第72話 キャスル、オグリオ固まる
案の定、ママとポリーさんは昼食も取らず、居間に戻ってきたのは、3時のおや
つが終わってからだった。私たち3姉妹は、新しいメイドさんが、昼食やおやつを
用意してくれるので、何の問題もなかった。
「ふう、やっと半分くらいは鑑定出来たわ。でも、あんた達あの宝石類は何処で
手に入れたの?半分位しか見てないけど、それだけでも30tの黄金より価値が
有るわよ。優に10倍の金額ね。」
「ふうん、あれ、赤竜が貯めこんでた光物よ。塒の洞窟の中に有ったの。全部持
ってきたけど、どうも人間界で集めたみたいよ、ワグル帝国の金貨も少し有った
から。金貨はキャスルさんとオグリオ氏で分けたから、光物全部貰ったの。」と、
適当に嘘を交え話すと、
「偉い、流石、私の娘ね。金貨なんて比べものにならない財宝よ。ママたちがし
っかり保管しとくわね。」と褒められた。
「で、ママ、竜王国に行く準備は出来てるの? これからエデンの宿泊施設に戻
って青竜アクア様の連絡を受けたら、すぐに出発なんだけど。」と聞くと、
「この獲物袋に全部入ってるから、いつでも出発できるよ。」と、どや顔で答え
た。「じゃあ、エデンに転移するよ。ポリーさん、パパを慰めてね。」と言うと
「あれは、放ておけばいいの。じゃあ、気を付けていっといで。」と見送ってく
れる。
エデンの宿泊施設の居間に着いた。メンバーは、パパがママに変わっただけだ。
すぐに、フロントに出向き、帰ったことを伝える。支配人が伝言が有りますと言
うので、聞くと、オグリオ氏とキャスルさんが青竜アクア様と会い、出発は、明日
の午後一になったということだ。また、夕食後くらいに二人が、相談に来ると伝え
られた。部屋に帰り、すぐにママと妹たちにそのことを伝える。3人は、私がフロ
ントに行ってる間に、獲物袋からイカ焼きを出して食べていた。何時買ったのだろ
う、大量買いした分は、私の異空間収納の中にたっぷり有るのにと考えてると、ク
ロシアが、獲物袋から一本イカ焼きを取り出して私に手渡す。食べながら思い出し
た。お祭りのとき、巫女装束に獲物袋をぶらさげて屋台を駆け回っていた二人の姿
を。そして獲物袋で、キーマさんに頼まれていた獲物の件も思い出した。明日朝に
ハンターギルドに行かなきゃならなくなった。ママは結構イカ焼きが気に入ったよ
うで、もう一本クロシアに強請っている。私もイカ焼きを齧りながら、
「クロシア、あんた他にも何かかいこんでるの?」と聞くと、
「うん、串焼き肉、串焼き魚、サンドイッチでしょ。それからくだものを一杯買
い込んでるよ。」「シロエも魚以外全部買い込んだ。お姉ちゃんと一緒。」と答
えが帰ってきた。こいつらの赤竜の金貨20tは全て私の異空間収納の中に入れ
た儘だ。他のワイパーンの引き取り分もオーガの分も全て私の異空間収納の中に
保管してる。何時お金を渡したのか考えていると、調査報酬が金貨330枚だっ
たので、お小遣いに110枚ずつ分けたのを思い出した。10才の子供のお小遣
いが、日本円で換算したら1,100万円である。ママに知られたら取り上げら
れるに決まっているので、二人に幾らお金を持ってるかママには決して言わない
ようにこっそり注意しておく。
夕食も終わり居間のソファーに寛いでいると、キャスルさんとオグリオ氏が入っ
てきた。ソファーに寛ぐママを見て、オグリオ氏の動きが止まった。固まってしま
った。その姿を不審に思ったキャスルさんが改めてこちらを確認し、ママの姿に気
付いて、硬直した。あんたはどんだけ人を怖がらすのよ。と心の中でママに突っ込
んでから、立ち上がって、二人を出迎えることにした。
「キャスルさん、こちらが母のマリアです。オグリオさんとは、一度お会いして
いますので、紹介は省きますね。さあ、こちらへ来てソファーにお掛け下さい。
今回の竜王国への付き添いは、ママがすることになりましたので、もっとフラン
クにお付き合いいただきたいです。」と私が言うと、
「初めてお目にかかります。エデンにおいて、Sランクハンターを務めます風刃
の魔女キャスルです。以後お見知りおきねがいます。」
「エデン王国近衛隊長を務めますオグリオ・ロカです。クミロワでは、見逃して
いただき、ありがとうございました。」と、カチカチの挨拶に
「かたいかたい、もっと力をぬいて、友達のように話してちょうだい。よろしく、
私がこの子たちの母親のマリアよ。それからキャスルさん、私もあなたと同じS
ランクハンターなんだから敬語は止めてよね。」とママが言うと、
「解りました。出来る限りそのように務めます。」と言って、ソファーのほうに
歩いてきた。二人並んでお雛様のようにママの前のソファーに座る。クロシアと
シロエは口を開け二人を見ている。私は溜息しか出ない。
「もう、ママはパパの使ってた部屋に行って休んでてちょうだい。このままじゃ
話ができないもの。どうせ、明日からの旅行の予定だけなんだから、私が聞いと
くから。向こうへ行っといてちょうだい。」「アリアナがママをのけ者にする。」
なんて言っているが、無理やりパパの使っていた部屋に押し込む。
『パン』戻ってきて、二人の目の前で柏手を打つと、ようやく二人が正気に戻っ
てくれた。
「ママはパパの部屋に押し込んだから、今日のお話を進めていただけます?」
「あ!すいません。白銀のブリザード様は、Sランクハンターと言われましても
それ以上ランクがないので、Sランクのままになっている方で、ハンターの憧れ
といいますか、象徴といいますか、お会いできただけで光栄な方なのです。フラ
ンクになんて無理です。絶対無理です。」とキャスルさんは混乱しまくり、
「クミロワでの威圧がなにもないのに甦るんです。私も無理です。」とこちらも
全面降伏してしまった。だからパパのままで良かったのにとぼやきたくなったが、
「はいはい、じゃあ明日からの予定はどうしますか。」と聞くと、
「はい、青竜様から聞いたところ、竜駕籠を2両用意していただけるそうです。
それで、前の竜駕籠にマリア様と皆様3姉妹が乗っていただき、後ろの駕籠に私
とキャスルさんが乗ってついていきます。お昼の1時に北の結界出口から出発す
るそうです。竜駕籠の場合、約8時間の飛行となるそうです。夜の9時に竜王国
に到着して、その日は宿に直行し、次の日、昼すぎに竜王様に全員で拝謁する予
定です。その後、1ヶ月宿泊して観光していいとの話でした。いかがですか?」
「充分よ、最高じゃない、一か月も竜王国の中を観光できるなんて、あんた達が
赤竜を討伐してくれたおかげよ。ありがとうね。」突然現れたママにお礼を言わ
れた二人は、また固まった。




