第86話 ピューマ砦攻防戦
王都を発って、白飛狼サエと私は街道沿いに全速でピューマ砦を目指した。一時間少し飛ぶと、前方に山の稜線が見えてきた。あの稜線を越えた向こう側にピューマ砦があると聞いてきたので、2時間かからずに着けそうだ。街道に続く山道を辿っていくと、峠に差しかかる。峠を越え前方を見ると、5キロほどの所にピューマ砦が姿を現した。のんびり眺めている余裕は無さそうだ。砦の上を、20騎くらいの竜騎兵が飛び交っている。サエと私に気配遮断を掛け、飛び交う竜騎兵に忍び寄る。ワグル帝国の竜騎兵も、ワイパーンを駆ってワイパーンのブレスや、弓矢での攻撃がメインとなっているようだ。クミロワ大公国の飛竜隊のパクリじゃんと思わず呟いた。サエの背に立ち上がり、小太刀さくらの居合抜きを決める。近くに居た3騎の竜騎兵の首が落ちていく。光学迷彩魔法もかけており、何が起きているのか竜騎兵たちには解らない。突然、首が落ちる恐怖から上空で固まって周りを警戒しだしたので、サエが、その周りに風の渦を発生させたので、中心に雷撃大を撃ち込んだ。残っていた17騎の竜騎兵は感電死したワイパーンと一緒に砦の前に落下した。騎手の居なくなった3匹のワイパーンは仲間が全て撃退されたのを見て、バラバラな方角に逃げていった。砦の近くの森の中に降りた私は、光学迷彩と気配遮断を解いてから、砦の正面まで歩いて行く。17匹のワイパーンと17人の竜騎兵は折り重なるように一山になって死んでいる。近くに首の無い3人の死体も落ちていた。17匹のワイパーンの死体だけ、獲物袋に収納して、竜騎兵20人の死体は、ファイヤーウオールに包み焼却してしまった。アンデッド化されないためには必要な処置だ。砦の中から私の行動を観察していたカムール兵たちは、私が手を振ると歓声をあげた。砦の正門が開きピエル王子が駆け寄ってきた。
「アリアナ様、救援ありがとうございます。まさか、カムールに居られたのですか?妹さんたちもいっしょですか?」と聞いてくる。
「違うわ、エデンのハンターギルドの要請を受けて、飛んで来たの。ちょっと転移魔法で、救援を連れてくるから待っててもらえるかな。あ!この子サエって言うの、私の仲間だから心配しないで。」と、白飛狼のサエを紹介してから転移魔法でエデンのハンターギルドのキーマギルドマスターの部屋に転移する。7時間近く待たせていたので、キーマさんが慌てて立ち上がる。よく見ると、ママとクロシアの姿がない。カムールから応援に来ていたAランクハンター5人と、オグリオ隊長と副官のシグナスさん、シロエを入れて9人が立ち上がる。
「つい先程、クロシア様が転移してきて、イルマニア水軍の相手はマリア様と二人で充分だと言われ転移されました。」キーマさんが説明してくれた。
「竜騎兵の相手なんかしてたから、クロシアに遅れを取っちゃったのか。まあ、私を入れて10人だから余裕か、じゃあ、全員私の周りに来て、ピューマ砦に転移しましょ。」と皆を集め転移する。突然、目の前に10人が出現したため、ピエル王子は、驚いているが、その中に知り合いのハンターたちが居たので、状況が理解できたようだ。ピエル王子の案内で、私たちはサエと共に砦の中に入った。中に入って、3万の守備兵の中に負傷した者が結構いるのが確認できた。私は黙って砦全体を包む聖魔法エリアヒールをかけてみる。急にケガが治ったことにびっくりして、兵たちが周りを見回している。ピエル王子には私が治癒魔法を使ったことが解ったようで、
「アリアナ様、ありがとうございます。敵の竜騎兵の嫌がらせ攻撃ですから、まだ、死者はでていませんが、交代でバリスタの用意が間に合わない短時間の遠距離から 矢を放つ嫌がらせ攻撃が続いていて辟易としていたんです。助かりました。」と、説明してくれた。キーマさんや、オグリオ隊長、他の6人には何の事か解らず、不思議そうな顔をしているので、転移で迎えに行く前にワグルの竜騎兵20騎を倒した経緯を説明する。それでひとまず安心したようで、皆、ほっとした顔になったが、
「ピエル殿下、それで、ドキコア軍の状況はどうなっています?」とキーマさんが聞くと、
「ここから5キロ程先の草原に陣を張っています。まあ、このピューマ砦から南はドキコア領ですから、例え10万の兵が陣を張っても文句は言えませんが、イルマニア水軍の侵攻を待っているんじゃないかな?まだ一度もドキコア軍自身は攻撃してきていません。ちょっかいを掛けてくるのは、ワグルの竜騎兵だけです。」と現状をピエル王子が説明してくれた。
「じゃあ、竜騎兵を殲滅したらドキコアは動かないかもしれないわね。何しろ、イルマニア水軍には、うちのSランクハンターが二人も行ってるんだから、500隻の船団がどうなるか見なくても解るわ、白銀のブリザードが宝石選びの邪魔をされたんだから、氷山ができてたりして? それはそうと、竜騎兵たちは何処にいるの?雅か、ドキコア軍の陣の中に居るの?」と私が言うと、
「いや、ドキコアの陣から少し離れた高台に陣を張っているよ。」とピエル王子が答えた。
「シロエ、サエと一緒に偵察してきて。もうすぐ夜になるから、夜襲で殲滅しちゃいましょ。」「うん、解った。」シロエが、サエに乗り飛び立つ。
「夜襲って、今日は20騎も討たれて油断はしてないでしょう。」とピエル王子が止めようとした。
「ふふふ、警戒していても、見えなければ防げません。任せてちょうだい。」とことわってから、「さあ、今日はこれからワイパーンの焼き肉パーティーよ。」と獲物袋から、17匹のワイパーンを取り出し、救援のAランクハンター5人にも手伝ってもらい、解体を始めた。これだけ有れば3万の守備隊も新鮮な肉にありつける。




