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天下五剣  作者: きりまさ
2/18

第二話「連戦! 無間衆の陰謀」

 《読まれる前に》

 配信等で使用される場合は「作者名〔きりまさ〕」「使用台本の名前〔例 天下五剣第二話 等〕」「使用台本のURL」を明記の上、ご使用ください。

 詳細は台本規約(http://kirimasamixer.blog.fc2.com/blog-entry-97.html)をご覧ください。


男:3 ヤスツナ、ムネチカ、イクビ

女:2 シノギ、末喜ばっき

不:3 クニツナ、ツネツグ、ミツヨ


 ※前話同様、クニツナとツネツグ、ミツヨは少年の為不問としています。

 シノギは便宜上女声としています。

 末喜のみを女声とし、♂7:♀1とするパターンや、

 上の4人とムネチカを少年声や中声で担当し、♂2:♀6とするパターン等、

 自由に設定して頂き、芝居をしてOKです。


配役表(コピペしてご使用ください)

〈数字はセリフ数〉

クニツナ〈53〉:

ツネツグ〈48〉:

ヤスツナ〈41〉:

ムネチカ〈38〉:

ミツヨ〈5〉:

イクビ〈38〉:

シノギ〈8〉:

末喜ばっき〈18〉:

 時は幻想戦国時代。

 ヤスツナの道場内、正面の大庭。

 修行の旅に出たはずのムネチカは、無間衆八逆鬼の傘下に加わっていた。

 ムネチカの後ろには、作務衣を着たイクビが、気を失ったクニツナとツネツグの襟首をつかんでいた。

 その反対側には、シノギとミツヨがうずくまっている。

 人質を取られたヤスツナは無為に動けず、ただムネチカと対峙するばかりであった――



ヤスツナ「ムネチカ……」


ムネチカ「どうしましたか兄さん、顔色が優れないご様子ですが」


ヤスツナ「お前、自分が何をしているのか……」


ムネチカ「勿論もちろん解っていますとも。これはみそぎです」


ヤスツナ「みそぎだと?……」


ムネチカ「私は、目が覚めたのです。兄さん、あなたは間違っている。闘身とうしんとはすなわち闘争心、()いを求める()。兄さんの言う侍の魂、人の魂などは綺麗事に過ぎない」


ヤスツナ「……」


ムネチカ「だから私は粛清する……闘身とうしんまことに辿り着けぬ師とたもとを分かつ為、過去というけがれを断つ為!」


ヤスツナ「ならば……その質草しちぐさの様なクニツナたちは何だ……それもお前の心か!」


ムネチカ「これはほんの余興ですよ。一番弟子を『はいそうですか』と殺せる兄さんでは、“まだ”ありますまい」


 ムネチカが指で合図すると、イクビは笑みを浮かべながらミツヨの背を踏みつける。


イクビ「ヘッ……そら!」


ミツヨ「ぐはっ!」


ヤスツナ「ミツヨ!?」


ムネチカ「さぁ、兄さん……私と闘ってください。さもないとミツヨの背骨が砕けますよ――そうして兄さんと闘い、兄さんを殺せてこそ、私はまこと無間衆むげんしゅう八逆鬼はちぎゃっきとなれる」


ヤスツナ「ムネチカ……」


 童子切を静かに抜き始めるヤスツナ。

 シノギから声が上がる。


シノギ「い、いけませんっ……ヤスツナ様……!」


ヤスツナ「シノギさん!?」


シノギ「闘身とうしんを、納めてくださいませ……どんなに身を落としても、ムネチカ様は、ヤスツナ様の……」


イクビ「コイツ……黙ってろ!」


 立ち上がろうとするシノギの頬を叩くイクビ。


シノギ「あっ!」


ヤスツナ「シノギさん!!」


イクビ「……ムネチカ、本当にいいのか」


ムネチカ「無論だ――何なら弟たちはお前に斬らせてもいい」


イクビ「……ほう?」


ムネチカ「斬りたいのだろう? 私に付き合ってくれた礼を、少しばかりでもせねばなるまい」


イクビ「クッ……ハッハッハッハ! しからば、先に斬らせてもらおうぞ!」


ムネチカ「ふふふ……」


ヤスツナ「……ん?」


 何かに気付くヤスツナ。

 イクビは自身の佩刀『金切かなきり』を抜き、ミツヨの首に狙いをつける。


イクビ「まずは、貴様だ!」


ミツヨ「くうっ……ここまで、か……!」


シノギ「ミツヨ!!」


クニツナ「鬼丸おにまるぅう!!」


ツネツグ「数珠丸じゅずまるっ!!」


 刹那、気を失っていたはずのクニツナが鬼丸を抜き、イクビに拳を見舞う。

 油断していたイクビは鬼丸の拳を顔面に浴び、壁に激突する。


イクビ「ぐおおぉっ!?」


ムネチカ「ぬっ!? しまった――」


ツネツグ「ミツヨ、しっかりしろ!」


 イクビの手から放れ、自由の身になるクニツナとツネツグ。

 ツネツグは数珠丸にミツヨを掴ませ、距離を置く。


ヤスツナ「クニツナ、ツネツグ! よしっ!」


 シノギの下へ駆け出すヤスツナ。

 シノギを救い出す。


シノギ「ヤスツナ様――」


ヤスツナ「シノギさん、どこか痛むか?」


シノギ「私のことは――それよりも」


 ミツヨを介抱するツネツグ。


ツネツグ「……ミツヨ、ミツヨ!」


ミツヨ「ツネ、ツ――」


ツネツグ「よかった……」


ミツヨ「む、無念です……それがしも、それがしも……」


ツネツグ「もう喋るな。すぐに手当てしてやるからな」


ミツヨ「……」


ツネツグ「ミツヨ? ミツヨ!」


ヤスツナ「大丈夫だツネツグ、死んじゃいない」


ツネツグ「兄上……?」


ヤスツナ「ふ……こんな兄は、いささか奇妙か?」


ツネツグ「い、いえ、ですが――」


クニツナ「おいおいおい! 何なんだよこれ!? ……何だかよくわかんねーけど! おっさんにも……誰にも、皆は殺させねぇぞ!?」


シノギ「クニツナ……」


ムネチカ「クニツナ、そしてツネツグ……見ぬ内に勇ましくなったものだ。このムネチカ嬉しく思うぞ」


ツネツグ「ムネチカ……様」


クニツナ「お前はムネチカじゃねぇ!」


ムネチカ「むっ?」


クニツナ「お前は、ムネチカじゃねぇ。ムネチカが俺たちを殺そうとするはずがねぇ! そんなムネチカ、ムネチカじゃあねぇ!」


ムネチカ「クニツナ、お前にも解る日が来る。闘身を使う事の愉悦ゆえつが……闘いたくなる衝動が!」


クニツナ「うるせぇえ!!」


 ムネチカに跳びかからんとするクニツナと鬼丸。その時――


末喜「みぎゃああああああああ!!!!」


クニツナ「ぐああああっっ!!」


ツネツグ「うああああっっ!!」


シノギ「あぁああっ!!」


ヤスツナ「な、なんて……声だ!」


 劈く様な奇声の後、喧しい高笑いが道場に響く。

 大陸風の着物に身を包んだ、足の無い貴族の様な女――末喜が上空に現れる。


末喜「やぁだったらも~~! アタクシに黙って面白しょ~~なコトしてるじゃごじゃりませんコト~~?」


イクビ「ヘッヘヘヘ……抜いた……抜いてやったぞ『金切かなきり』をぉ……」


ムネチカ「相も変わらず奇特きとくな闘身よ……『金切かなきり』にきし闘身『末喜ばっき』」


クニツナ「み、耳が裂けそうだ……」


ツネツグ「ぅ……ぐ……なんだ今のは」


ヤスツナ「……皆、無事か?」


ツネツグ「頭がガンガンする……」


クニツナ「!? ツネツグあぶねぇ!」


ツネツグ「えっ?」


末喜「ひゃあああっ!!」


 ツネツグに飛びかかる末喜。構えが間に合わず、吹っ飛ばされるツネツグ。


ツネツグ「ぐあっ! がはっ!」


ヤスツナ「ツネツグ!」


クニツナ「この野郎! 名乗りもしねぇで向かってくんじゃねぇ!」


末喜「アタクシは野郎じゃ~~ごじゃりませんでよぉ~~? アタクシの名は末喜ばっきうるわしき高貴こうきの生まれでごじゃりましてよぉ~~?」


イクビ「そして我こそは無間衆むげんしゅう八逆鬼はちぎゃっきぎゃく不義ふぎのイクビ!」


ヤスツナ「クッ……無間衆むげんしゅう八逆鬼はちぎゃっきが二人も……!」


ムネチカ「イクビ、クニツナたちはお前と末喜ばっきに任せる――しくじるなよ?」


イクビ「フンッ、たかが小僧二人、屁でも無いわ」


ムネチカ「……さぁ兄さん。ご自分の身を案じてください……私は殺しますよ?」


ヤスツナ「たあっ!!」


 凄まじい踏み込みでムネチカに斬りかかるヤスツナ。受け止めるムネチカ。


ムネチカ「!!」


ヤスツナ「如何いかに弟子といえど、魔道にちた者に情けはかけん」


ムネチカ「……その意気ですよ兄さん……それでこそ、張り合いがあるというものです!」


ヤスツナ「おおおおっ!」


ムネチカ「はあああっ!」


 鍔迫り合いの態勢のまま、道場の敷地の奥へと跳ぶムネチカとヤスツナ。

 追おうとするクニツナ。


クニツナ「!? 兄貴! ムネチカ!」


ヤスツナ「来るなクニツナ! お前はツネツグと共に、ミツヨとシノギさんを守れ! 二人でならば、お前たちならやれる!」


 クニツナたちの視界から消えるヤスツナ。遠くより剣の音のみが聞こえる。


クニツナ「!? お、俺が……?」


 クニツナが向き直ると、そこには既に立ち上がっているイクビと末喜の姿があった。


イクビ「フッフッフッ、怖いか小僧? 貴様らは我に刻まれる運命ぞ」


末喜「アタクシも、むしゃ~~い男よりかは、ボクちゃん達をいたぶろうかしら~~ん?」


 末喜の恐ろしい本性が顔に浮かび上がる。


末喜「悲鳴を聞かしぇてちょ~~だぁい? ほ~~っほっほっほ!」


クニツナ「っぐ……」


ツネツグ「クニツナ……行くぞ」


クニツナ「ツネツグ――」


ツネツグ「何が起きたのか、起きているのか、正直ぼくにもよくわからない……でも、ぼくたちはこの日の為に稽古をしてきたんじゃないのか?」


 佩いていた木刀を構えるツネツグ。

 それに感化され、木刀を持つクニツナ。


クニツナ「……」


ツネツグ「闘身とうしん使つかいとして……侍として……兄上やムネチカ様のような人になる為に……」


クニツナ「! ……あぁ、やってやろうぜ……! ツネツグ!」


ツネツグ「あぁ!」


 その目に迷いはなく、イクビと末喜の前に躍り出て、口上をあげるクニツナ。


クニツナ「やいやいやい! 聞いて驚け! 俺の名はクニツナ! 剣は木刀、めいは『かし』! 振るう闘身とうしんは、鬼丸おにまるだ! お前の禿げ頭、滅多打ちにしてやる!」


 同じく構えを取り、名乗りをあげるツネツグ。


ツネツグ「我が名はツネツグ! 剣は木刀『山桜やまざくら』! 舞うる闘身とうしん、銘は『数珠丸じゅずまる』! 如何いかなる者でも、容赦はしない!」


イクビ「ハーッハッハッハッハ! これはこれは面白い小僧こぞう歌舞伎かぶきだ。拝観料は……貴様らの生き血で払わせてもらおう……かぁっ!!」


末喜「ひょ~~っほっほっはぁっ!!」


 イクビと末喜、それぞれクニツナたち目掛けて駆け出す。


 クニツナはイクビの方へ駆け、末喜とは距離を取る。一対一に持ち込む手筈の様だ。


クニツナ「ツネツグ! 禿げのおっさんは俺がやる!」


ツネツグ「なっ……!? 一対一だって!? クニツナ、それは――」


 言い終えず、ヤスツナの言葉が反芻される。


ツネツグ「いや、ぼくは、お前を信じるぞ……なら、ぼくは妖怪を!」


クニツナ「頼んだぜ!」


ツネツグ「任せろ!」


 末喜の方へ駆け、イクビと距離を取るツネツグ。

 戦いはクニツナ対イクビ、ツネツグ対末喜の様相となった。


末喜「しっつれ~~ねぇ~~ん!! 妖怪は訂正しなっしゃあぁ~~いっ!!」


 ツネツグへと体当たりを見舞う末喜。


ツネツグ「舞え! 『数珠丸』!」


 ツネツグ、数珠丸を抜くが一足遅く、末喜の発声を許してしまう。


末喜「しょ~~んなとろくしゃい動きじゃ、アタクシは捕まりましぇんことよぉ! ひゃあああああっ!!」


ツネツグ「ぐあああっ!! ……ぐあ、ああっ!?」


 大音により耳を塞ぎ、のたうち回るツネツグ。苦痛の表情を浮かべる。


末喜「耳が裂けましゅかねぇ~~? そのままのたうち回ってくれると、アタクシと~~っても幸せになれましゅ事よぉ~~?」


ツネツグ「ぐ……どうする? どうすれば? 近付こうと離れようと、あの奇声を発せられると動きが止められてしまう……ならば」


末喜「しょ~~考えると思いましてよぉ?」


ツネツグ「しまった……!! こんな近くまで!?」


末喜「しょれっ!」


 ツネツグの目に絹が巻かれる。

 取ろうともがくが、絹は取れない。


ツネツグ「ぐあっ! 目、目があっ! ぐうっ!?」


末喜「耳を塞いで~~アタクシの声を聞かない戦法に出ようとしたって無~~駄でごじゃりましてよぉ……ボクちゃんたちの悲鳴は、ボクちゃんたちにも聞かしぇましぇんとねぇ~~え?」


ツネツグ「み、耳を塞げば、完全な闇……そんな中で、戦えるはずが……!!」


 だが、そこに今度はムネチカの言葉が蘇る。


ムネチカ『闘身の色が、見えるのだよ』


ツネツグ「闘身の、色……」


 ツネツグ、焦燥と恐怖の中から精神を研ぎ澄ませる。

 すると、ぼやあっと人の姿が右前方に見えてくる――数珠丸だ。


ツネツグ「数珠丸が……える……闇の中で、ぼくを案じてる……大丈夫だ、数珠丸……今のぼくには、お前が視えるぞ。そして……あいつも闘身……闘身故に――」


末喜「何やらぶちゅぶちゅと、念仏はまぁ~~だ早くてよぉ!?」


ツネツグ「視える! 舞え! 数珠丸!」


 数珠丸が応じると、自身の周りに花を散らす。扇で末喜を差すと、花は末喜の口の中へと飛び込んでいく。


末喜「むぉごがぐぐっ!? は、はにゃがぁ~~?」


ツネツグ「さっきの金切声は、かなり効いたぞ……行くぞ数珠丸! 演舞開演!」


 数珠丸、袖から鞠を出すと空中に投げる。


ツネツグ「数珠丸演舞、宿雨しゅくうの舞!」


 数珠丸が投げた鞠が回転しながら空で留まり、それを足場の様に使って数珠丸とツネツグが空中の末喜に向かっていく。花を吐き出す末喜。


末喜「ぺえっ! な~~んていつまでも苦しがってると思いましてぇ? ひやああっ!!」


 袖からいくつもの絹の帯を放つ末喜。

 ツネツグは山桜で打ち払い、数珠丸は手に持った短刀で絹を切り裂いていく。


ツネツグ「数珠丸演舞、時雨しぐれの舞!」


末喜「ひやああっ!? 私のきぬがああっ!? あぁ、でもこの絹を裂く音がまた快感……」


ツネツグ「数珠丸演舞、驟雨しゅううの舞! たぁっ!!」


 ツネツグ、数珠丸の肩を使い、跳躍する。

 数珠丸は持っていた短刀を扇で隠すと、手品の様に一本の打刀に変える。


ツネツグ「一閃いっせん!」


 ツネツグが山桜で脳天を打ち、数珠丸が下段から一気に切り裂く。


末喜「ワ、ワタクシは、末喜……麗しき高貴の……みぎゃああああああああ!!!!」


 奇声を上げながら、萎む風船の様に地に堕ちていく末喜。


ツネツグ「はすに吹き 伸びる草木も 天を知り いわんや人も 道をぞ知らむ……ぼくだって、兄上たちの教えがわからない訳じゃない」


 ツネツグ、山桜を静かに納刀し、数珠丸もツネツグへと納まる。


ツネツグ「ありがとう、数珠丸……」


 その頃のクニツナとイクビ。

 睨み合ったまま、動かない。


イクビ「小僧……悪いが俺は子どもだろうと容赦はせんぞ。隙あらば貴様を滅多斬りにしてくれる……フッフッフッ……」


クニツナ「ならオメェはその前に、俺の鬼丸がぶっ潰す!」


イクビ「おぉそれは大変だ、怖い怖い、そんな小僧は……バラバラにしてくれるぅ!」


クニツナ「ぶん殴れっ! 鬼丸っ!!」


イクビ「おめおめと殴られるか! そらっ!」


 イクビ、庭石を片手で持ち上げて鬼丸に投げつける。

 鬼丸、庭石を拳で粉砕する。


クニツナ「おぉぉりゃあぁ!!」


イクビ「ぬっ!? ふ、ふふ……本気を出せば岩など……ということか、次に殴られたらひとたまりもないだろうな……ならば!」


 イクビ、自身の指を軽く斬り、血を刀の地肌にさっと塗る。するとぼぅと淡く光り出す。


クニツナ「鬼丸! ぶっ叩けぇ!」


イクビ「ぬぅああっ!!」


 イクビ、鬼丸の拳を金切で受け止める。


クニツナ「う、受け止めたっ!?」


イクビ「ハッハッハ! 我が『金切』は先の闘身『末喜』を秘めた、言うなれば闘身刀とうしんとう! その刀を以ってすれば貴様の闘身の拳を受け止める事など造作もない! 更に、この『金切かなきり』に血を吸わせれば、その闘身刀としての力は更に高まるのだ!」


クニツナ「ぐえぇ……てっきりほっそい刀持った只のおっさんだと思ってたんだけどなぁ……でもよぉ」


イクビ「む?」


クニツナ「なら、本気出して良いってことだよな!?」


イクビ「出せるものならな! ぬああっ!!」


 イクビ、縦一閃に鬼丸に斬りかかる。

 鬼丸は手甲で金切を受け止める。気味の悪い高音が響く。


イクビ「そらそらそらっ! 防ぐ事しかできんのかぁっ!?」


クニツナ「くぅうっ! 打てぇっ! 鬼丸ぅううっ!!」


 鬼丸、両拳の打ち出すが動きが重い。

 まんまとイクビに避けられてしまう。


クニツナ「どうした鬼丸っ!?」


イクビ「フッフッフ、効いているようだな……何度も言ぅておろうが。この『金切』は闘身刀! 打ち合うことによって響く高音は貴様の闘身の動きを鈍らせる! 貴様以上に闘身はもろくなっているぞ! そらっ!」


 イクビ、力一杯金切を振り下ろす。

 鬼丸、クニツナを庇い両手で金切を受けるも、左腕に金切が食い込む。


クニツナ「ぐぅ!? 鬼丸っ!?」


イクビ「そぉら隙ありっ!」


クニツナ「納まれ鬼丸っ!!」


 イクビ、鬼丸を袈裟に斬る。

 が、クニツナが一瞬速く鬼丸を納め致命傷を避け、距離を置いた。


イクビ「ほほう? 闘身を納めたか。だが、小僧だけで何ができる? 我と本気で打ち合うつもりか? その木刀で」


クニツナ「当たり前だ!!」


イクビ「!?」


 鬼丸、勇んで出ようとするがそれをクニツナが止める。


クニツナ(大丈夫だ、鬼丸。俺があのおっさんの周りを動き回る……その隙を狙って、鬼丸がドンッとデカイのを決める……これで行こうぜ……大丈夫だ、俺を信じろ!)


クニツナ「見てろよおっさん! 今の内にその禿げ頭、磨いておきやがれ! だりゃあぁっ!」


イクビ「本当にひとりで来るとはっ! ならば遠慮なく斬るまでよ!」


クニツナ「よっと!」


イクビ「ぬっ!? このぉ!」


クニツナ「ほっ! あぶねっ!」


イクビ「ぬぐぐぐっ……小僧ぉ」


 クニツナ、イクビの刀を上手く避けていく。

 イクビ、当たらぬ苛立ちが頂点に達する。


イクビ「調子に乗るなぁ!」


クニツナ「!?」


 イクビ、今までよりも寸分速く踏み込み、クニツナを斬らんとする。

 クニツナ思わず樫で金切を受ける。鬼丸は抜かない。



イクビ「ほうっ!? よくぞ金切を受けた! かしとか言ったなっ!? だがっ!!」


 イクビ、クニツナを蹴り飛ばす。


クニツナ「ぐふっ!?」


 低く飛び、砂利に打ち付けられるクニツナ。


イクビ「生意気なガキが、闘身も出さずに! まずは心の臓を一突き! のちに切り刻んでくれる!」


クニツナ「ッ……!!」


イクビ「ぬあああっ!!」


 イクビ、クニツナの所へ駆けながら、クニツナの胸目がけ、突きを繰り出す。


クニツナ「ぐっ!!??」


イクビ「手応え……あったぞっ! ふはははっ! そぉれ間髪入れずに刻んでくれるわ!」


クニツナ「……っへ。無理だよ……禿げのおっさん」


イクビ「なっ!?」


 クニツナの胸に浮かんでいるのは、鬼丸の左手の手甲。


イクビ「貴様っ!? 闘身を限界まで自分の身体の近くで抜き……っ!?」


クニツナ「よく耐えてくれたぜ鬼丸……」


 浮かび上がる、鬼丸の顔。


イクビ「こっ! 小僧ぉぉぉぉおっ!!」


クニツナ「打ぅてぇぇっ! 鬼丸ぅぅぅうっ!!」


 鬼丸の右拳がイクビの左頬を捉える。


クニツナ「打つべしっ! 打つべしっ! 打つべしっ! 打つべしっ! 打ぅつべぇぇしっ!!」


イクビ「ぐええええっっっ!!??」


クニツナ「うぅりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃあ!! ぁぁぁりゃあぁぁぁぁっ!!」


イクビ「ぶぅぎゃあぁぁぁあっっ!!!」


 道場の端までぶっ飛び、石灯籠を粉々にするイクビ、再起不能。


クニツナ「はぁ、はぁ……はぁぁあ……!! 焦ったぁぁ……いってっ……!! 傷は浅いけど……こりゃ手当てしてもらわねぇと……!! へへっ、ありがとな鬼丸。俺を信じて、ずっと納まったまんまで居てくれてよ……」


ツネツグ「クニツナ」


クニツナ「よぉ、ツネツグ」


ツネツグ「勝ったみたいだな……」


クニツナ「おうよっ、俺の初陣ういじん大金星だいきんぼしだぜ」


ツネツグ「この、ダメツナ」


 ツネツグのげんこつがクニツナの頭を直撃。


クニツナ「っで!? なんでだよ!?」


ツネツグ「ミツヨと、シノギさん、ほったらかしだろうが!」


クニツナ「あぁ!? い、今何処に――」


ツネツグ「シノギさんは歩けたから、二人でミツヨを道場の中へ入れたよ」


クニツナ「……良かったぁ」


ツネツグ「さぁ、ぼくたちも行こう」


クニツナ「……あぁ」


ツネツグ「……道場に、じゃないぞ?」


クニツナ「え? あぁ!?」


ツネツグ「この、イノツナ」


クニツナ「な、なんだよこのゴマツグ! 待てよぉ!」


ツネツグ「いいから行くぞ! 兄上と、ムネチカ様の下へ!」


クニツナ「言われなくったってぇ!!」


 そして場所は変わり、ムネチカとヤスツナが対峙する道場裏へ。


ムネチカ「ふふ……兄さん……いい目ですよ。だんだんと殺しの目になっている」


ヤスツナ「あまり大人をからかうもんじゃあないぞ、ムネチカ……」


ムネチカ「童子切どうじぎり……敵ながら美しい闘身だと、前から思っていました。私の『三日月みかづき』が宿ったこの三条さんじょうと、どちらが強いでしょうね」


ヤスツナ「生憎あいにく、悪に賞される得物えものなど持たぬ……一息で行くぞ」


ムネチカ「お望みとあらば……『三日月』!」


 ムネチカの身体が月光の様に光り輝く。ムネチカの闘身『三日月』の憑依した状態である。


ヤスツナ(『三日月』……俺も見るのは久しぶりだ……クニツナやツネツグが扱う顕現式けんげんしきの闘身とは一線をかくす、憑依式ひょういしきの闘身。闘身自身が使用者にき、人間の持ち得る全ての能力を飛躍的に上昇させる――体力は勿論、視覚や聴覚、第六感をも向上させ、使用者と共に進化をしていく底知れぬ闘身……場合によっては、本当に……)


 ヤスツナ、童子切を最大まで抜き、ムネチカの方へと駆け出す。


ヤスツナ「『童子切どうじぎり』!」


ムネチカ「さぁ! 殺し合いましょう兄さん!!」


ヤスツナ「おおおおおおっ!!」


 真っ向からぶつかり合うヤスツナとムネチカ。

 激しい打音の後、空を払い、頬を掠め、霞を薙ぐ童子切と三条。


ヤスツナ「てぇえいっ!!」


ムネチカ「はっ!」


ヤスツナ「ぬうぅっ!」


ムネチカ「はっ! 足下あしもとがお留守ですよ兄さん!」


ヤスツナ「く言うお前は、踏み込みが甘い!」


ムネチカ「ちぇあぁっ!」


ヤスツナ「まだぁあっ!」


 尚も鎬を削る戦いが繰り広げられる。しかし、ヤスツナは戦いの中である事に気が付いていた。


ムネチカ「そあっ!!」


ヤスツナ「むんっ!!」


ムネチカ「くっ……ふふふ……一糸いっし乱れぬとは、正にこのこと……最高ですよ、兄さん」


ヤスツナ「ッ……今までの太刀筋たちすじ――貴様、ムネチカではないな」


ムネチカ「? 何を言い出すかと思えば……おっしゃっている意味が――」


ヤスツナ「貴様からは呼吸を感じない……闘身『三日月』も似て非なり。貴様のそれは水面に映る月の光であり、本当の『三日月』ではない」


ムネチカ「何を根拠にそんな事を……」


ヤスツナ「忘れたのか? 闘身のいろはを、誰に習ったと思っている?」


ムネチカ「フッ……ハハハッ! クハハハハハッ! さすが! さすがだよヤスツナ! これなら“ムネチカ”もあなたを超えたがる訳だ! だがその『童子切』も……粗方あらかた、“おぼえ”たよ……」


ヤスツナ「早々に尻尾を出したか……さぁ名を名乗れ! あやかしッ!」


ムネチカ「その前にボクの力を見せてあげよう! “童子切”ッ!」


ヤスツナ「なっ……!?」


 突如ムネチカの三条がうねったかと思うと、瞬く間に童子切そっくりに形作られる。


ムネチカ「ハッハッハッハッハ! 言葉にもならないだろう? さぁくと御覧ごろうじろ! 童子切と三日月、闘身同士の共演さ!」


ヤスツナ「と、闘身を複数扱うだと……そんな事は有り得ん、有り得んはずだ――」


ムネチカ「ムネチカには出来ずとも、“ボク”にならできるんだよ……この“ヒルコ”にはぁ!!」


ヤスツナ「しまった!?」


ムネチカ「はああああっ!!」


 懐に潜り込まれ、胴を下から袈裟に切り上げられたヤスツナが宙を舞う。

 不敵な笑みを浮かべる“ムネチカ”。

 ヤスツナは砂利に強かに打ちつけられ、悶絶する。


ヤスツナ「ぐはぁああっ!! ……がはっ! ごほぉっ!!」


ムネチカ「フッ……ハハハハハ……峰打ち(手加減)だよ。ボクの存在と、ボクらの目的を教えないといけないからね――ボクは無間衆むげんしゅう八逆鬼はちぎゃっきろくぎゃく謀叛むほんのヒルコ。闘身は、先の通りさ……相手の能力を“憶えて”、自分の“もの”にする――とでも言っておこうか」


ヤスツナ「ぐあ、あぁ……ぁぐ……っっ!!」


ムネチカ「苦しそうだね、ヤスツナ? けれど、まだだよ。今死んでもらっては“あの方”がたのしめなくなる……ボクが来た甲斐かいくなるというものさ……」


クニツナ「兄貴ーっ!」


ツネツグ「兄上ーっ! どこに居るのですかーっ!?」


 そこに、クニツナとツネツグの駆ける音が聞こえてくる。

 据わった瞳でクニツナたちの方向を見る“ムネチカ”。


ムネチカ「……イクビと末喜は負けたのか?……情けない。無間衆八逆鬼の面汚しめ。だが、今日の所はここまでにしよう。――これからだよ、ヤスツナ……これからボクたち無間衆の饗宴きょうえんが始まるんだ……たっぷりとあらがってくれ……抗って、戦い抜いて、それから死んでもらわないと……ムネチカにも、抗ってもらわないといけないし、まだまだ生かしておいてあげるよ。そこは安心してくれたまえ――じゃあね、ヤスツナ。坊やたちにも、シノギとかいう奴にもよろしく」


ヤスツナ「ま、待て……うぐっ!」


ヤスツナ(無間衆八逆鬼……噂以上の強敵だ……このままでは、大丹おおにの乱の再来となってしまう……! ムネチカを、皆を、まもらねば……!!)


 突如として現れた無間衆八逆鬼、そしてヤスツナをも破ったヒルコ。

 “あの方”とは誰なのか。

 無間衆の饗宴とは。

 囚われのムネチカの運命は。


 第三話へ続く。

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