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現実と現実  作者: lithium
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目指すは孤独からの脱却

 空高く広がる巻雲。空模様も冬らしくなってきたようだ。相も変わらず私は遅刻に怯えながら信号を待つ。悴む両手。流れる白い息。今年も一人、ここに佇む。

 信号が青になり左右を確認した後、歩を進める。後ろには女子クラスメイトがグループになって歩いているようだ。よくこんな時間に集合できるな。中学一年生の頃は知人と時間を決め集合していたが、自然的に集合しなくなった。後ろからは何かについて笑いながら会話をしている。私についての陰口を言っているようで居心地が悪い。多分私の勝手な思い込みであるのだろうけども。

 「はぁー、誰か私と親しくしてくれないかな」

周りに人がいなくなったのを確認し、一人地面へ呟く。あまり人と交流するのは好きじゃないが、腐っても人間、仲間は欲しいものである。脳内会話だけでは満たされないものもあるのだ。転校生が来て…、脳内だからと託けて妄想を繰り広げる。孤独が好きと思ってはいるが、半ば強制的だと自分でも感じる。別に異性と交流を求めてもいいのだが、なぜか意地を張っているのだ。すべてが自分の意のままに動く脳内に浸っているのも大概にした方がいいのかもしれない。異性に話しかける自分に嫌悪感を抱くのだ。嫌われるのが分かっていて、話しかける。その行為に心が耐えきれないのだ。

「まただ。またいつの間にか脳内会話をしてしまっている」

ドイツかどこかの大学の研究によれば、独り言をする方が良いらしい。思考の整理がしやすかったり、何らかの要因によって長生きになるそうだ。独り言を排斥する人にこの論を突きつける妄想をたまにしてしまう。言いたいことがあってもそれを伝える相手がいないが為に脳内会話で済ませてしまう。何だかそれでもいい気がしてきたが、それは甘えているのだと自分に叱責する。過度な心配で人との交流を避ける自分に嫌気が差しているが、その心配が妙に現実的に感じてしまう。どうにかしてこれを解消しないと社会的存在として除者になってしまう。社会にお世話になるのだから、除者になってはそれはただの足枷だ。脳内会話を独り言にする癖をつけてその独り言を誰かに伝える、このリハビリ(?)方法を試せば改善されると思う。ただ、実行できるかどうかは別だが。

 そんなことを考えながら教室へ入る。私はクラスの人数の都合上、一人席なのだ。右には空席、左には窓。なんて良い環境なのだろうか。この席にしてくれた神に感謝の意を伝えたい。この席だと、いつも私が抱える「隣になって申し訳ない」という感情が生まれなくてありがたい。私が隣になったところで会話をすることは無いし、交友関係が広がることも無い。陰キャの私は端の方でポツンと存在している。それだけでいいのだ。それに隣が空いていれば、もしも転校生が来た時にここに座る可能性も高くなる。まぁ現実的には、会話せずに次の席替えがやってくるのだろうが。更に転校生に無理に話しかけようとすると、ヒエラルキー上位の陽キャに陰口を叩かれるはずだ。この独りで平和な日常を守るためにも行動をしっかりと考えなくては。こんなことを考えるのはただのエネルギーの無駄遣いだ。もっと現実的なことを考えなくては。


 「きりーつ、気を付け、おはようございます」

殆どの生徒は口パクで礼だけをする。所謂形式的なものだ。

「転校生がこのクラスに入った。今呼んでくる」

クラスにさざめきの波紋が広がる。

 「今日からこのクラスの一員となる、島波桜だ。軽く自己紹介をしてくれ」

「は、はい。ご紹介にあずかりました、島波桜です。このクラスで生活する期間は少ないとは思いますが、よろしくお願いします。」

「島波は、あの角の空いた席に座ってくれ」

「は、はい、わかりました」

「よし、HRは終わりだ。授業の準備をしろ」


 自分が怖い。登校からあんな妄想を繰り広げてしまったせいで少し気まずい。まさか願望が叶ってしまうとは。これで私の抱える問題が少しでも解消すればいいのだが…。

 「お、おはようございます」

「あ、お、おはようございます」

「あの、今日からよろしくお願いします。わからないこととか聞くかもしれないので…」

「あ、はい、わかりました。私の名前はは桜葉です。こちらこそよろしくお願いします」

「あ、はい。私は桜です」

私にはこれが精いっぱいだ。多分数日後くらいには私に話しかけることはなくなるのだろう。それまでの数日を楽しむことにするか…。

 「あ、あの、一時間目って何でしたっけ」

「次ですか、えっと、一時間目は理科です。あ、そういえば実験で移動教室です」

「移動教室ですか…。私まだこの学校がよくわからないので、一緒に行ってくれませんか?」

人にこんなことを言われたのは初めてだ。よく考えろ。これはただ道を聞いているだけだ。慣れていないからって変に捉えてはいけない。身を滅ぼしてしまう。

「わかりました。では、行きますか…」

 周りからの視線を強く感じる。ただの被害妄想だろうが、そう感じざるを得ない。クラスに存在しているのかも確かではない陰キャが、転校生を移動教室まで連れていくのだ。異様な光景だろう。まぁいいや。陰口くらいなら自分に直接的な被害は被らないだろう。

 移動する人たちの波に乗って目的の教室へ向かう。桜がはぐれないように、常に横並びになるように歩を進める。いつも妄想をするだけあって、どうすれば良いのか考えるのは得意だ。然しここまで人と会話したのは何年ぶりだろうか。気持ちの高揚を感じる。

 人が多いためか特に会話をすることも無く理科室に到着した。

「理科室の席はあの表に従って下さい」

「わかりました。ありがとうございました」

役目を終えた私は、理科室に入り席に座る。席順は男女別の出席番号で割り振られている。教室には私と桜しかいない。そろそろみんなが教室に入ってくる時間帯だろう。

 

 「なぁ桜葉?あまり自分のことを知らない人に活路を見出すのはどうなの?」

「え?いや、そんなつもりは一切ないんですが…」

「あ、そう。まぁ頑張れ」

「あ、はい」

予想通りだ。クラスにこういう人がいるのは最早当たり前なのだろうか。多分当人からしたら悪気はないのだろうからあまり責めたくもない。私から桜に話しかけた訳ではないし、活路を見出すとか考えたことも無い。どうせ私が彼女と会話できるのは今日か明日までなんだろうから、少しは楽しんでもいいのかもしれないが、抑楽しむってなんだ。何か下心的なものがあるようにしか思えない。その考えを持つのは人間としてどうかと思う。陰キャを極めてしまった以上、この運命を背負うのはしょうがないのかもしれない。

 ―キーンコーンカーンコーン

授業時間の終了を告げる鐘が鳴り響く。教科書類を抱え教室を出る。ふと桜の方を見ると、クラスの女子グループが一緒に行動しているようだ。これで一安心。私は何故だか巣立ちを見守る親鳥の気持ちになる。クラスの輪の中に入るために色々な人と交流を持ってほしい。私の轍を踏まないことを祈る。


 今日は密度が高い一日だったなぁ。帰りのHRを聞き流しながら振り返る。人生で人と会話した量は今日がダントツだろう。授業中に話しかけられたりしたが、毎回どう答えればよくわからず少しどもってしまった。次の席替えまでは、桜が辛くないようなお隣さんを演ずるのもいいのかもしれない。こういうのは得意だ。シミュレーションは沢山してきた。

 「さようなら」

形式的な挨拶をし、教室から出る準備をする。今日もまた一人。何を考えながら帰ろうか。

「あ、あの」

そんなとき、桜が声をかけてきた。突然なことに素っ頓狂な声が出そうになったが、反射神経でそれを抑えた。

「は、はい」

「今日は、一緒に帰りませんか?い、いやでしたら断わっていただいても大丈夫です」

「え、私とですか?」

思わず復唱してしまった。状況的に私に話しかけているのだろうが、これまでの生活が故に自分に対して話している自信がない。

「も、もちろんです」

「私は大丈夫ですけど、いいんですか?」

「はい、寧ろありがたいです」

「わかりました…」

なんて奇跡が起こっているのだろうか。正直夢なら覚めてほしい。ここまで現実を見たいと思ったことは無い。一緒に帰ろうなんて言われたのは人生で初めてだ。変に逆上せてはいけない。ここでの行動が未来を潰すということもありえなくはないことだ。

 朱に染まる晩秋の候。寒空の下、帰路につく。一緒に帰るとは言われたものの、特に会話することも無く並んで歩く。周りからは恋人関係とかに見えるのだろうか。そうであったらとても申し訳ない。私はそう言った関係を持つに値しない人間なのだ。こういう人間は角でそういうことを妄想するしかない。もしかしてこれは私から話しかけるのが良いのかもしれない。シミュレーションはいつもやっているが、本物の人間の心理までは完全には掴むことはできない。人に話しかけるなんて滅多にしないことであるが故に、どうやってやればいいのか皆目見当もつかない。

 「え、えと、桜葉さんはどちらにお住まいですか?」

「あ、この道を進んだ先にあるマンションです。桜さんは?」

「私もこの道を進んだ先のマンションです。もしかして同じかもしれませんね」

彼女は軽く微笑みながらそう言った。ここまで奇跡が重なると、そろそろ寿命が来るのではと思ってしまう。

「そうですね。あの、もう少し柔らかな口調で話しませんか?」

私は今世紀最大に勇気を出しそう告げた。ここまで堅い敬語ではクラスに馴染むのも難しいだろう。

「あ、はい、わかりました。あの、今日は伝えたいことがあって…」


お疲れ様です。

いやーこういった作品を書くのは難しいですね。

一つ一つの展開に、自分の願望が見え隠れしていないかを考えるのが意外に大変です。

さて今回ですが、「よくある展開」を目指して書きました。

多分、次回からタイトル詐欺になってしまうかもしれないので、タイトルを変えようかと思います。

次回は多分、「お決まりの展開」になるのではないのでしょうか。

では。

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