第87話 ワグル帝国竜騎隊
夜までまだ時間がある。私は砦内の広場にバーベキュー用の竈を100個作りその中に炭をタップリ放り込んだ。火魔法で作った炭はニューセルムにいた時に作っておいた物だ。異空間収納にある魔鉄で網を作り竈の上に並べる。Aランクハンターたちが解体してくれるワイパーンの肉を網の上に適当に並べ塩コショウして炭に火を着けた。しばらくすると香ばしい臭いが、広場中に満ちてきた。守備兵たちには、新鮮な肉は久しぶりのようで、ピエル王子さえキーマさんたちとの作戦会議を取りやめ、覗きにきた。
「さあ、皆さん肉はいくらでも有りますので、焼けたものから食べていって下さい。竜騎兵が持って来てくれたワイパーンの肉ですから、遠慮は要りません。たっぷり 食べてくださいね。」と私が言うと、歓声が上がり、皆、肉に群がった。17匹のワイパーンの解体が終わり、肉のブロックをそれぞれの釜の傍に積み上げたAランクハンターたちも、肉に齧り付いては、ブロック肉を切り取り新しく網にのせている。キーマさんも慣れたもので、私があげたミスリルナイフで肉を切り取っては焼いて食べている。さあ、私も食べようかと、近くの竈を見ると、シロエとサエが一生懸命に肉を焼いて食べている。
「シロエ、あんた帰って来たんだったら偵察の報告が先でしょうが、何、焼き肉にがっついて居るのよ。サエ、あんたも一緒よ。」と叱ると、肉を咥えたシロエが傍に寄ってきた。
「お姉ちゃんも、私たちに偵察させておいて、先にバーベキュー始めてたじゃないの。まあ、そんな事はどうでもいいけど、竜騎兵の陣地は大騒ぎになってたよ。3匹のワイパーンだけが逃げ帰ってきたので、指揮官みたいなのが、偵察にこっちに向かったよ。途中で光学迷彩で姿を消して追い越してきたけど、もうすぐ見えるんじゃないかな? 私たちにワイパーンが食べられているのを見たら、撤収してしまうかもね。」と笑って言うので、南方向をサーチする。3騎の竜騎兵が、こちらに慎重に飛んでくるのが解った。
「ふふふ、飛んできたよ3匹の虫が、シロエ、光学迷彩と気配遮断でワイパーンを 仕留めて、3人の竜騎兵を生け捕りにしちゃうか。」シロエが、サエに乗り、私は飛翔魔法を使って捕縛に向かう。
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ワグル帝国竜騎隊隊長ニールは、カムール王国のピューマ砦陽動作戦に出た20騎が、一人も帰還しなかった事に、言いしれぬ不安を抱えていた。しかも、ワイパーンが、3匹だけ逃げ帰ってきている。カムール側がとんでもない兵器を使用したのでは無いかと勘ぐり、全80騎でのリベンジのための襲撃を実行出来なかった。自分と二人の部下だけで、まずは偵察しておこうと、今ピューマ砦に向かっている。元々、この100騎の竜騎隊は、今回が初めての実戦投入になる。クミロワ大公国の飛竜部隊に呪樹海辺境地域から追い出されたワグル帝国の奴隷狩り部隊の話から、急遽、国内のテイマーが所有するワイパーンを買い集め3ヶ月弱の訓練しか出来ていない急造部隊のため、バリスタを恐れるあまり無駄に飛び回り上空から矢を射かける位の攻撃しか出来ない新米部隊である。帰らない20騎は、指示を無視して砦の上空まで深入りしてしまったのではないかと危惧していた。帰らなかった17匹のワイパーンの死体と、討たれたか捕縛された20名の部下の状況を遠くから確認しようと、低空でピューマ砦に近づいていた。突然、後方の部下が乗るワイパーンの悲鳴があがり、振り返ると、部下のワイパーンが2匹共、首を遮断されていた。そのまま下の森に落下する。すぐに自分のワイパーンも悲鳴を上げ首を落とされた。ニールには何がなんなのか理解できず、そのまま部下の後を落下するだけであった。十数メートルの高さからの落下であったが、木々がクッションとなり命に別状は無いが、足を痛めたようで立ち上がることが出来ない。
「おーい、大丈夫か? 何があったか解るか?」と部下たちに声をかけるが、呻き声しか返ってこない。突然、目の前に見た事もないような装束を着た二人の少女と、白飛狼が現れた。ワイパーンの死体に足を挟まれたニールには只、顔をこわばらせる以外出来なかった。
「ふうん、生きていたようね。貴方、ワグルの竜騎兵の隊長でしょ。捕虜になってもらうわね。」と私が言うと、
「お前たちは何ものだ。どうやって俺たちのワイパーンを殺したんだ?」ニールは捕虜になることより、どんな手を使えば、上空の自分達のワイパーンの首を刎ねることが出来たのか問い質した。
「私たちはエデンから援軍にきたハンターよ、これでもAランクハンターだから貴方たちには、負けない自信があってよ。じゃあ、ワイパーンを片付けるわ。」
私は、獲物袋にワイパーンの死体を放り込む。シロエが部下たちのワイパーンを獲物袋に入れに行く。部下ふたりもケガはしているが、命に別状ないようだ。3人の怪我はヒールで治療して、サエに見張らせながら、砦に歩いてむかう。子供二人と白飛狼に抵抗する気配はなかった。




