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ひこうき雲  作者: Aoi
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A-1

どんな偉大な発明にも、日々積み重ねる努力にも、一つの大きな動機が必要であると私は思う。


動機になりうるものとは、時に夢であり、時に希望であり、時に愛であるものだ。


私は自分の歩んできた道のりに対して全く悔いはないが、一つだけ残念に思っていることがある。


それは―――




『ひこうき雲を見上げるたびに、遠く離れた恋人への想いを募らせていた』


僕はこの文章を気に入っている。僕の愛読書の一節だ。


しかし僕はひこうき雲なんて一度も見たことがない。


昔の空は旅客機やら輸送機やら、それに戦闘機やヘリコプターや時には飛行船なんていうものまで飛んでいたりして、世界中の空をずいぶんと賑わせていたらしい。

今となっては、空を行き来するものといえば鳥と無人ドローンぐらいのものだ。

それも比較的高度の低いところを。


僕は今日も歩きながら、空を見上げている。

すっきりと澄み切った青空の真ん中を、まっすぐに引かれていくひこうき雲の光景を想像してみた。


一度でいいから、ひこうき雲っていうものを見てみたいな。


そんなことを考えながら、駅に着いた。


駅に着くと僕は、腕時計型の携帯端末機を機械にかざしゲートをくぐった。

ゲートをくぐれば、そこはもう目的地の駅だ。

ここから5分歩けば、僕が通っている高校に着く。



今から120年前に物質瞬間転送装置が開発されて以来、世界の交通手段はとても大きく変化した。

最初は小さな荷物を装置から装置へ移動させることから始まり、食物、小動物、人間の転送が可能になるまであっという間だった。

転送装置が世界中の駅や空港に設置されたおかげで、人々は家から最寄りの駅に行くだけで世界のどこにでも行けるようになったというわけだ。

現在では、どんな物だってどんなに離れたところだって、装置のゲートから別の場所の装置のゲートへ一瞬で転送させられる。

まるでEメールを送るかのように。


そしてそのテクノロジーの普及と同時に、世界から鉄道と航空機が姿を消した。


「おはよ!」

校門に着いたところで、クラスメイトが後ろから駆け寄ってきた。

「おはよ」

「また空を見上げてたのか、飛行機おたく」

「おたくじゃないし。今の空にはロマンが足りないんだよ」

「なんだそれ。それよりさ、今日の帰りに台北の小籠包食べに行かない?」

「うーん、考えとく」

2人で教室に入り席に着いた。


***********************************************


休み時間中、僕は本をぱらぱらとめくった。僕は電子書籍よりも紙書籍派なのだ。

何となく愛読書となったその本は、120年前に物質瞬間転送装置の発明に成功した偉大な科学者の自伝書だった。


『ひこうき雲を見上げるたびに、遠く離れた恋人への想いを募らせていた。

私は同時に、二人の間にあるこの現実的かつ物理的な距離に対して、あまりにも無力であると感じずにはいられなかった。

だからどうしても、その障害を乗り越えたかった』


偉大な発明のきっかけは、一つの恋だったわけだ。


僕はちょうど窓の外を飛び去って行った二羽の鳥の後ろ姿を目で追っていた。


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