第58話 聖杖ナスカ誕生
次の朝、目覚めると昨夜のことが思い出された。今日は朝一に世界樹に出向く必
要がある。朝食後、オグリオ氏の到着を待って、パパを除く3姉妹とオグリオ氏で
昨夜の夢の出来事を、説明した。アリア様の介入は伏せてだが、それを聞いたオグ
リオ氏が慌てて、
「世界樹セーラ様にお会いになったのですか、それは、今日是非とも世界樹の元
に出向く必要が有ります。これからすぐに向かいましょう。ギルドマスターには
部下に走らせて、事情を説明させますので、ご心配いりません。」
さすが、世界樹命のハイエルフである。何にもまして、世界樹の啓示は、彼らに
取って、最重要課題のようだ。私たちはすぐに、世界樹の元に向かった。エデンの
街の本当に中心にその木はあった。女王の城や議会からは少し離れた場所であるが、
エデンの結界内に入ったらすぐに見える巨木である。幹の部分で直径1キロ以上あ
るその巨木の高さは、想像できない。世界樹の元ってどこよと思いながら、オグリ
オ氏についていくと、根本の一角に祠が見えてきた。4人でその中にはいると、ど
こからか3人の巫女が現れ、
「世界樹の元にどのようなご用件でしょうか?」と尋ねてきたので、
私が一歩前に出て
「クミロワ大公国ニューセルム辺境伯の娘アリアナです。昨夜夢の中で、セーラ
様に呼ばれました。」と答えると、3人の巫女は顔を見合わせ、
「畏まりました。伺っております。つきましてはアリアナ様のみ私と同道頂き、
他の3名の方たちにはこの二人が案内しますので、別室でお待ちください。」
クロシアとシロエは不満そうであったが、3人はおとなしく二人の巫女について
奥のほうに歩いていった。先程まで真中にいた巫女と私は、その少し後から奥に向
かって歩き出したが、前に居るはずの5人の姿は消えてしまい、昨夜呼ばれた白い
部屋に着いていた。巫女が頭をさげて戻ろうとすると、彼女の姿も消えてしまう。
それと同時にセーラ様が現れた。夢の中の彼女と変わらない薄緑のドレス姿である。
「昨夜は、お恥ずかしい姿を見せてしまい申し訳ございません。急な願いにも関
わらず、早速お出で頂きありがとうございます。では、わたくし世界樹の枝をこ
こに出しますので、一本を選んで、聖杖を作成してみて下さい。」と言って、手
を振ると、100本近くの木の枝が目の前に山積みに出てきた。選べと言われても
どれも杖に向いた見事な枝ばかりである。カグラが使用して作った魔法の杖などは
足元にも及ばない逸品ぞろいである。私はセーラ様の方を見て、
「私には、この中から1本を選び出すことは出来ません。ここにある世界樹の枝
は、どれも非の打ちどころのない逸品揃いです。どれを取っても聖杖に相応しい
枝としか言いようがありませんが。」と言うと、セーラ様が微笑んで、
「やはり、見抜かれましたか、そうです。その100本の枝は、どれも聖杖に相
応しい私の自慢の枝です。一目でそれを見抜ける貴方様こそ、聖杖をつくる大魔
導師なのです。今後、世界樹の枝は大魔導師アリアナ以外に供給されることはあ
りません。そこで、アリアナ様にはその100本の中から、2本を取って頂き、
1本はミューシャ女王を、もう一本は筆頭長老ロカを思い描いて魔法の杖を作成
して頂きたいのですが、よろしいですか。」と聞かれ、頷く。カグラの杖を見て
いた私は、大体の内容が理解できており、そこにヨシアの知識と合さってもっと機
能を向上できると思ったので、1番上の1本を手に取りミューシャ女王を思い浮か
べ魔力増幅術式と、自動修復術式、硬化防御術式、に加え、使用者特定機能と自我
保有を書き込んだ。通常これだけ欲張りな機能を持たせた場合、オリハルコンで作
る以外、杖が持たない、いや、オリハルコンでも無理かと思われたが、世界樹の枝
は、余裕で受けとめた。私の手の杖が眩く光り、自我が発動する。
『はじめまして、世界樹さま、大魔導師アリアナさま、私は聖杖ナスカ、女王の
鉄槌です。以後よろしくお願い致します。』と声が頭の中に届いたので、鑑定し
てみる。
鑑定結果
聖杖ナスカ:大魔導師アリアナ作
原材料 :世界樹の枝
レベル :神聖杖
能力 :使用者の魔力を10倍に増幅 自動修復機能有り 硬化防御機能有り
使用者 :エデン王国女王のみ使用可
価格 :つけられません。
神聖杖のレベルってどうよと思ったが、本人が聖杖と名乗ってんだからいいかと
思い、セーラ様に手渡す。神様が豆鉄砲を食らったような顔ってこういう顔かな、
なんて失礼なことを思っていると、ようやく我に返ったセーラ様が、
「なに、この子自我を持っているの、しかも女王以外使えない神聖杖って何よ。
しかも使用者の魔力を10倍に増幅なんて、そんなの神の力よ。アリアナ様、も
ういい、筆頭長老用は作らなくていい。こんなもの2本も保有したら、世界中の
国からエデン王国が脅威の目で見られるわ。」というので、不思議に思い、
「セーラ様、普通いままでの聖杖は魔力増幅はどの位でしたか?」と聞くと
「5倍止まりよ、ワグル帝国の宝物庫に1本保管されているわ。」と教えてくれ
た。これはまたやってしまったと思った。しかし、ママのお願いも有るし、むm
「セーラ様、残りの99本の枝はどうしますか?」小声になってたが、聞こえた
様で、「それはアリアナ様が保管して下さい。今後もっと必要になった場合は、
アリアナ様は、転移魔法を使えますから、いつでも世界樹の元にくることが出来
るので、巫女にセーラに会いに来たと言ってもらえれば、直ぐにお通しします。」
「解りました。その聖杖ナスカは、世界樹セーラ様が、女王にお渡しいただけま
すか?」と言うと、「解りました。明日にでも、ここに呼んで渡します。」と言
ってくれた。私は、そそくさと、残りの世界樹の枝を異空間収納に収め、いとま
ごいをする。「世界樹祭に参加いただけるのならもう少しエデンにおられるので
すね。また、今度はお顔をみせていただくだけで結構ですので、遊びにいらして
ね。」と、約束させられた。別れの挨拶をすると、祠の入口に戻っていた。周り
を見回すと、クロシアとシロエ、オグリオ氏の3人がいた。




