第92話 三匹の爺さん出会う
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カムール国王と宰相が来賓殿から王宮に帰ったので、先ずお風呂に入らせてもらった。来賓殿には、お風呂が二か所あり、人数の多い女性陣が大きいお風呂に、ピエル王子とオグリオ隊長が、小さいお風呂を使用した。久々のお風呂に私もクロシア、シロエもたっぷり時間をかけて堪能する。ママとキャスルさん、キーマさんは、早々にお風呂から出て、居間でお酒を飲みだした。そこにピエル王子とオグリオ隊長も合流し、メイドさんたちが忙しく料理を準備している。お風呂から出た私たち三姉妹は、馬鹿騒ぎしている大人たちを無視して、今回のワグル帝国の動きをクミロワ大公にも把握しておいてもらった方がいいと話し合う。クロシアもシロエも、ワグル帝国には特別な感情が有る。二人を奴隷にしようとしたのも、ワグルの奴隷商である。しかも彼らは、獣人たちの村を一方的に襲い、奴隷狩りを行っていた。ワグル帝国自体が、それを推奨している。セムル湖以東の辺境地帯は10年前に呪樹海の古代竜アンデッド『ゴーラの呪い』が解かれニューセルム辺境伯領となっているが、いつワグル帝国が侵攻してくるか緊張状態が続いている。クミロワ大公国は、呪樹海の東端に砦を築き、飛竜隊を配備して警戒に当たっている。しかし、今回ワグル帝国は、クミロワの飛竜隊を参考に竜騎隊を作ってカムール攻略を目論んだ。僅か三ヶ月の訓練で実戦参加させたのは、クミロワの飛竜隊との戦闘前の予行演習の意味もあったと思われる。しかし、この実戦データは、ワグル帝国の手には戻らないが、他の竜騎隊を組織していないとの保証はない。
「タキア伯父さんにも早く教えておいた方が良いんじゃない。」クロシアが言うが、
「やっぱり、先にダルシャお爺ちゃんだよ。だって、クミロワ大公はおじいちゃんだもの。」とシロエが一言注意する。
「両方に教えちゃお。」私は、のん兵衛たちを放っておくことにした。すぐにキートの白龍城に三人で転移する。転移先は、セリーヌ大公妃の部屋である。私たち三人の突然の出現に、メイドさんたちの表情が一瞬強張ったが、
「あら、アリアナ、クロシアそれにシロエまで、あなた達、転移魔法が使えるんだから、もっと頻繁に帰ってきなさい。おばあちゃん寂しいでしょ。」とセリーヌ大公妃が立ち上がって三人を抱きしめにきた。ここはされるがままのほうが良いと、おばあちゃんの抱擁を甘受する。なにしろエデンに発って三か月以上ご無沙汰してたのだから。
「おばあちゃん、ごめんなさい。急に転移してきちゃうと、護衛の方たちを混乱させてしまうと思って、遠慮してたの。でも、お爺ちゃんと伯父様たちに至急報告する必要がある出来事が発生したので、ちょっと強引におばあ様の部屋に転移してきちゃいました。」と、謝罪すると、
「何言ってるの、孫娘たちが転移して来てくれるのを喜ばない祖母はいません。いつでも歓迎ですよ。それから、転移してくるのは私の部屋だけに特定しておいてね。」と白龍城の転移部屋を指定されてしまったが、メイドさんに指示してクミロワ大公と、第一公子のタキア様を呼んでくれる。
しばらく待つと、クミロワ大公のダルシャお爺ちゃんとタキア伯父さんが飛んで来た。
「おじいちゃん、ご無沙汰。」と言って、シロエが大公に飛びつく。クロシアもタキア公子に抱擁されている。この二人、いつの間にこんな関係を築いたのと醒めた目でその光景を見ながら、
「おじいさま、ご無沙汰しています。私たち今日は、カムール王国の来賓殿から転移してきました。どうしても今回のカムール王国へのイルマニアとドキコアの侵攻について、ワグル帝国の動きをお伝えしておかなければいけないと三人で話し合った結果です。」と長女らしく私が改まって言えば、
「アリアナ、そんなよそよそしい話し方をしないでおくれ。シロエやクロシアのように家族なんだからおじいちゃんと呼んでおくれよ。」と大公が言う。
「おじいちゃん、解りました。ところで他の伯父様方は?」と聞くと
「ああ、今は儂とタキアしか城には居らんのじゃ。なに、明日には皆、帰ってくる。儂が責任を持って奴らに伝えてやるから心配するな。ふふ、悔しがるじゃろうがの。」と嬉しそうに言う。
はあ、ため息が出てしまうが、気を取り直して、イルマニア水軍の侵攻から、ドキコア軍10万の集結とワグル帝国の竜騎隊について砦での攻防を説明する。竜騎隊の話になってやっと大公とタキア公子の顔が引き締まった。
「アリアナ、ワグルの竜騎隊は100騎もいたのか? うちの飛竜隊全軍でも200騎しかいないのに僅か三ヶ月で、猿真似とは言え100騎の竜騎隊を作るとは、見過ごせませんね父上。」とタキア伯父様が言えば、
「うむ、話からは、テイムされていたワイパーンを掻き集めたようだが、次の段階として、飛竜のタマゴを採集しておる可能性もあるの。タマゴから育てて五年もすれば、いっぱしの飛竜となる。三年以内に叩く必要があるの。」と、ワグル侵攻の可能性が出てきた。それで私は閃いた。折角作ったあれを皆に持っていてもらえれば、意思統一や、作戦実行に役立つと。
「そこで、これを皆さんにプレデントします。あ!今日は呉られない三人の伯父様たちの分も用意してますので、好きなのを取って下さい。」私は、ブリリアンカットのダイヤを組み込んだブレスレットを10個、異空間収納から取り出しテーブルに並べる。
「アリアナ、これは何? 私の分も有るの?」とセリーヌおばあ様が言うので、
「通信用オーブと同じ機能のマジックアイテムです。そのダイヤに魔術式が組み込まれており、通信用オーブか、このブレスレットを持った者の顔を思い浮かべると通話できます。私たち三人も、ママも持ってます。腕に嵌めたら使用者登録されますので、いつでも使えます。使用者の魔力を消費しますが、非常に微量ですので、負担にはならないと思います。おじいちゃんとおばあちゃん、それから四人の伯父様たちの分を取ると、4個余りますので、呪樹海東端の砦の司令官や、飛竜隊隊長さんに持ってもらえたら役に立つと思いますよ。」と説明している間に、セリーヌおばあちゃんが腕に嵌め、
「マリアさん、マリアさん、出てちょうだい。」とブレスレットに呼びかける。しばらくすると、お酒で真赤な顔の我らが母マリアの顔がおばあちゃんの前に浮かんだ。
「セリーヌ大公妃さま、すみません、今、戦勝パーティーをカムール国王さまたちと行っていまして、お酒が入っています。申し訳ございません。」とひたすら謝っている。
「ああ、いいのよ。今、アリアナにこのブレスレット貰ったから、すぐに使いたくて貴方を呼んだだけだから。でも、カムールの王都に居る貴方とすぐに話ができるなんて、便利ね、このマジックアイテムは。」と説明する。
「マリアさん、そこにカムール国王様は呉られるのか? 儂に挨拶させてくれ。」と大公が、おばあちゃんの横に駆け寄り、ママに聞くと、
「ええ、ここに宰相様と一緒に呉られますよ。」と言って、かなりお酒の入った二人の御爺さんを紹介する。
「これは、クミロワ大公国ダルシャ大公殿、初めまして、私がカムール国王ジョセフです。」
「私が、宰相のサイラスです。今回は、マリア様と三人のお嬢様たちに大変お世話になりました。ありがとうございます。」と、二人がママの側から挨拶してくる。
「いやあ、マジックアイテムの通信ですが、初めてお会いできました。人間界にも私と同じ、奴隷制度を憎む指導者がいることを知り、何とかお会いしたいと思っていました。」と嬉しそうにダルシャお爺ちゃんが話すので、
「だったら、今からあっちへ行っちゃえば良いじゃん。転移で連れて行こうか?」と私が言うと、
「そうじゃ、アリアナの転移魔法ですぐに会えるんじゃ。よろしいかのカムール国王殿?」と聞く。
「勿論、それから、儂のことは、ジョセフと呼んでくれ、こいつはサイラスで頼む。儂もあんたのことはこれから、ダルシャと呼ばせてもらう。お互い呼び捨てで付き合いたい相手じゃと思うが、いかがかのう?」とジョセフ国王が言えば、
「勿論じゃ、息子のタキアも連れて、すぐにお伺いさせてもらおう。アリアナ頼む。」と言う。
「もう、帰っちゃうの。シロエとクロシアはゆっくりしていきなさい。どうせ、おじいちゃんと伯父さんを送ってくるんでしょ。」とセリーヌおばあちゃんが進めるので、二人の方を見ると、メイドさんの出してくれたケーキのクリームを口の周りに付けた二人が頷く。何時の間にと呆れたが、私は、お爺ちゃんとタキア伯父さんを連れて、カムール王都の来賓殿に転移した。




