オコゼの恋
冬童話2018に向けて書いたものだったのだけれど、企画を勘違いしてた。3つの中から選ばないといかなかったのか・・・。
僕は日本昔話でこの話をみて、とても印象に残っていたために、もしオコゼが整形したら、という内容で書きました。
むかしの海のなかのお話。
ある海にオコゼという魚がおりました。オコゼは頭が大きく、口も大きく、とても美しいとは言えない顔でした。ブサイクだった、いや醜かったのです。
このオコゼにはヒラメというとても仲の良い友達がおりました。このオコゼとヒラメの仲の良さは、海の魚の誰もが認めるほどでした。
ある日、オコゼとヒラメは恋愛のことについて話していました。
「オコゼ君には、今好きな子はいるの」
ヒラメがそう聞くとオコゼは大きな顔を真っ赤にして、大きな口にチャックをしてしまいました。
「僕と君の仲じゃないか。誰であっても笑わないから言ってごらんよ」
そうしてヒラメがしつこく聞くので、オコゼは好きな子を教えてあげました。
「実は僕は、ボラのことが好きなんだ」
それを聞いたヒラメは吹きだして笑ってしまいました。
「ボラってこの海の美しい魚の5本の指に入るあのボラのことかい」
オコゼは怒った顔で、そうだよと答えました。
「ボラのあの顔と、オコゼ君の」
「みなまでいうな。分かってるからこそ言いたくなかったのに」
今度は悲しい顔をしてオコゼがそう言いました。
「告白をするつもりはないのかい」ヒラメは真剣な表情で聞きました。
「しないよ。結果は分かりきっているじゃないか」オコゼは真剣な顔で答えました。
「そんなのやってみないと分からないじゃないか。顔だけが大切じゃない。君にはその美しい心があるじゃないか。当たってくだけろだよ」
そう言ってヒラメはオコゼを励ましました。すると、オコゼもいつしかその気になって告白の特訓をヒラメと始めました。
そんな告白の練習をしていたある日、ヒラメがいいました。
「オコゼ君。巷では整形というのが流行っているみたいなんだけど知っているかい」
「整形なんて初めて聞いたよ。どんなものなんだいヒラメ君」
「整形っていうのは顔なんかを美しくすることなんだって。ノコギリザメさんやシュモクザメさんたちがやってくれるみたいだよ」
「でもそれって本当。整形した魚いるの」
「クエが整形してたよ。僕もみたけど、それは前の姿と比べられないほど美しかったね。あの分厚い唇がシュッとした唇になっていたよ」
「へぇ、すごいね。僕もしてみようかな」
「オコゼ君もしたほうがいいよ。そしたらきっと告白も上手くいくよ」
ヒラメに勧められたオコゼはしばらく悩んでいたものの、整形をすることにしました。
「オコゼ君。見違えるほど美しくなったね。まるで関サバみたいだよ」
「ヒラメ君、それは言い過ぎだけど嬉しいよ。これで自信をもってボラに告白出来るよ。ありがとう」
そういうとオコゼは元気よくボラのところへ泳いでいきました。
「ボラさん。お話しがあります」
オコゼは顔を真っ赤に染めながらボラにいいました。
「待って、あなたは誰ですか」
ボラは目の前にいる魚が、オコゼだと分からないようです。
「僕だよ。オコゼだよ」
そう答えたオコゼを、ボラは目を点にして見つめていました。オコゼはボラに整形をしたことを説明しました。ボラは驚き、聞きました。どうして整形なんかしたの。
「それは・・・。僕は君のことが好きなんだ。だから少しでも釣り合うようにって。これなら一緒に泳いでも恥ずかしくはないでしょ」
その言葉に、ボラの表情はみるみると暗くなっていきました。
「自分の顔をそんな理由で変えてしまう人とは付き合えないわ」ボラはそう答えました。
「だったら、整形をしなかったら付き合ってくれたのかい」
オコゼはそう聞きました。少しの沈黙が二人の間に流れ、ボラは答えました。
「付き合ってないわ。だってわたし、あなたと付き合うくらいなら、塩焼き、いや、刺身、いやいや、海の藻屑になったほうがましだもの」
そういうとボラはオコゼから逃げるように泳いでいきました。
「待ってくれ。僕の腹のなかは、この顔よりももっと美しいんだ。はらわたを食べてみてくれーー」
オコゼは遠くなっていくボラに叫びました。
「ヒラメ君。やっぱりダメだったよ。顔ではなかったら、僕のなにがいけないのかな」
「そっか。でもオコゼ君のいいところを僕はいっぱい知っているよ。オコゼ君は僕の一番の友達さ」
オコゼ君とヒラメ君は改めてお互いの友情を感じました。
女性の愛には恵まれなかったオコゼでしたが、友達との絆を再確認し、楽しく過ごしましたとさ。
おしまい。