第70話 世界樹祭
少し、短いです。
やっと、世界樹祭の日がきました。ニューセルムにはお祭りは無く、キートでも
行ったことが無いので、3人ともすごく楽しみにしていました。この日のために、
忍び装束ではなく、巫女装束を作って見ました。白衣に緋袴と千早のセットを3着
作って、3人お揃いの巫女スタイルで世界樹祭に出かけます。迎えに来てくれたオ
グリオ氏は、目を丸くして3人の巫女姿に驚いています。
「アリアナ様、その衣装はなんですか?」恐る恐る聞いてくるので、
「これは、いにしえの神に仕える巫女の装束です。こちらの世界樹セーラ様も神
の一柱ですから、それに敬意を払いこの装束で、お祭りに参加させて頂こうと考
えました。」只、着たかっただけなのに、すらすらと答えてしまう自分が怖い。
私たちは、歩いてお祭りの沿道にある屋台を順番に覗きながら、世界樹の元に向
かいます。パパも、会議が終了したので、一緒に祭り見物について来ています。
世界樹の元には、舞台が設えられ、その上で、舞踊が奉納されていました。優雅
な調べに乗って踊られる舞は、日本の奉納舞に繋がるものがあり、なにか懐かし
い気分にさせてくれます。屋台で買った串焼きを食べながら、一通り舞を見物し
てから、セーラ様の元に向かいます。正面の洞に入って行くと、また巫女が出て
きて、私たちをセーラ様のもとに案内してくれます。只、辿り着けたのは、私と
クロシアとシロエの3人のみで、パパとオグリオ氏は、巫女により別室へ案内さ
れました。
「セーラ様、お久しぶりです。やっとお祭りを見ることができました。女王様の
聖杖をつくってから、いろいろ有りまして、なかなか来られませんでした。セー
ラ様は、自分のための祭をご覧にならないのですか?」
「アリアナ様、ようこそ、それはそうと、竜王様の鱗を手にいれましたようで、
おめでとうございます。竜神様があなたに授けるように手配されたものです。こ
れで勇者たちが啓示を受けても、聖剣、聖杖、聖鎧、聖盾の全てをアリアナ様が
光の女神に代わり授けることができます。いつ悪魔の卵が孵り魔王となっても、
こちらが遅れをとることは無くなりました。これからゆっくり祭を楽しませてい
ただきます。」
「不思議に思ったんだけど、悪魔が生み出した魔王なんて、私たち3姉妹で倒し
ちゃったほうが、速いんじゃないの。態々、勇者を生まれさせて対処させる意味
が有るの?」常々疑問に思っていたので聞いてみる。
「仰る通り、アリアナ様方3姉妹ならば、問題無く魔王を倒せます。しかし、御
三方は女神アリアが異世界より召喚された神の眷属です。マースに生まれた悪魔
を御三方が倒した場合、神が直接干渉したことになりかねません。その場合、こ
のマースの森羅万象に狂いが生じる可能性が有ります。このマースに生まれた悪
魔の魔王は、このマースに生まれた勇者たちの手で打ち倒すのが、最も安全な対
応なのです。アンデッドの古代竜ゴーラは、既に竜王軍に討たれた後にリッチと
なって甦っていたもので、黄金の女神が直接浄化しても、差し障りなかったので
すが、この世界が生み出した魔王に直接手出しはできないのです。それに、魔王
は、貴方様方を求めこそすれ、決して害しようとはしないでしょう。そんな相手
をあなた方は、殺せますか?」最後の言葉が引っ掛かる。何故魔王は、私たちを
求めるのか気になり聞いてみると、
「それは、魔王の原形たる悪魔も、元々は神々の一柱だったからです。一人闇に
落ち怨念を取り込み続けた結果、悪魔となり自分を見捨てた神々に報復すること
で、この世界を変えてしまおうとしているのです。そして新な世界の神々にあな
た方を求める筈です。自分を黄泉の世界から救ってくれる絶対神として。」
「何か嫌な話だよね。敵対してこない相手を殺すことは出来ないけど、大事な仲
間たちを滅ぼされるのも困るし、しょうがない。勇者たちが来たら全部作って授
けるよ。それしかないよね。」とクロシアとシロエに確認する。二人は黙って頷
いてくれた。さあ、今の話は一旦忘れてお祭りを楽しもうと、パパとオグリオ氏
の待つ部屋に戻り5人で屋台巡りを開始するのだった。




