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現実と現実  作者: lithium
3/3

進展on進展

 「伝えたいこと…ですか」

人生で初めて異性と帰路に就く。確かに意味も無く私と帰ろうなんて考える愚か者なんていないはずだ。

「はい。俄には受け入れ難いことなのかもしれませんが…信じてくれますか?」

「…。内容にもよるかもしれませんが、基本的には信じる方向で聞きます」

先ほどまでの淡い黄色のような雰囲気は、紺色の雰囲気に塗り替えられた。かなり真面目であることが窺える。

「ありがとうございます。」

彼女はそう告げると、深呼吸をし目を瞑った。そして目を開き此方を向いた。その目は今から話す内容が囈でないことを訴えているようであった。

「実は私は、あなたの存在意義なのです。あなたの存在意義であり、存在価値なのです。」

「私の存在意義で存在価値…?概念の具現化?」

確かに俄には信じがたい。実際私には存在意義も存在価値もない。これといってできることはなく、些細な才能もない。謂わばただ生きている人間なのである。何かの目的を持たずただ生きる。そこに意義も価値もあったものじゃない。私にとってそんな人間は無駄な人間なのだ。そしてそんな人間は私以外には存在しない。私の周りの人間は皆何かしらの才能を持っていて、それを活用して生きている。その才能が何かと聞かれたら答えに困るが、それらはただ形容し難いだけだからだ。とにかく、私に意義も価値もない。然し、私の存在意義や存在価値が具現化し目の前にいる。具現化するには仮令概念であれ存在していなければできないはずだ。信じる方向で聞くとは言ったが、私は否定的である。だが、そんな嘘を吐く理由もない。そこまでして私に近寄りたいと思う人間は存在するはずない。信じられないが、それを否定する「現実的な」理由が存在しないのだ。いや逆に考えてみよう。今日起こった出来事は全て信じがたい出来事だ。故にこういうことが起こってもなんら可笑しいことではないのかもしれない。そう、異性と一緒に帰っているように。

「はい。簡単に言えばそんな感じです」

「でも、なんでなんですか?私の自覚では意義も価値もない人間なはずです。具現化するには存在していることが最低条件であるはず」

「あなたは自身を過小評価しすぎなのです」

過小評価…。何度も(脳内会話で)言われたことだ。誰だってそう言う。過小評価なんてしていない。ただ現実を把握しているだけだ。

「過小も何も無いんです。意義と価値が存在している証明ができないのです」

「わかりました。では、私がなぜ具現化したのか説明します」

いつの間にか二人は前を向き歩きながら言葉を交わしていた。足取りは軽くも無く重くも無く。ただ不思議な空間に包まれていることだけは確かであった。

 「簡単に言えば、あなたは自分の存在意義と存在価値を理解する必要があるからです。存在意義や存在価値がない人間なんて存在しないのです。なのにあなたはそれを否定しています。気づいてください。あなたにも些細な才能はあるんです」

「そうですかね。そうなのかもしれませんが、事実無いのです。ただ私が気付いていないだけなのかもしれませんが」

あまり私は感情を表に出さないようにしている。心の中では反論の嵐なのだが、残念ながら理性は残っている。心の中の反論をそのまま言うことがどういう結果を生むのかなんて容易く想像できる。脳内会話の賜物だろう。

「反論したがってますよね。わかりますその気持ち。そういう時期ですもんね」

「思考も読めるんですね」

「ええ。私はあなたですから。厳密に言えば概念体ですが」

「でも、私の意義と価値が具現化して自我を持っているっていう時点でそれは私ではないのでは?」

「この私があなたの意義と価値なのです。あなたが意義と価値を否定し続けたおかげでそれらは自我を持ったのです。自我を持ち具現化することで、あなたの存在意義と存在価値を示すのです」

「私の存在意義と価値が具現化して目の前にいるということは、私の中にあったかもしれないそれらが完全に消滅したということなのでは?」

「あなたはどこまで自身を否定し続けるのですか。私は飽く迄概念体。本体はあなたの中にあるのです。謂わばコピー、クローン…そんなところでしょうか」

目の前にいるのは私の意義と価値のクローン。なのに私には一切似ていない。否定し続けた結果が今の私で、否定しなかった結果が目の前にいる概念体ということなのだろうか。それとも、今の私と真実の乖離のメタファーなのだろうか。然し、その概念が具現化したところで何をするのだろうか。仮令具現化したところで私の思考は変化しないし、意義と価値が生まれるとは思えない。まさに、謎である。「謎の概念体現る」である。

「謎の概念体ですか…。なんかかっこいいですね」

私の意義・価値である概念体、基桜がこの紺色の雰囲気を淡くするかのように微笑みかけた。この美しい少女が、腐った私の概念体だとはやはり信じられない。ただ、嘘という根拠もない。というか、本当である可能性の方がはるかに高い。これはもう信じるしかないのだろうか。

「信じない理由がありませんし、信じることにします」

「ありがとうございます。理解してくれてよかったです」

桜は安堵からかため息を吐く。そのため息は幸せを逃がすのではなく不安を逃がしているようであった。それは白い靄となり天へ昇っていく。一抹の不安が弾けていった。

 「あ、そういえばもう一つ、言わなきゃいけないことがあります」

「もう一つですか」

「はい。私の設定についてです」

そうか、一応桜は私以外の人間には一般人として映っているのか。何かしらの設定がないと辻褄が合わなくなってしまう。

「私はあなたの遠い親戚です。私の両親は交通事故で無くなり、昔の縁であなたの家に引き取られることになりました」

「なるほど、辻褄があってますね。とてもラノベみたいな展開ですが」

「これが一番自然なんですよ。記憶処理が少し面倒でしたが」

「記憶処理…SFみたいですね」

「謎の概念体ですし、これくらいできても変じゃないですよね?」

「気に入ったんですかその設定」

「はい」

桜と話していてわかった。彼女には私にはない才能を持っている。私の周りの人間よろしく。もし意義と価値を否定していなかったらこういう性格だったのかもしれない。そう考えると少し後悔を感じる。

 「もう少しでお家ですね。なんだかワクワクします」

「ワクワクですか…。そういえば桜さんは私の中にいるときは自我があったんですか?」

「ありましたよ。あなたの中で生活をしていました。一応あなたの思考を構成する一部でしたし。ただあなたが否定していたので、軽く幽閉状態でしたがね。あ、桜で大丈夫ですよ。」

「あ、はい。桜は私の見ている景色とかも見れたんですか?」

「一応…見てはいました」

「あ、そうなんですね」

私の見ていた景色を見ていた…これは中々に恥ずかしいかもしれない。一応設定上は異性なのだ。異性に私の生活を全て見られていたと考えると恥ずかしくなってくる。

「…恥ずかしく思わなくてもいいですよ」

「いや、一応私の概念体とは言え今は別の人間です。しかも異性。恥ずかしいったらありゃしませんよ」

「確かにそうかもしれませんね。そう考えると私も少し恥ずかしくなってきました。この話題は忘れた方が良いのかもしれません」

「私も同じくです。心に秘めておきましょう」

 駄弁っているうちに家に着いた。ここまで話し込んだ下校は人生で初めてかもしれない。本当に今日は密度の濃い一日だった。


 「ただいま」

合鍵で家の玄関の扉を開き、虚空へ告げる。

「親は仕事で夜の7時くらいに帰ってきます」

「わかりました」

靴を脱ぎリビングへの戸を開く。朝開けたカーテンを閉め、電気をつける。桜は一応私の中にいるときにこの家は見ている筈だからか、落ち着いた様子である。

「親が帰ってくるまでどうしましょうか。」

「確かにですね…」

今の時刻は午後4時。親が帰ってくるまで時間がある。そういえば桜はここに引っ越してくるという設定だったはずだ。引っ越し業者が来てもおかしくはないのかもしれない。

「そういえば、引っ越しの荷物ってどうなってるんですか?」

「…設定づけるの忘れてました」

「え」

「設定を作るのを忘れました」

「なるほど…。つまり桜の荷物は学校の物だけということですか」

「はい」

桜は重大なミスを犯したということだ。これでは辻褄が合わない。引っ越してきたのに荷物がほぼ無いというのは変である。

「うーん、親が帰ってくるまで時間がありますし、必需品だけ買いに行きますか。確か帰宅時刻は18:30だったはずです。これくらいの時間があれば買えるでしょう」

「了解です。では早速行きましょうか」

「ちょっと待っててください。着替えてきます」

「何でですか?」

「制服で外に出るのに抵抗があるんです」

「私も着替えた方が良いですか?」

「なるべくそうしてもらえるとありがたいのですが、服、無いですよね?」

「そうでした」

「だったら私の服を着ていきますか。見た感じ私と体格は似ているので着れるはずです」

「わかりました」

外出しないため、持っている私服の数は少ない。その中からテキトーに服を選ぶ。

「ではこれを着てください」

「はい」

私は桜に服を渡す。それを受け取った桜は服を地面に置き制服を脱ぎ始めた。

「ちょ、ちょっと待ってください」

「どうしました?」

まじまじと見るのは流石に変質が過ぎるため、両目を手で覆う。指と指の隙間から少し覗き見た。桜は上着を脱ぎ終え、ブラウスのボタンに手をかけている。もう少しいうタイミングが遅ければ由々しき事態になっていたはずである。

「仮にも私と桜は性別が違います。一応そこら辺のプライバシーは守るべきだと思うんです」

「そうでした。私一応女子ですもんね。ずっとあなたの中にいたのでそこら辺の意識が薄れてました」

「…では私が脱衣所で着替えます。移動するまで着替えないでくださいね」

桜は頷く。私は滅多に外出しないため服が少ない。だから、私の衣服は全て脱衣所の前の棚に入っている。脱衣所とリビングはカーテンで仕切られているだけだ。

 特に会話をすることも無く、黙々と着替える。部屋には服の擦れる音だけが響いている。

「着替え終わりました?」

桜の方から音がしなくなったのを確認し、声をかける。

「はい」

「では、行きますか」

必需品が買えるだけのお金を用意し、少し離れたところにある国道へ向かう。国道沿いで揃うだろう。


 「ただいま」

一般生活を送るうえで必要であろう物を買い終え、家へ帰る。今の時刻は午後6時。親が帰ってくるまであと1時間くらいだろうか。

 「部屋とかはどうします?一応2LDKなのですが、一部屋は親の部屋なので空いているのは私の部屋しかありません」

「別に私は大丈夫ですよ」

「では、親が帰ってくるまで時間があるので部屋を整理しますか」

「はい」

部屋は二人位でちょうどいいほどの広さであるため、一人では広すぎて持て余していた。

 「ちょうど半分くらいスペースが余っているので、そこに桜の区域を作りますか」

部屋に散在している箱等を壁の方にまとめ、苦にならないほどのスペースを空けた。勿論学習机も無いため、部屋に余っていた机を置いた。


 「ただいまー」

玄関の扉が開く音と同時に親の声が聞こえてきた。やっと帰ってきたようだ。

「おかえり」

「おかえりなさい…」

親から買い物袋を受け取り、リビングへ入る。桜と親は私の後ろについて入ってくる。

「あ、そうだ、桜さんようこそわが家へ!」

思い出したかのように親が声を上げる。

「あ、よろしくお願いします」

「今日から寳家の一員よ!」

「大げさだなぁ」

赤に灰色が混ざったような雰囲気だったのを親が晴らしたようだった。そのせいか、三人から笑いがこぼれていた。


お疲れ様です。

諸事情により、登場人物が約一名消えました。

異論は受け付けません。

さて、今回ですが、書いているうちに楽しくなってしまって、グダグダな文章です。

こういう感じの文章を書いたことがないのですが、とても書きやすかったです。

ただ、内容が薄くなってしまっているというか…

べ、別にこういう感じの作品へのアンチテーゼではありませんよ。

次回からですが、こういう感じで進んでいきます。

まぁ、この作品は息抜き程度に書いているので、ご容赦ください。

では

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