プロローグ 「逃避行のfalling down.」
初の連載ですので、不慣れな点もございますが、
皆さんを楽しませる事のできる作品であることを祈っております。
まだまだ、未熟者の私ですが、是非とも読んでいただければ幸いでございます。
一部、修正しました。
プロローグ
「逃避行のfalling down.」
春のある日、おおよそ5時頃だろうか、多くの高校生がグラウンドで部活動に励む威勢の良い声が鳴り響く。
教室の一角からも吹奏楽部の空間、そして瞬間を包み込むような音色が響き渡る。
春は、多くの人々が新しい生活を始める時期でもある。
部活で活躍する、彼氏(彼女)を作る、など...様々な目的や目標を持つ者もいるだろうが、大体はそんな直ぐに何がやりたいかなど見つけられるものではないだろう。
しかし、欲は誰にでもあるはずだ。
ーお金が欲しい。
ーモテたい。
...etc.
しかし、この男は違っていた。
鏑川勇斗、茶色のアシンメトリーヘアで、
後ろ髪を両サイドにはねた彼は所謂さとり世代の
代表格とも言われる存在で、物欲も性欲も0ではないが他と比較すれば圧倒的に低かった。
...と言うよりは、他の物事への関心が薄い。
彼は現在、入学当初から話題の美少女、如月結と大量の資料を職員室から教室に二人きりで運んでいるのだが、照れる様子もそわそわも何もない。
むしろ、早く帰りたそうだった。
「あ...あの、鏑川くん、やっぱりクラス委員でも無いのに手伝わせちゃって、嫌だったかな?それとも、私と二人きりだとまずいとか...?」
「いや、別に大丈夫。俺も暇だったし。ただ...。」
「ただ?」
「なんか、もう飽きた。」
「えぇッ!まだ3分も経ってないよ。」
「でも、これまだ終わらなそうじゃん。」
「二人で頑張れば直ぐに終わるよッ。ほら、頑張ろう?」
一瞬驚いたが何とかして落ち着きを取り戻し、勇斗のやる気を引き出そうとする。
しかし、彼女の内心は落ち着いてはいなかった。
何故なら、如月結は外面は健気で清楚だが、その本性は自分を世界一の美女だと自負しているからだ。
彼女はプライドが高く、自分に興味を示す素振りを見せない勇斗に先程からこう思っている。
「私に対してその態度は何? 少しは照れたりしないの?嬉しく無いの?こんな美女と二人きりなのよ!少しは反応しなさいよ。」
結は勇斗がなぜ、美人である自分を見ても反応が無いのかとても不思議な気持ちだった。
勇斗は彼女の視線に気がついた。
「どうかしたの?」
「え?な...何でもないよ。なんでもッ!それより、早くしよっ。」
慌てる結。
次の瞬間、階段で足を滑らせてバランスを崩す彼女。
「危ないっ!!」
咄嗟の判断で手元にある大量の資料を放り投げ、手を伸ばす勇斗は彼女の腕を掴んだがもう遅かった。
二人は、見事に転げ落ちた。
目立った外傷はなかった、しかし...
むにゅぅ
勇斗はたしかにその感触を認知していた。
柔らかく、包容力のある禁断の手触りを感じていた。
勇斗はの手は結の胸を捕らえていた。
「あっ...ご、ゴメン。」
結は座り込んだまま、俯いて顔を赤くしている。
流石の勇斗もこの時はどうすべきか分からず、狼狽
していた。
刹那の沈黙の末、その場から立ち上がった二人は急いで作業を終わらせて帰った。
あれ以来、その間に会話を交わす事はなかった。
結は3日間、学校を休んだ。
たったの3日だったが、それは勇斗の高校生活を変えるには十分な時間だった。
勇斗はいじめの標的になった。
それは、初めの内は小さな悪戯の様なものだったが、
次第に規模は大きくなっていった。
いじめの原因は、あの時、如月結に覆い被さって胸を触った事を目撃した誰かが、写真に撮ってそれを高校の生徒の間に流出させた事にある。
それから勇斗は、男子からは嫉妬の渦に巻き込まれ、女子からは痴漢扱いを受けてしまう。
ある朝、目覚めた勇斗は憂鬱な気分に襲われた。
カーテンの隙間から彼の部屋を照らす燦々とした日の光は、散々な一日の始まりを告げている様だった。
「早く、起きなさい。遅刻するわよっ!!」
母親の声が家に轟く。
勇斗は布団から出る気を喪失していた。
彼はこれから学校で起こるであろう事を想像して...
引きこもりになった。
それから数週間後の夜、海外出張していた父親が帰って来た。
母親が心配そうに父を頼る。
「あなた、勇斗が部屋から出てきてくれないのよ。何とか言ってあげて!」
「はぁ、まったく、困った息子だ。」
父親が勇斗の部屋の前に立つ。
そして、扉越しに口を開いた。
「あのな、勇斗!学校で何があったか知らないし、話したくないのであれば、無理に詮索はしない。しかしだな、お前がしっかりとしていればこんなことにはならなかった筈だ。」
勇斗は父親のその台詞に憤りを覚えた。
たしかに、しっかりしなきゃと言う自覚はなかった訳ではない。
それでも、数週間振りに合う父親から言われる最初の一言がこれとは、ショックだった。
そして、父親はとどめを刺してしまう。
「勇斗、いい加減にしろっ!!いつまでそうやって逃げ続ける気だ?」
「...」
勇斗は何も言わず、部屋から出て家族の前に姿を表した。
そして、今までにない程の怒鳴り声を発した。
「父さんも、母さんもなんなんだよっ!!俺の事なんにも知らないでッ!!勝手なこと言うなよっ!!」
「勇斗、なんだその口の聞き方は!!」
「もう、知らないっ!こんな家、出て行ってやる!!!」
勇斗は家から飛び出した。
そして走った、どこまでも、どこまでも。
行く宛もなく、何処に向かっているのかも分からないまま
ひたすらに走った。
暫くすると、明かりが無くなっていることが分かった。
どこまで進んだろうか、さっきまでの街灯や家屋の灯りも無くなっていた。
見上げればそこには、星に囲まれた満月が空に輝くだけだった。
「はぁ...何でこんなことに...」
ため息をついていると、森の奥で青白い微かな光を見つけた。
大急ぎで、光の下へと向かう勇斗。
草木を掻き分けて森の中を駆ける。
しかし、この暗闇のなか足元が見えている訳もなく、この先で起こる事を彼は知る由もない。
真っ暗な森の中を必死で走る勇斗。
もう少しで、光に届くと思われたその時、勇斗に謎の浮遊感が
襲った。
そこは、地元でも都市伝説の一つとして語られる「神隠しの穴」だった。
その穴に入ったものは、二度と帰っては来られないと言う。
「ふぇっ!?」
唐突過ぎる出来事に、声が裏返ってしまう勇斗。
「うわっ!あ、あ、ああぁぁぁぁぁぁ!!!」
穴の中で小さくなる勇斗の声。
彼の脳裏によぎったもの、それは「死」の一文字だった。
時を同じくして、某研究施設。
「ラルフさん...実験の調子はどうですか?」
「ん~、順調だよ。でも、何かがちょ~っと足りないんだよねぇ。それが、分かれば完成するんだろうけどなぁ~。」
仮面の男と小柄な少年が無機質で広大な研究施設で不穏な会話をしている。
彼らの目の前には、小さなカプセルの様な物に入れられた虹色に輝く花と、その後ろに金髪の長い髪をした裸の女性が、たっぷりと水の入った大きなカプセルらしき物に閉じ込められ、眠っている。
「フフ...」
仮面の男が不適な笑みを浮かべた。
仮面を着けていても、声でどんな表情をしているかすぐに理解できた。
「もう少しです。もう少しで、私達の悲願を叶えることができるのです。」
その様子を、ミントグリーンの髪をした女性がやるせない様子で遠くから見つめていた。
いかがだったでしょうか?
プロローグの次はいよいよ冒険の始まりです。
さぁ、勇斗くんはどうなってしまうのでしょうか?
今後の展開をお楽しみにください。