。今帰った」とドアに向かって言った。住み込みのメイドでも居るのだろうか?
「あいよー今開けるぞい」
可愛いメイドさんでは間違いなくない。しわがれた爺さんの声が中からした。
「おぉお帰りソルジアよ。ん、そこの男は誰だい?」
ドアを開けて出てきたのはやはり爺さん。それも、頭頂部は禿げ上がり、回りの髪と口回りの髭は伸び全てが白くなっている。目はまるでおかめのように垂れて、顔全体の笑いシワがこれでもかというほど目立つ。
「紹介する。私の養子となったリアム・ウォード・フォスターだ。動物並の身体能力を持っている」
「ほぉう、なるほどねぇ確かに磨き甲斐のある原石じゃわい」
「どうも……」
「リアム、この人はかつて私の所属していた部隊の隊長をされていた『クァーン・ガルシア』さんだ」
「なぁに、現役は十年も前の話じゃないか。わしゃもう年だよ」
俺はこの爺さんならもしかしたら勝てるんじゃないのか?と思った。そしたら、それを見透かしたかのようにガルシアさんが言った。
「好きなタイミングで掛かってきなリアム。ソルジアよ、剣を貸してやってはくれんか?」
「貴方の剣捌きが久し振りに見れるなら是非」
「決まりだな」
今は空も薄暗く、人通りも少なかった。路上で剣を構える男が二人、最強の体の俺と爺さんの一騎討ち。勝てる!ガルシアは長さはこちらと同じ程度の剣を構えたまま微動だにしない。待っていても仕方無いと俺は剣先をガルシアに向けて突っ込んだ。コンマ何秒という世界だろう。俺の剣先はガルシアが剣の刃の部分を横にして攻撃を受け流し、俺の体は勢いが止まらずそのまま受け流した剣の刃に突っ込んでしまった。死ぬと思った瞬間にガルシアが剣を引いてくれた。
「なるほど、技術はからっきしと言うわけか……」
キリッとした口調でそう言われた。
「私がいない間、そいつの面倒を見てほしい。剣の技術は教えなくていいから学問を教えてほしい」
「あいよわかった。老人の暇潰しには丁度ええわい」
ハッハッハとガルシアは笑った。何で勝てないんだよ!俺の体は最強なんじゃないのか!!
こうして、幸先の悪い俺の第二の人生が始まった…………
まだ説明されてないことに関しては後々の話で紹介していこうと考えています。