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私の職場のビルから遠くの山並みが、晴れた日にはすごく綺麗に見える。
そして最近、そこに風力発電の為の風車がちらほら建ってきた。
いつだったかテレビで、すらっとした白い3枚の羽が、青い空の中で風を受けてくるくると回っているのを見た事がある。人と比べたらすごく高くて大きくて、間近で見たらきっと迫力あるだろうな。
ついこの間、二年前からつきあっている、一応あたしの彼氏って事になってる颯斗にこの話をしたら、俺の車で見に行こうかって話になった。
「……」
でもあたしは今、山間の集落の突き当たりの道を目の前にして買って間なしの愛車のハンドルを握ったまま固まっていた。
舗装は辛うじてしてあるけど細くて対向はできなさそうな道が、鬱蒼とした森の中へと続いていた。
これって林道なのかな。すぐ脇には水がとても綺麗な小川が初夏の陽射しをきらめかせて流れていた。でもガードレールは……ない。
「ほんとに、ここから行くの?」
あたしは助手席の颯斗に念を押すように確かめた。
仕事がキリついたら、ドライブに行こうかっていた矢先、一週間前に家の階段から転げ落ちて右腕ポッキリと折ってしまい三角巾で腕を吊ってて、運転できないからってあたしが車を出す事になってしまった。彼のお母さんに言わせると、腕だけで済んだのが奇跡ってくらいの落ち方をしたらしい。
「だって、道幅が広いドライブウェイはグネグネ曲がりまくってて絶対酔うからヤだっていったのは優璃だぜ? だからこっちの方がまだマシっていうのツレから聞いてきたのに」
「だからってこんな狭いとこから行かなくたっていいのにっ。それに私は自分が運転する分には酔わないはずなのっ!」
ムキになって言い返す。
「俺、そんな事聞いてないし」
しれっと言うと開けっ放しのペットボトルに自由の利く手を伸ばす。
こいつって、いつもそう。ああ言えばこう言う。そうでなくても私はハンドル握らせると豹変するって誰もが口を揃えていうくらい、穏やかにはなれないらしいから、余計にイライラするのね。ああやだやだ。
でもそのおかげで、ここまで来たのだから行っちゃえ!ってな気持ちになり、ギアをセカンドに入れると、私は対向車が来ない事を祈りつつアクセルを踏んだ。