第64話 元凶発見する
私たちは、エルナ村のすぐ手前に転移した。何か、各日でこの方面に来ている気
がする。いや、実際その通りだ。ここで待っていたらもうすぐキャスルさんが馬で
来るだろうが、どうせ、今日はエルナ村に宿泊して、明日の朝から調査のための山
登りになる。
「クロシア、村長さんとこに行って、ここに山小屋建てて、キャスルさんを待つ
と言ってきてくれる。」
「ラジャアー」と言って飛んで行くクロシアを見たオグリオ氏が、
「今のラジャアーって何のことですか?」と聞いてくるので、
「了解って意味よ、私たちの間だけのね。」と答えておく。
私は、まず村への入り口前の空き地を土魔法で整地し、異空間収納から山小屋を
出し、次に馬小屋も出してキャスルさんの馬を入れられるようにしておく。すぐに
クロシアが帰って来たので、夕食の準備にかかる。まだ時間が有るので、バーベキ
ューばかりじゃ飽きると思い、野菜サラダとビーフシチューとパンにしようと言う
と、クロシアが魚も欲しいと言うので、エデンにくる途中の湖で取った魚が異空間
収納にまだタップリ有った事を思い出し切り身をムニエルにしてみた。久々に料理
らしいものが出来たので、テーブルを出して準備をしていると、キャスルさんの馬
の蹄の音がしてきた。私たちの姿に気がついたキャスルさんが馬を制して近づいて
くる。
「キャスルさん、応援に来たよ。馬を馬小屋に入れて、食事にしよう。」と私が
言うと、「アリアナ様には、いつも驚かされます。キーマさんの要請ですか?」
と聞いてくる。私たちが頷くと、ほっとしたように気を緩め、馬を馬小屋につれ
ていく。すぐに戻ってきたので、火魔法で暖めたおしぼりを渡すと嬉しそうに顔
と手をぬぐい食卓についた。私たち3人はいつもの習慣で、手を合わせ「いただ
きます。」と言って食べ始める。オグリオ氏とキャスルさんが不思議そうに見る
ので「我が家の食事まえの習慣です。気にしないで」と言って食事を勧める。ハ
イエルフのキャスルさんは、予想した通り肉や魚より野菜サラダに夢中だ。特に
トマトを湯むきしているのが、新鮮らしく美味しそうに食べてくれる。シロエは
肉メインのビーフシチュー、クロシアは魚のムニエルと、単品に集中するので、
二人の頭に拳骨を落とした。全ての料理を満遍なく食べるように注意すると、キ
ャスルさんも、シチューとムニエルに手をつけだした。あんたも子供か?と心で
思い、口には出さない。
「キャスルさん、いくらSランクハンターでも、相手の解らない調査に一人で行
くようなまねはしないで下さい。午前中私たちが居なかったのも悪いのですから、
これ以上は言いませんが、うちのパパやママも単独行動は決してしないことを、
知って置いて下さいね。10才の子供3人でも十分役に立てると思いますよ。」
と、一言言っておく。
「ごめんね、魔杖を手にしてから、すごく戦いたく成っちゃったのよ。ほんとに
何が居るのか気になってじっとして居られなかったの。でも、貴方たちが来てく
れたので、本当に感謝してるのよ。で、この山小屋と、馬小屋はどうしたの?一
昨日ギルドに帰る時には無かったよね。」と言うので、
「異空間収納に入れて有るの。私の生まれ育った家なのよ、ニューセルムの郊外
に有ったんだけど、屋敷に建て替えた時、土台ごと異空間収納に保管して旅先で
利用してるのよ。お風呂も有るから、この後入ってちょうだい。馬はこの馬小屋
に置いていって大丈夫よ。馬小屋の中に飼い葉と水はたっぷり用意してあるから
二三日なら心配要らないから。」と教えると、「こんな空間魔法まで使えたの?」
と呆れていた。食後、皆、お風呂に入って早い目に休むことにした。クロシアと
シロエは私の部屋で一緒に寝て、キャスルさんにはパパとママの部屋を使って貰
った。オグリオ氏には居間のソファーで休んでもらった。
翌日早く朝食を済ませた私たち5人は、オーガの砦跡に転移する。ここからは、
山登りになるので、オグリオ氏も鎧兜ではなく、皮鎧の冒険者スタイルである。キ
ャスルさんはいつもの軽装に、マントを羽織っている。私には人目で解る防御耐性
機能と、温度調整機能付きの魔法使い用だ。魔法耐性も有るようだ。
「さあ、出発しましょう。何が出るかな?楽しみ。」と言ってキャスルさんを先
頭に、忍び装束の私たち3人が続く。殿は、オグリオ氏である。私は、20キロ
先まで、サーチを掛けてみる。Bランク以下の魔物が見当たらない。いや、魔物が
1匹も居ない。山の中腹あたりまで何も居ないことを皆に知らせ私とクロシアの飛
翔魔法を使い、全員を山の中腹に運ぶ。改めて山頂方向をサーチしてみると、居た。
しかし、二カ所に反応がある。右前方6キロの崖際に5匹のAランク魔物の気配
があり、左前方8キロ周辺にCランク魔物の20匹の群れと1匹のAランク魔物が
いるのが解った。早速、クロシアに右手、シロエに左の群れの偵察を指示し、他の
気配を探してみる。山頂付近までサーチを伸ばして見つけてしまった。Sランクに
近い魔物である。多分A+++ぐらいは十分にあると思う。何ものなのだろう?と
考えていたら、クロシアが帰って来た。「サイプロクスが5匹いたにゃ。でもサイ
クロプスってCランクの茶色の3m位の筈にゃ。あそこにいたのは、赤い肌の倍以
上の大きさばかりだったにゃ。」と言う。上位種が5匹も群れている魔物ではない
ので、どこかおかしい。次にシロエが帰って来たので、話を聞くと、「黒狼の群れ
を上位種の黒鬼狼が率いて西に移動中のようだよ。何かに怯えて中央山脈のほうに
こっそり逃げている感じ。」と、シロエが言うので、皆で計画を練ることにする。
「山頂のすぐ下の洞窟にいるSランクに近い魔物が元凶みたいね。サイクロプス
はその配下と考えれば、辻褄が合うわ。普通サイクロプスは3mくらいのCラン
クの魔物です。5匹が全て上位種いえこの場合は特異種と考えれば、倍の6m以
上のAランク相当となったサイクロプスが群れている事にも、納得できます。黒
鬼狼と黒狼の群れは、それから逃げていると思えますので、今回は見逃して問題
ないと思います。キャスルさんどう思いますか?」と聞くと、「私も同じ考えよ、
でも、特異種と言え、5匹が一緒とは面倒ね。」キャスルさんの言葉にオグリオ
氏も、「Aランクを5匹一度に相手するのは厳しいですね。しかも山頂付近にい
る元凶のSランク擬きの正体も気になりますね。」と言う。ヨシアの知識をフル
稼働して検討していた私はやっと相手の正体に思い至った。クロシアの言葉の中
にヒントがあった。思わず、クロシアの頭を撫でながら、
「多分、元凶は『赤竜』だと思います。ランクは単体でA+++ですが、奴には
魔力と魔法を付与して眷属をつくる能力が有ります。そして、その眷属を従えた
時のランクはSと言われます。あの5匹のサイプロクスは、火魔法と魔力を赤竜
に与えられた眷属となっています。先に5匹のサイプロクスを殲滅して、赤竜を
討伐するのがベストですね。1匹でも、赤竜の元に戻しては面倒になりますので、
今が、最高のチャンスです。只、眷属と赤竜の間には意識の繋がりが有るため、
攻撃開始とともに赤竜がこちらに飛んでくる。距離は30キロしかないため、多
分10分後には辿り着く。サイプロクス5匹は10分以内に殲滅しておかなけれ
ばならない。以上ですが、いけますか?」とキャスルさんとオグリオ氏に聞いて
みる。




