第59話 オグリオ・モニカ兄妹
聖杖ナスカを生み出し、今回のエデン訪問の最大目的(ママの目的)である世界
樹の枝の極上品99本を手に入れた私は、何か疲れていた。そこで、オグリオ氏に
美味しいお茶とケーキのあるお店を知らないかと聞いたところ、自信あり気につい
て来てくださいと言うので、案内してもらう。そこは、ハンターギルドに向かう通
りから、すこし中に入った、とてもオグリオさん好みとは思えない、お洒落な喫茶
店であった。店名の看板に、「モカロカ」と書かれていた。中に入って、窓際の4
人掛けの席に座る。結構大きな楕円のテーブルなので、向かい合わせではなく、全
員が適当に窓の外をながめられるイスの配置がうれしい。紅茶とケーキをお願いし
て、世界樹セーラとのやり取りを皆に説明する。女王のために聖杖ナスカを作った
ところで、オグリオ氏が感激してしまい、明日、世界樹セーラが直接女王に聖杖ナ
スカを手渡すことを教えると、すぐに女王に報告したいと城に飛んで行った。頼ん
だケーキが手付かずだったので、シロエが美味しくいただいた。こんな落ち着くお
洒落な店をよくオグリオ氏が知っていたものだと感心していたら、店のオーナーが
挨拶に来た。近衛隊隊長の連れてきた客だから挨拶に来たのかと思っていたら、違
う事が直ぐに解った。
「ようこそいらっしゃいませ、クミロワ大公国のお客様ですね。わたくし、この
店のオーナーをしていますモニカ・ロカです。オグリオの妹です。もっと早くお
連れするように何度も兄に言ってたんですが、なかなか、お連れしてくれないの
で、半分諦めていました。今日は私のケーキとお茶を召し上がっていただいて、
本当に嬉しいです。お口に合いましたでしょうか?」と、10才の娘3人に言う。
「大変美味しかったです。このお店のオーナーさんだと、他にもお仕事をされて
居るんですか?」と聞くと、「はい、元々我がロカ家は、軍人の家柄でして、何
の巡り合わせか、父は評議会の議員ですが、兄は近衛隊の隊長を務め、私は女王
さまの護衛隊隊長を務めています。」と答えたので、あれ?と思い、
「近衛隊は普通、女王様の護衛をされるのではないのですか?」と、疑問を投げ
かける。
「普通の国家ではそうですね。でも、エデンの近衛隊が護るのは、世界樹です。
世界樹を中心に東西南北に1キロ離れた所にそれぞれ駐屯詰め所があり、近衛
1番隊から近衛4番隊まで詰めております。兄は近衛1番隊隊長です。それか
ら余談ですが、4つの近衛隊を纏める大隊長が女王なのです。お解りいただけ
ましたでしょうか?」とモニカさんが説明してくれた。
「よく解りました。それで、今日はモニカさんは非番の日なのですか。」と確
認すると、「ええ、」と頷いて、
「いつも、女王様に用があるときだけしか私の所に来ないのに、よく私が非番
の日に皆様を連れて来てくれたものだと感心していました。」と言うが、絶対
覚えていたとは思えない。若しかしたら、今頃城でモニカさんを探しているか
も知れないと思い、オグリオさんが飛び出していった理由を教えてあげる。す
ると、モニカさんも私と同じ想像をしたのか、すぐに、
「わたくしもこれから城に戻る急用が出来ましたので、失礼します。」と言っ
て飛び出して行った。そんな兄妹を見て、ホンワカとした気分になれ、疲れが
取れたので、ハンターギルドに向かうことにした。
ハンターギルドに入って行くと、キャスルさんが待ち構えていた。すぐにギル
ドマスターの部屋に案内され、キーマさんと冷蔵・冷凍保管庫の建造準備を始め
る。まず、建造場所の決定と保管庫の大きさについて、昨日聞いていた内容の再
確認をし、じゃあそろそろ造っちゃいますかと、建造現場の解体場の側に全員移
動する。今回そばに森はないので、断熱材の代わりになる物がない。私の前世の
記憶から真空断熱を利用することにした。石材で大きな箱を造る。石材の中に真
空の隙間を巡らした。天井の石材も、床の石材も同様に一面真空の隙間を持つも
のに改造し、接合部には忍び装束に使った布を張り1時間程でエルナ村の3倍の
容量を持つ石造りの箱が出来上がる。正面に3m角の開口を設けていたので、魔
鉄の塊を取り出し1.5m×3mの長方形の木枠を2個作りそれを2ミリ程の厚
さに伸ばした魔鉄の板で覆い中を真空にした。流石に魔鉄だ。真空に引かれヘコ
みがでるか心配したが、しっかりしたものである。間口の両側に取り付けて両開
きの扉が完成した。残った魔鉄で、冷却送風機を8個作り前面、後面、両側面に
各2個取り付けた。オークの魔石8個を取り出しそれぞれの冷却送風機にセット
して、起動ボタンを押す。エルナ村同様にマイナス10℃から5℃の範囲で設定
可能としており、保管する商品で温度を決めて下さいとキーマさんに説明する。
トータル3時間でハンターギルドご注文の冷蔵・冷凍保管庫の建造終了である。
石材の加工や接合によく手伝ってくれたクロシアとシロエに、お礼を言って甘魔
桃を、ご褒美にあげる。嬉しそうに甘魔桃を食べる二人を、羨ましげにキーマさ
んとキャスルさんが見ていた。それを見なかったことにして、隣の解体場に行き
ワイパーンの肉500キロを引き取る。もうお昼も過ぎてしまったので、ギルド
の裏の空き地で昼食にバーベキューしていいかキーマさんに聞くと了解してくれ
た。私たち3人とキーマさん、キャスルさんの5人で空き地に行く。私が土魔法
で竈を作ると、シロエが獲物袋から網を出し竈に乗せる。クロシアが獲物袋から
昨日たっぷり作った薪の残りを出して竈に入れ火を着ける。その間にワイパーン
の肉をステーキサイズに切っていた私は網の上に肉を並べる。2日連続の昼食が
バーベキューになったが、一人も文句を言わないのはやはり旨いからだろう。
今日も5人でワイパーンの肉を20キロ完食である。




