ただの日常
―諒:明日祭りだけど行く?
―桜葉:…ごめん。今回はパスする。
―諒:えー
―桜葉:私抜きで楽しんできてほしい
―諒:わかった
「はぁ。結局今回も行けなかったな」
私は諒とのチャット画面を見つめながらため息を吐いた。特に行かない理由はない。でも、行く理由もない。意地張りすぎてるのかなぁ。引きこもり極めすぎたのかもしれない。実際、小学生までは特に意味もなく祭りには行っていた。というか親に連れてかれていた。中学生になってからは祭りどころかお出かけさえしなくなった。親から誘われることも無くなった。休日引きこもりを初めて三年目。中学校最後の年も結局外出することも無く終わってしまいそうだ。これはこれでいいのかもしれない。私はそう自分を慰めた。
「おはようございます…」
私はいつものようにゆっくり朝食を摂り、いつものようにやや慌てながら学校の支度をする。なんでもっと早く朝食を摂れないのかな。遅刻ラインぎりぎりの時間に家を出る生活をここ数か月続けている。なんでこうなったのかわからないし、どう解決すればいいのかわからない。この生活になるまで、自分がどうやって朝を過ごしていたのか覚えていないからだ。
「いってきまーす」
私は虚空に向ってそう言った。母は私よりも早く家を出る。ただ、形式的に言っておこうかと思っている。
私は交差点への道を少し早歩きで移動した。今日は快晴である。少し遅い時間であるにもかかわらず交差点には5人ほどが青になるのを待っている。勿論全員女子だ。これが本当に謎なのである。この交差点を使う人は私以外に男性はいないのかと思うほどにここで女子と遭遇する。私に女友達がいるわけでもないためいつも気まずい。どこに立つべきなのか判断しながら信号が青に変わる瞬間を待つ。この信号は、この通りの中で最も青の時間が短く、赤の時間が長い。
溜息を吐きながら人の間を縫って先頭となる。歩きの速度だけは自信があるのだ。あくまで感覚論だが、時速12kmほどで歩くことができる。朝のこの時間は、いかに速く歩けるか、いかに人を抜かすかなのだ。コツとしては、外側を歩き続けることである。そうすれば軽く前の人の意識に入り、少し道を開けてくれるのだ。周りからすればただの挙動不審な人間だろうが、友達が少ない私にはあまり関係がない。
季節は晩秋。私の住む北の大地では最早冬である。吐く息は白く、指先は冷たい。太陽の光が私は暖めてくれる。一秒間に太陽から放出されるエネルギーは1平方メートルあたり約1300ジュールらしい。地球から月の距離の400倍の位置にある太陽がここまで届けるエネルギー量は膨大である。これは納得がいく。太陽内で行われているppチェイン(核融合反応)には驚かされる。…こんなことばっかり考えているから人が寄り付かないのだろう。今どきの中学生はこんなことに興味を持つはずがない。逆に言えば、自分と気が合う人しか寄り付けないということだ。私はそう合理化して学校へと歩を進めた。
教室へ入る。遅刻まであと10分なのだが、三分の一ほどまだ来ていない。いつものように誰からも挨拶されることも無く自分の席へ向かい、授業の準備をする。朝のホームルームまでの10分間、特にすることも無くただぼーっとする。机に突っ伏す人がいるが、それは美しくない。眼鏡をかけているから突っ伏しにくいというのもあるが。
そのあとも人と交流することも無く1日が過ぎた。もう下校である。晩秋の夕暮れ。その朱が目に染みる。これが秋の寂なのだろうか。自分の「変わりたい!」という感情と「いまのままでいい」という感情が戦っていることを感じる。悩ましい。
「ただいま」
色々と面倒な現実から逃避するため、趣味の世界に没頭する。インターネットの中にいるときは、自分を忘れることができる。自分が無になり、自分がそれになる。ワイヤレスヘッドフォンをノートパソコンに接続する。この瞬間から私は存在しない。趣味とは言ってもそんな大層なものではない。アニメを観たり、動画を視聴したり…ただ私の見る「現実」ではないものを味わう。それだけでいい。
お疲れ様です。
始めましての方が殆どだと思いますので、軽く自己紹介でも。
人工世界で培った発想力・想像力を頑張って活用しようとしております。
さて、今回の作品ですが、私史上初の純粋な(?)恋愛(?)小説です。
(私が)感情移入しやすいように、主人公とその周りの環境を実際のものと近いものにしました。
(というか、いつの間にかそうなっていました。)
自分の好きなタイミングで更新するので、気に入ってくれたら気長に待ってください。