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短編集 リヨンの記録

転落

作者: 紅白

 男がいた。リヨン県治安管理部の長官の座につく男は、本日起こるはずの事件を収めるため待機していた。場所は、馬鹿の門と名高いアルディテーテ高校。事件の主犯は、一人の県議会議員。仲間の魔導士を数十人引き連れて、学校を物理破壊するということである。情報の出どころは、主犯の娘。彼女は、父親が器物損壊に打って出た時点で現行犯逮捕してほしいと訴えてきた。男は裏取りを進め、娘の情報が正しいと判断し、そこにいる。

『しかし、なぜ父上を売るような真似を』

 男の問いに、娘が答える。

『せっかく部署ではなくあなたに告げ口(リーク)したのですから、当日はあなたお一人で来てくださいね』

 つまり、公立高校守護という功績を男一人のものにするお膳立てをした、と。男は笑った。求める見返りは将来の出世か。静かな目をして、とんだ食わせものだ。

 男の見ている前で、とある教室めがけて魔法弾の嵐が注がれた。男は魔導士群の方へと歩き出し、すぐさま主犯の県議会議員に向かって声を張った。

「しかと拝見いたしました。現行犯逮捕いたします」

「おや、私より罪深いあなたがそれを言いますか」

 何を言うのです、と笑う男に、県議会議員は目を細める。

「私の息子の婚約者を傷つけたこの高校の男子学生は、今何処に」

「さて、拘留が決まったようですが、どこの拘置所に何年いるかは存じませんな」

 すると、教室の中にいた県議会議員の娘が大破した壁際まで歩みを進め、人間の頭蓋骨を一つ取り出した。男は再び笑う。

「それが一体何だと」

「あなたの家の廃棄箱にあった」

「その証拠は」

 男が言うが早いか、光の軌跡が浮かび上がった。娘は淡々と言い放つ。

「追尾魔法。隠伏も重ねてかけてたけど」

「隠伏魔法だと!」

 男が叫んだ。隠伏魔法とは、才のある者が何十年と修行して獲得できるか否かといった魔法である。術者は貴重なため、地方になど回って来ず、国家レベルの重犯罪に関わるのが常である。その魔法の術者たる娘は言った。

「人骨のDNAは件の学徒のものと一致した。あんたの息のかかったうざったい取り巻きも、今はゼロ。目の前にはわたし(規格外魔導士)父上(県議会議員)。この状況の意味が分かるか、外道」

「まさか、初めからこのつもりで」

 憎たらしげな表情を浮かべる男だが、娘の視線はすでに父親に向けられていた。

「お前なんぞついでだ。本命は父上との喧嘩」

 かくして、男は治安管理部長官の椅子を失い、ただの囚人(おっさん)と成るに至った。

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