第79話 クイーンアント
宝石に目の眩んだママとキャスルさんの姿を眺めていると、私のサーチに元の坑道付近に魔物の反応が現れた。先程のグランドアントと思われるので、今回は、私と、クロシアが迎え撃つつもりで、シロエに護衛を頼んで、先程の場所に引き返す。
やはり、グランドアントの群れである。先程の18匹よりも多い。私とクロシアは、闇魔法の影縛りですべてのグランドアントを捕縛して、おもむろに、小太刀を抜いて彼らに近付いて行った。
「待ってくれ、この魔物たちを殺さんでくれ。」坑道の奥から叫びながら、一人のドワーフが走り出てきた。坑道の奥に人いやドワーフがいるなんて思ってもいなかった私とクロシアは、慌てて小太刀を鞘に収め、
「あなたは、誰ですか?何故、魔物を殺すなと言うの?」と聞く。
「俺は、竜王国に雇われた鉱山技師のモンクっていうもんだ。グランドアントは人を襲ったりしない。地中でロックワームを狩って生きている魔物なんだ。俺たちドワーフの鉱夫たちは、坑道の先で、ロックワームの群れに襲われ、必死で戦ったけんど、戦士じゃねえ俺たちがCランクのロックワームに敵う訳がなくて、100人居た仲間は半分以上食われちまって、一番奥に居た俺と親方と、43人だけになってしまったんだ。そしたら、奴ら坑道を埋めて、俺たちを生き埋めにしてしまおうとしやがった。55人も喰っちまったから、後で喰うために閉じ込めて、死んでからゆっくり喰うつもりだったようだ。生き残っていた俺たちも必死で考えた。奴らが埋めた坑道を掘っても気付かれるだけだから、掘り進んで回り込み元の坑道の入口側へ逃げることにしたんだ。そしたら、グランドアントの巣穴に落ち込んでしまったんだ。もう殺されると諦めた時、クイーンアントが出てきて、頭の中に話しかけてきたんだ。びっくりしたぞ。俺たちがロックワームに追われて逃げ込んできたことを説明したら、グランドアントたちが、すぐにロックワームを狩りに行ってくれ、俺たちを巣穴に保護してくれたんだ。あれから2ヶ月ロックワームを狩り続け、やっと元の坑道まで掘り進んでいたところ、ロックワームの警戒に出ていた18匹のグランドアントが、帰って来なくなって、探していたら、あんた達にぶち当たって終ったのが、今なんだ。」私とクロシアは、慌てて影縛りを解いてグランドアントたちを解放する。
「モンクさん、非常に拙いことになっているんですが、その18匹のグランドアントは既に私たちのメンバーに狩られて終ったの。クイーンアントに謝罪しないといけないわね。」
「ええ、18匹ものグランドアントを1匹残らず狩ってしまったんですか?そんな凄いハンターが来てるんですか?」とモンクさんが驚いているので、
「Sランクハンターが二人も来てるよ。」と教える。
「ひええ、どうかその方たちに、グランドアントを見逃してくれるように、お願いして下さい。彼等は、私たちの命の恩人いや恩モンスターなんですから、このまま狩られてしまっては、助けられた我々ドワーフが恩知らずの民と思われます。」
「解ってます。すぐに連絡してグランドアントを攻撃しないように徹底します。しかし、既に、狩ってしまった18匹の件は、クイーンアントに謝罪しなければなりません。私を、クイーンアントに会わせて貰えませんか?」とモンクさんに答えると、
「はい、すぐに参りましょう。もう坑道は復旧している筈です。」と案内してくれるようだ。私は思念で、ママに今のモンクさんの話と、これからクイーンアントに謝罪に行く事を知らせ、クロシアと共にモンクさんについて旧の坑道を奥に進んだ。
グランドアントの巣に案内され、今、私とクロシアはクイーンアントの前に立っている。周りのグランドアントたちは、距離を取って警戒中である。念話を使ったと聞いていたので、思念を送って話しかける。
「私は、クミロワ大公国のAランクハンター、アリアナです。私たちは、竜王陛下のご招待で、竜王国に参りました。この度、竜王様よりこの鉱山を拝領しましたので、Sランクハンター二人と、私たち3姉妹で、この坑道を調査していました。その際、貴方の部下18名と遭遇し、殲滅してしまいました。貴方が、このドワーフたちを助けて下さった知性ある方だと知り、まずはひと言お詫びしなければならないと、参上した次第です。ハンターとは、モンスターを倒すのが勤めですが、敵でもない貴方の部下を、殺してしまったことを、お詫びいたします。」
クイーンアントは、返事をしてくれない。表情も一切変化が見分けられず、これは思念が通じなかったのではと思い始めた時、クイーンアントの声が頭に届く。
「私は、このグランドアントの女王です。私たちは、この山の地下で、ロックワームを狩り、その身体に卵を産み付けて子孫を得ています。人族の身体では、卵を孵化させ成長させることが出来ないので、人族を殺さなかっただけです。そのことで、ドワーフたちが、私に恩を返す必要は有りませんが、あなた達との戦いを、止めてくれただけで十分です。不慮の遭遇で、私の部下18匹を殲滅したことについても、恨みに思うつもりも有りません。ただ、この山の所有権を貴方が主張され、我々の巣を排除されるつもりなら、全滅を覚悟で戦わせて頂きます。多分、あなた方二人にも太刀打ちできないことは、理解していますが。」
凄い知性を持ったモンスターだと思った。これなら共存できると思い、私は打開策を提案してみる。
「私たちに必要なのは、オリハルコンの鉱脈です。あなた方の巣の近くまで掘り進んで来た坑道には、殆ど残っていません。今、貴方の部下と遭遇した箇所より手前の右側に有望な鉱脈を発見しました。私たちは、そちらの鉱脈に集中しますから旧の坑道を埋めて接触を回避できると考えますが、いかがですか?」と聞くと、
「そうして頂ければ、私たちは、そちらに通路を拡張しないようにします。」と了承された。これで、無駄な戦いをしなくてすむと安心した。改めて、ドワーフたちを助けてくれた礼をいって、彼らを引き連れ新しい坑道の入り口まで戻る。
異空間収納に仮置きしていた新しい坑道を掘り進んだ残土で、旧の坑道を塞ぐ。
まだ、宝石選びに熱中しているママに一旦坑道から出て、45人のドワーフたちを砦の中の建物に移動させてから、食事にしようと連絡し、全員で砦に戻った。




