第51話 世界樹の思惑
セフィールさんの店で、紅茶とケーキをいただき、魔短剣の特異性についての熱
いセフィールさんの意見を拝聴して、私たちが使えばアサシン特化になることは、
黙っていることにした。その代わり、また近い内に、遊びにくる約束をさせられて
おいとますることができた。結構、熱くなると、パパよりうざい人かもなんて失礼
な事を考えながら、宿泊施設に帰ることにした。
忍者3姉妹が帰ったセフィールの店では、応接間にコムルとセフィールが向かい
合って座り、話し合っていた。
「セフィールさん、ピエル王子には連絡が付かなかったのですか?」とコムルが
聞くと、「いえ、今日は、彼女たちのお父様と、女王の席に呼ばれていた様です
よ。多分、エデンがクミロワ大公国とカムール王国の仲を取り持ち、お互いを友
好国として人間界で孤立するカムール王国を、魔族界の最強国クミロワ大公国が
ワグル帝国を牽制することで援助する形に女王は持って行きたいと思います。」
「そうですよね、ヤスイヤ商会も、ワグル帝国だけは、出店したく有りませんも
の。もし、人間界がワグル帝国に征服されてしまったら、勇者は魔族界に生まれ
悪魔に支配された魔王が人間界で生まれるのですかね。ひょっとしたら、あのお
嬢様方が、勇者になられる可能性も大きいですね。」とコムルが呟く。それを聞
いたセフィールが、「それは無いでしょう。勇者に選ばれるものは、神の啓示が
有るまでは、ごく普通の能力の人間です。魔族でも獣人でもエルフでも皆そうで
した。しかし、彼女たちは、まだ啓示もない状況で、すでにSランクハンターの
実力を持っています。私の姉も今は引退していますが、異名持ちのSランクハン
ターでしたが、あそこまでの殺気を放つ力は無かったと確信しています。多分彼
女たちが今後生まれてくる勇者たちを鍛え育てる宿命ではないかと、今、ふと思
いました。」と、セフィールが言えば、
「それもおかしいですよ。そんなことしなくても彼女たちなら、魔王なんて速攻
で倒せますよ。もしかしたら、勇者とは別な指名をもっているのかもしれません
ね。たとえば、次の神様候補とかの。」コムルが鋭い想像を話す。
「それはそうと、この頂いた魔短剣どうしましょ。金貨10,000枚の短剣な
んて商人が持つものじゃありませんよ。」とコムルが言えば、
「じゃあ、私が売ってあげましょうか?私は、今まで加工に苦労していたドラゴ
ンの鱗や、どうしても思うように裁断できない、モンスターの皮を切るのに使い
ますがね。」と冷やかすように言う。
「売るなんてとんでもない。でも使うには勇気がいりますね。それよりも何故貴
方は、彼女たちの持つ獲物袋ではなく、魔短剣の方を先に見せてもらったのです
か? 武器嫌いの貴方にしてはおかしな選択に思えたのですが。」コムルが聞く
と、セフィールは微笑んで、
「アイテムボックスの獲物袋は、生地の情報と、魔術式が解れば私でも作れると
思ったんだけど、この魔短剣はドワーフの鍛冶名人でも到底作れそうにない不思
議な力を感じたのです。そして確信しました。アリアナ様には、神の鍛冶魔法錬
成能力があると。彼女が作る剣は、聖剣か魔剣の力を必ず保有するものになると
思います。そのことを知っておく必要があったのです。我々世界樹に仕えるハイ
エルフの務めには、出現した勇者たちに聖剣と聖杖を授ける務めが有ります。只、
現在マース上に聖剣を打てるような鍛冶名人は存在せず、世界樹の枝から作られ
る聖杖は、ここ数千年誰にも作れませんでした。大魔導師ヨシア様が、リッチと
してアンデッド化していなければ作れたかもしてませんが、アンデッドと化した
身体は、世界樹の枝が受け付けないので、聖杖の作成は不可能でした。今回、世
界樹が、3姉妹を招待する意思を示されたのは、アリアナ様に聖杖の作成を世界
樹の意思が求めるのではと考えた次第です。アリアナ様自身には、聖杖による魔
力増幅など必要ない程の絶大な魔力がありますから、神の一柱たる世界樹の要請
でもなければ聖杖など作るはずないです。まあ、彼女が世界樹と対面すれば、す
べて解るのですが、」と説明する。魔道具屋の店主が世界樹の意思や勇者の出現
等について、何故そこまで詳しいのか不思議に思ったコムルは、直接聞くことに
した。「何でセフィールさんはそのような国家機密になりそうな事に関係される
のですか?」と直球の質問をあてる。
「これな他言しないようにお願いしますが、現女王のミューシャと、元Sランク
ハンター風刃の魔女キャスル、そして私は3姉妹なのです。其々、世界樹の意思
が示す道を歩いてきました。その3人に世界樹が啓示を出したのです。それが、
クミロワ大公国ニューセルム辺境伯の3人姉妹に会えと。」
「もう、それ以上は仰らないでください。一介の商人が知ってよいことではあり
ません。」慌てて、コムルが話を止めたが、
「世界樹は既にあなたも巻き込んでいますよ。」とセフィールに笑われ、顔色を
青くするコルムであった。




