第6話 呪樹海探検隊②
今日、呪樹海探検隊が出発する。話から推測すると、獣人6名とダークエルフ5名及び我が父イルシャの総勢12名である。もちろん、俺の思念体も同行する予定である。あ! ここで説明しておくが、時間の概念は、地球とほとんど同じ1日24時間で、週6日、5週間で1ヶ月、1年12ヶ月の360日で、5日少ない。1週間は、光曜日から始まり、火、水、風、土、闇曜日と、魔法属性で決められており、人族の間では、光曜日が休息日で、魔族の休息日は、闇曜日のようである。獣人や、エルフ達は、疲れた日が休息日とたいへん応らかである。また、時間を知るのは、街に住むものにとっては、朝1のカネが、6時、朝2のカネが9時、昼1のカネが12時、昼2のカネが15時、夕のカネが18時、夜のカネが21時である。貴族や、大商人達は、魔道具の時計を見て、正確な時間を把握しているが、一般のものにとっては、6刻の鐘のしらせで十分生活に差し障りはない。なぜ、こんな説明をしたのかというと、只、呪樹海探検隊の出発時間を言いたかっただけである。
朝2のカネの音を聞き12名の探検隊は、ニューセルムを出発した。勿論、俺も母マリアの腕に抱かれて見送る。うんざりしたように、母マリアが呟く。
「あのバカ、やっと行ったわ。」その言葉に俺も思わず肯くところだった。先程までの父イルシャの醜態が・・・・
目に涙をためて、
「ああ・・アリアナ、パパ行ってくるね。やっぱり止めとこう。」 バシ!! 頭を母にしばかれるが、
「でも、こんなに可愛いんだよ、こんなの拷問だ。」 バシ!! また、叩かれた。泣きながら走っていった。
恥ずかしかった。母マリアはもっと恥ずかしかったと思う。赤い顔をして、山小屋にそそくさと帰ろうとしたが、
「マリア、ちょっと待って、馬車で送るわ。」
ニューセルムのハンターギルドの受付嬢で豹族のポリーさんが声をかけてくれた。何でも古くからの母の友達なんだそうだ。
「仕事、大丈夫なの?」
「稼ぎ頭が皆、呪樹海に行っちゃったから、今日はもうお休みにするわ。」
あまりの言葉にびっくりして、母は
「そんな簡単にお休みできるの?」
「大丈夫、私は元Bランクハンターよ、ギルドマスターのお願いで、受付嬢をやってあげてるの。文句が有るなら、いつでもやめてハンターに復帰するだけよ。そんな事より、明日も休むから、あんたの家に泊めてよ。そしたら、今日は、アリアナちゃんと一日遊ぶんだから。いいでしょ、ギルドマスター!」
そばのおじさんに問いかける。もはや決定事項のようだけど。おじさんが首を縦に何度もふると、ニコっと笑って、母の側に歩いてきた。
「歩いたら1時間以上掛かるから、お願いするわ。泊まりもokよ。」母も嬉しそうなので、いいかと思う。
馬車に揺られながら、探検隊のことを考える。大人の足で急いだら2時間くらいで、呪樹海に辿り着くと思うから、11時ぐらいか。早めに昼食にして、呪樹海探検は、12時からくらいだな。お昼を食べたら、お昼寝するようにして、思念体を飛ばして、父イルシャについて行こうと決めた。
お昼まで、ポリーさんに悩殺の笑顔を振りまき、ミルクの後は、計画通り眠むそうに瞼を閉じてベッドに運んでもらう。
『さあ、思念体を飛ばして呪樹海探検だ。』
思念を東に飛ばす。歩けば大人でも2時間以上かかる距離を一瞬で飛ぶ。
『いたいた。みーつけた。』呪樹海境界の手前に12名の一団がいた。これから進入する様だ。父はどこかな?と探すと、先頭から3人目だ。急に獣人の数名とダークエルフ達が、不審げに回りを見回しだした。
『やば! 魔力や感の強い人には何か感じるんだ。気配遮断強化しとこ。』
気のせいかという感じで警戒を解いてくれた。あれ! 父イルシャが嬉しそうに俺の方をみている。
『ええ・・、パパ見えるの?』思わず聞いてしまう。
『もちろんさ。女神さまが授けてくれた最愛の娘の心が感じられない筈ないじゃないか。でも、こんな力があったのかと驚いてもいるよ。』
『じゃあ、みんなに内緒で探検に付いて行っていい? もちろん思念体で。』
『思念体でも 一緒にいてくれるなら、大歓迎さ。父さんの肩に乗っておくれ』
思念だけの会話が成立した。なんか引っ掛かるけど、まあ、いいか。父イルシャの肩に思念体を付ける。イルシャ顔がとろけそうで怖い。大丈夫???
「これより、呪樹海に侵入します。出発!」先頭の獣人が全員に声をかける。前方をみると、生気溢れる瑞々しい緑の森が、一面に広がっていた。




