第47話 オーガって二足歩行の牛?
エデンの北門にはすぐに着いた。北門と言っても本当に門扉がある訳ではない。
世界樹の結界の境界で、結界の部分解除を出来る場所が、東西南北に衛兵詰め所と
一緒に設けられているのだ。私達がギルドカードを提示し、ハンターギルドの討伐
依頼に行くことを説明すると、すぐに通してくれた。3人とも既に小太刀を異空間
収納から出して、背中に結んでいる。風属性の飛翔魔法フライは、私が一番速いの
で、私の両側にクロシアとシロエを寄り添わせて腕に捕まってもらい、一気に目的
地まで飛んで行く。100キロを僅か30分足らずで飛行しサーチでオーガの存在
を確認する。居たが、ちょっと話と違う。結構な砦が出来ていた。確かに上位種の
1匹を入れてもオーガは50匹位しかいないが、100匹近いオークを従えている。
奴隷のようにオークを使役して砦を作ったようだ。流石に、Aランクハンター5人
とBランクハンター20人の討伐隊では、この砦に阻まれてオーガに辿り着くこと
も出来なかったと思われる。現状をクロシアとシロエに教えて砦の1キロ手前で着
地する。周辺に討伐隊の生き残りが居ないか念入りにサーチするが生きた人間の気
配はない。
「ねえ、クロシア、オーガって二足歩行の牛じゃなかったの?オークは正に二足
歩行の豚じゃん。」というと、「牛なの、じゃあ、バッファローより美味しいか
な?」「いや、聞いてるのそこじゃ無いから、シロエはどう思う?」ともう一人
の妹に聞くが、「オーガ50匹にオーク100匹のおまけも付いてきた。ラッキ
ーだ。」との答えである。「あんたたちに聞いた私が馬鹿だった。ええいもう、
正面突破しますか。」
馬鹿なことを言いながら歩いて行くと、砦が見えてきた。だが、ちょっと様子が
おかしい。クロシアとシロエを止めて、
「変よ、南側の私たちの正面には見張りのオーク4匹しかいないのに、反対側の
北側にオーガや、オークが集中しているわ。回り込んで見てみましょう。」
私たちは、気配遮断してそっと北側を確認しに行った。そして見てしまった。オ
ーガたちは、討伐隊の死体を、砦の柵の外側に積み上げ、山から魔物をおびき寄せ
るエサにしていたのだ。ちょうど今、1匹の地竜が、血の臭いにおびき寄せられ、
近づいてきたところであった。十数匹のオーガが槍を持って地竜に襲いかかってい
たが、地竜の堅い鱗に阻まれキズを与えられて居なかった。サビた剣をもって群が
るオークにもまるで虫けらを払う様に咬み殺していく。そして地竜がエサの討伐隊
の死体に辿り着いたその時、砦の柵の上から、一際巨大なオーガが、大剣を振りか
ぶり地竜目がけて飛び降りた。振り下ろされた大剣は、Bランクモンスターの地竜
の首を骨ごと半ば切り裂いた。首を半分断ち切られた状態で、地竜はゆっくり突っ
伏して動かなくなった。周りにいたオークとオーガが勝ち鬨をあげる。オーガと地
竜の戦いを、森の木の上から見ていた忍者3姉妹は、すでに戦闘態勢に入っていた
ので、クロシアとシロエに「行くよ!」と告げる。
気配遮断と、光属性の光学迷彩魔法で透明化した忍者3姉妹は、飛翔魔法フライ
を使いまずオーガに向かう。手当たり次第にオーガの首を刎ねていく。目の前で次
々に首が飛んでいくオーガたちは恐慌に陥る。目くらめっぽうに剣を振り回し、手
下のオークたちを切り裂いている。その時、大地に大剣をたたきつけ、上位種のオ
ーガが、咆吼をあげた。空気が震え、生き残っていたオーガもオークたちも一瞬に
動きを止めた。普通の相手ならこれで形勢を持ち直せたかもしれないが、小太刀を
振るい続ける私達には、動かない的の首を刎ねるチャンスでしかなかった。それに
既に私が、上位種のオーガの目の前に到達していた。気配遮断と透明化を解き、上
位種のオーガを睨み付け、殺気を浴びせる。討伐隊の惨状を見てしまったため、こ
いつだけは、死ぬ前に恐怖をたっぷり味合わせてやると決めていた。殺気を浴びて
大剣を振り上げたまま固まった右腕を断ち切る。苦痛と恐怖から左腕で殴りかかっ
て来るが、その腕も小太刀さくらの餌食となる。真っ赤な目を見張り、到底適わぬ
死神に出会ったことを理解し、身体を翻し逃げようとしたが、すでに両足も切断さ
れており、ただ、突っ伏す。すぐさま、頭部に回り込み、私は躊躇いなく首を刎ね
た。周りを見回すと、小太刀ぼたんと小太刀あやめを鞘に収めるクロシアとシロエ
以外、立っているものは居なかった。オーガは上位種を含め50匹すべてが、ここ
に屍を晒しており、オークも70匹近く横たわっている。残りのオークは一目散に
森に逃げ込んだようだ。3人で討伐隊の死体を確認する。ギルドカードを回収する
と、25枚あった。全滅していた。武器や防具ははぎ取られていたので、近くに大
きな穴を掘り、25人の遺体を入れて焼却する。その間に、オーガとオークの死体
を、異空間収納に納め、ついでに地竜も頂いておく。砦の中に入り、捜索すると、
討伐隊の武器が小屋にあったので回収し、めぼしいものを探すが何も無かった。3
人で砦を解体しファイアーウォールで包み込むように焼却してしまう。戦闘自体は
30分も係らなかったが、討伐隊の遺体処理や、砦の焼却に結構時間を取られ、結
局3時間を要していた。討伐依頼は達成したが、2週間以上前に自分達が来ていれ
ば、こんなに沢山のハンターが死ぬことは無かったと思うと、素直に喜べなかった。
気を取り直し、飛翔魔法フライで、エデンの結界前まで飛ぶ。すぐに衛兵にオー
ガ討伐が完了したことを、教え結界内に入れてもらう。走る気分になれないので、
歩いてハンターギルドを目指す。ハンターギルドに入っていくと、受付嬢のキャス
ルさんが駆け寄ってきたので、依頼完了の報告をする。キャスルさんの案内で、ギ
ルドマスターの部屋の入ると、キーマさんが出迎えてくれる。開口一番に、
「討伐隊は全滅していました。」と言って、全員のギルドカードをテーブルの上
に出す。予測はしていたのだろうが、言葉も出ないようだ。多分このエデンのギ
ルドのホープたちだったのだろう。それから、回収してきた彼等の武器もテーブ
ルのそばに出し、「はぎ取られた後だったので、誰の物かはわかりませんが」と
断ってキーマさんに受け取ってもらう。
「ありがとうございました。これは彼等の仲間に確認してもらって、引き取って
もらいます。それで、オーガの群れの状況は」やっと、一言礼を言い出せたキー
マさんが、討伐依頼の結果を尋ねてきたので、
「上位種を含む50匹のオーガは、全て首を刎ねて持って来ています。肉は欲し
いので、頭だけ買い取ってもらえますか?」と聞くと、キャスルさんが、
「オーガは角も牙も買い取り対象ですから、勿論買い取らせて頂きます。」と確
約してくれた。キーマさんも「では買い取り所で、オーガの頭すべて買い取らせ
て頂いて、この指名依頼書に達成印を押しますので、受付で討伐報酬と買い取り
代金を受け取って下さい。今回は急な依頼を受けて頂き本当にありがとうござい
ました。では、買い取り所へ」私たちは、一階の買い取り所に向かい、そこで、
獲物袋から全てのオーガの頭を並べた。担当者は、ドラム缶ほどの上位種の頭に
びっくりしていたが、すぐに査定も終わり、達成印を押された依頼書と査定表を
もって、キャスルさんの前に提出した。
「確かに、指定依頼達成ありがとうございます。これが依頼報酬の金貨1,00
0枚です。次に50匹分のオーガの頭部買い取り価格がこちらの金貨50枚です。
それから、討伐隊のギルドカード回収のお礼として金貨25枚が追加されていま
す。」私はすぐに異空間収納に報酬をしまう。「じゃあ、帰るね。」と言って、
宿泊施設を目指す。




