第42話 ハイエルフの都エデン
2日間の休暇を終え、私達は、エデンを目指し馬車の旅を再開した。白飛狼の
サエが一緒に歩いている馬車に向かってくる魔物は殆どいない。4~5匹のゴブ
リンが、サビた剣を振りかざして向かってきた1回だけであった。シロエが瞬殺
で首を刎ねてしまった。間道に捨てていくのも悪いので、穴を掘って焼却し、埋
め戻しておいた。2週間程で世界樹の結界に辿り着く。結界の中から、弓を持っ
たハイエルフの兵士が出てきたので、父イルシャがクミロワ大公の親書と、長老
ロカ氏からの世界樹祭への招待状を出し説明すると、態度を一変させ、結界に扉
を出現させ、馬車とサエを通してくれ、間道の横にある待合所のような所に案内
された。Aランクモンスターの白飛狼のサエも一緒に待合所の中に招かれる。サ
エも悪い気はしなかったようで、嬉しそうにしている。すぐにお茶のような物と
お菓子が出され、「しばらくお待ち下さい。すぐに案内の者が来ますので」と断
って結界の見張り所に戻っていった。30分くらい待っていると、急いでここに
駆けてくる蹄の音が聞こえてきた。待合所の前に止まり、すぐに2人の男が入っ
てくる。私達3姉妹には見覚えのある顔であった。その一人が前に進み出て、
「ようこそ、いらっしゃいませ、クミロワ大公国第5公子様、わたくしは、長
老ロカの息子オグリオ・ロカにございます。皆様方の案内役を仰せつかりまし
た。このようなところに、長々お待たせして申し訳ございません。先ずは、長
旅の疲れを癒やして頂きたく、宿泊設備にご案内致します。では、馬車のほう
にお願いします。」と、父を促す。
「態々の出迎え、ありがとうございます。」と父が答え、皆で馬車に戻る。
馬に跨がったオグリオ氏が、「では、先導させて頂きます。」と言って、馬車
の前に馬を回り込ませ、ゆっくりと先導する。パパはその後ろに馬車を付かせる
かたちに馬を御して付いて行く。馬車の窓からエデンの街並みを見ていくと、ま
るで森の木々が家の形に自ら変形したような、家並みが続く。呪樹海の森の木々
もかなりの巨木が存在したが、世界樹の結界内の木々は、一つ一つが、一万年以
上の樹齢を持つほどの巨木であり、その中にハイエルフ達を住まわせる空洞を作
っている。そのくせ、高さは20m位にしか伸ばしておらず、まるで、バオバブ
の木に葉を茂らしたような形であった。通りの両側にその様な木々が立ち並び、
ハイエルフたちが、忙しそうに立ち働いている。ヤスイヤ商会の荷馬車隊もすで
に到着している筈なので、どこかで出会うかもしれない。なんとも特異な光景に
クロシアやシロエも口を開け見惚れている。サエは関心が無い様で、気にした様
子もなく、馬車に付いてくる。しばらく進んでから左折した先に私たちの宿泊す
る設備が見えてきた。そこだけは、人間たちの街にある高級ホテルのように大理
石で造られた豪華な施設である。馬車を降りて、設備に案内される前に、サエに
滞在期間はどうするのか問うて見ると、一旦、群れの元に帰るという。なんでも
弟達も奴隷狩り殲滅作戦が一旦終了したので、キートから帰って来ているようで、
久々に姉弟で戦闘訓練を遣りたいと言う。また、キートへ帰る途中の峠で合流し
たいというので、オグリオ氏にお願いして、結界の外に出してやってくれるよう
に頼んだ。馬と一緒に厩舎で待たせるのは、魔物といえども仲間と決めた彼女に
申し訳ないからだ。今の彼女の力なら、内側からなら、楽々と結界を破って外に
でることは出来るが、世界樹に余分な負担をかけるだけなので、案内してもらう
ことにした。オグリオ氏が、ついて来ていた部下に指示し、サエが彼と一緒に来
た道を引き返すのを見送り、宿泊施設に案内される。
案内された部屋をみて、これが有名なビップルームかと驚いた。寝室が4つ有
り、居間は広々と空間を取り、豪奢なソファーが据え置かれちょっとした訓練が
できそうに思えるゆとり空間であった。シロエとクロシアがたまらず、ソファー
にダイブする。案内してくれたオグリオ氏のてまえ、非常に恥ずかしかったが、
ニコニコしているので、叱りつけるのは止めておく。
「オグリオさんて、ヤグル族討伐の隊長さんだったよね。あの時、よくママに
剣を向けなかったね。」話題を振って、二人の妹から、意識を外してもらう。
「いやあ、覚えていてくれましたか。あの時は本当に怖かったんですよ。最初
に、白銀のブリザードと名乗っていただけたので、無駄死にせずに済みました。
只、あんなに簡単に私の言葉を信じて頂けるとは、夢にも思っていませんでし
たがね。」と、くだけた調子で話してくれる。それを見ていたパパが、
「オグリオさん、ご存知だと思うんですけど、私は第五公子といえ、つい先日
まで、勘当されていた放蕩息子ですので、宮廷作法が大嫌いなんです。出来れ
ば、公の場以外ではアリアナに対するのと同様にくだけた会話をしていただき
たいのです。」と、会話に入ってきた。それに驚いたオグリオ氏が、
「いえ、しかし、Sランクハンターでもあられるイルシャ様にたいして、余り
に不遜ではと思いまして。解りました。できるだけ努力します。」と答えた。
「ママの殺気、怖かったものね。よく誰も気絶しなかったよね。でも、切れた
時のママはもっと怖いから怒らせちゃだめよ。で、今日はもうこの宿で休んで
いていいのかな?」とそれとなく今後の予定を催促すると、
「ああ、すいません。はい、今日と明日は、旅の疲れを癒していただくため日
程をあけています。その間ご自由にエデンの街を散策していただいても結構で
す。案内等が必要な場合は、宿のものに言っていただけたら、私か、もう一人
のシグネスという者が駆けつけますので、いつでも言いつけて下さい。明後日
の午前中に女王ミューシャ様と対面頂き、昼食をご一緒していただいて、午後
から友好国のカムール王国の使節を交え今後の通商等について歓談いただきま
す。その歓談の流れから次の日程を調整するつもりですが、如何ですか?」
「ああ、それで結構です。」とパパが答え、オグリオ氏が一礼して出て行った。
「ああ、やっと着いた!」わたしは思い切り、ソファーで寛ぐクロシアとシロ
エの上にダイブしてやった。「ふぎゃあ」潰れたようなうめき声で、私もすっ
きりできた。




