第91話 二人の御爺さん
戦勝パーティーの翌日、私は、サエと二匹の弟たちを砦の中に呼び、仲間たちと一緒にカムール王国の王都ナスカムに転移する。
ピエル王子も直接、国王にドキコア軍が撤退し、ワグル帝国竜騎隊80名を捕虜にした報告をしたいとのことで、一緒に転移した。
ナスカムのハンターギルドの前に転移して、すぐにピエル王子に付き従っていた二人の近衛騎士が、王宮に走った。王子と、クミロワ大公国の私たち三姉妹とママ、それからエデン勢のキャスルさん、キーマさん、オグリオ隊長の三名の合計8名は、ハンタイギルドの会議室で迎えを待ち、サエたち三匹の白飛狼は、ギルドの厩で待っていた。
私たちは、ピエル王子の案内で、カムール王国国王に、謁見する事になった。
「早く、帰りたいんですけど。」私がクレームを言うと、
「何言ってんの。報償を頂いていないわよ。」とママが文句を言う。
「別に、大きな戦の後に報償なんて出す余裕は無いでしょ。遣ったことと言えば、ママがイルマニア水軍を氷漬けにしたくらいで、私たちも、ワイパーンを20匹殺した位よ。畏まった謁見なんて遠慮したいです。」と私が泣き落とそうとしたが、
「カムール王国は、今回のイルマニアとドキコアの侵攻を受けるまで、安定した国家運営を行って来ております。国家の恩人に出す報奨金に困ることはありません。それに、今回は、イルマニア王都を制圧しますので、それ以上の賠償を頂きますから、ご心配要りませんよ。」とピエル王子が私を諭してくる。
「でも、サエたち白飛狼三匹を待たせる所が無いじゃない。」と私は諦めない。
「大丈夫です。王城の来賓殿には、充分スペースが有りますので。」と最後の望みもたたれた。
待つこと1時間程で、近衛騎士の二人が、迎えの豪華な馬車と共に戻ってきた。私たち三姉妹は、サエと弟たち白飛狼に乗り、ママ、とエデン勢三人が王子と共に馬車に乗り込む。近衛騎士二人の騎馬について王宮へ向かった。王宮の門は開け放たれ、門衛が敬礼で通過させてくれる。連絡が行き届いている。私たちは王宮の来賓殿に通される。白飛狼三匹も広い厩を用意されており、すぐに豪華な肉料理を振る舞われている。一度、サエに生肉と、味付けされ料理された肉、どちらが好きか聞いておこうと思った。
ピエル王子に案内され、来賓殿の居間に入ると、二人の老人が出迎えてくれた。ゴテゴテした王族だと言うような服装ではなく、執事さんかなと思ったら、ピエル王子が素っ頓狂な声をあげる。
「国王陛下、宰相閣下まで、謁見は明日の朝では・・」
「これ、ピエル、身内だけの時はそんな格式ばった呼び方はしないよう、いつも言ってるじゃろう。」と国王が諌める。
「しかし、こちらにおられるのは、クミロワ大公国ニューセルム辺境伯婦人と令嬢たちですよ。」と異議を挟むが、
「いやいや、そちらにおられるのは、カムール王国の危機を救ってくれた、他国の高ランクハンターの皆様じゃ。クミロワ大公国や、エデン王国が援軍を出した訳ではない。あくまでもハンターギルドの要請で助けて頂いたのじゃ。それでなければ、カムール王国は、人間界の他の国々に舐められてしまう。いや、自国を守るために魔族とエルフを頼った人間界の裏切り者呼ばわりをされてしまうじゃろう。」と言えば、隣の宰相も頷きながら、
「さよう。我らも高い位置から恩人を迎えるような真似は望みませんぞ。顔を合わせてお礼を言いたいのが国王さまの本音です。白銀のブリザード殿、如何かな?」と補足する。
「勿論、それで結構です。クミロワ大公家も重臣たちの前以外は家族的な一族ですので、このほうが私たちは有難いです。」とママが答えた。
「それは良かった。これピエル、早く紹介してくれ。」と国王が催促する。
「はい、それでは、今回イルマニア水軍を氷漬けにして壊滅させた功労者のSランクハンター白銀のブリザードこと、クミロワ大公国ニューセルム辺境伯婦人マリア・クミロワ様とその長女アリアナ様、次女クロシア様、三女シロエ様です。エデン王国の皆様は既に面識が有りますので、父上、叔父上よろしいですね。マリア様、こちらが、我が父、カムール王国国王のジョセフ・カムール、その隣は宰相を務める叔父上、サイラス・モンカムール公爵です。」
「ピエル王子さま、それじゃ私たちは、カムール王国国王さま、カムール王国宰相さまと呼べがいいの?」と堪らず嫌味を言うと、
「ははは、だからピエルは硬すぎると言われるんじゃ。アリアナちゃん達ならジョセフお爺ちゃんと呼んでくれていいぞ。」と国王が言えば、
「そうじゃ、儂もサイラスお爺ちゃんにしてくれ。」と宰相が乗ってくる。
この二人面白い、クミロワ大公と共通点が多いなと感じた。
「それはそうと、マリアさんや、今回の褒賞は、金貨十万枚で勘弁してくれんか?勿論これはあんた達親子だけの分じゃ。エデン王国の三人には同様に金貨十万枚を分けてもらうことになるが。」と国王がママにぶっちゃけた。なんともストレートな申し出である。
「勿論、それで充分です。わずか二日間の加勢しかしてませんもの。」とママが直ぐに了承した。
「お爺ちゃんたち、随分はりこんじゃって大丈夫なの?二方面への軍の派遣費用取り戻せるの?」と私が心配する。
「やさしいのアリアナちゃんは。いや心配はいらんよ。このピエルの兄が、今、イルマニア王都を制圧しにカイルム大河を下っておる。賠償金は、たっぷりふんだくってやるよ。」




