第4話 呪樹海の解呪
あれから、3日経ったが、ヨシアは現れない。が、母マリアがいろいろ話してくれるので、大体の状況が理解できてきた。俺の名前は、アリアナ・クミロワ。女神アリアから名付けたとのことである。魔族の中では、光と繁栄を司る黄金の女神アリアは、あまり人気は無いが、クミロワ大公国は魔族界の辺境に位置し、魔族以外にも、獣人族やエルフ、ダークエルフ、ドワーフ族、人族が混在し、辺境からの魔獣や、呪樹海からのアンデッドの進入を防ぐ防波堤の国家であり、種族差別を厳しく厳罰化することで、多種族国家として強大な軍事力を維持している。そんなクミロワ大公国なればこそ、人族の崇める聖アリア教団の教会があり、かつて呪樹海より進入してきたアンデッドに苦しんでいた父イルシャは教団から、聖水の大量供給を受け、撃退することができたとのことである。そのことが、魔族である父イルシャがはじめての娘の名を女神アリアから名付けた理由である。
ちょっとお昼寝してたみたいで、何気なく瞼をあけた。
『うお! 近い、近すぎる。』まだ、言葉は話せないが、心の中で、目の前のドアップな父イルシャに突っ込んでしまう。
「マリア! アリアナが目お開けたぞ! 綺麗なエメラルドの様な瞳だ。見にきてごらん」
「あら、本当。あなたもわたしもブルーなのに、隔世遺伝かしら?」
「そんなのどうでもいいよ。こんなに可愛いんだから。僕の天使だ。絶対、嫁にはやらんぞ!」
「なにを生まれたばかりの娘に言ってんのよ。それはそうと、アリアナが天使なら、私は貴方の何ですか?」
「もちろん、僕の女神様に決まってるよ」と母の肩に腕をまわす。
『ああ・・、もうどっかよそでいちゃついてよ』この3日間毎日続く二人の世界に、俺は、とことん辟易していた。
『こんなの相手してられない。』と思い、この俺の生家である山小屋周辺をサーチすることにした。
『ふむふむ、小屋の周りには、魔獣除けの結界が張ってあるのか。これは闇魔法の結界だな。ということは、父イルシャの結界か。まてよ、外側にも結界があるぞ。これは、アンデッド除けの光魔法だ。こんなことまで仲良く協力作業ってどんだけ仲がいいのよ。』と心の中で突っ込みながら、探索範囲を広げていく。南側の探索をしていると、20kmほどのところに大きな湖があった。母さんのいってたセムル湖だろう。『あれ、中間ぐらいに集落があるけど、ダークエルフがいるし、獣人もいる。獣人もいろんな種族がゴチャゴチャに働いている。普通、獣人は種族毎に集落をつくり、生活しているんじゃなかったのかな? それに この集落やけに大きいな。ああ、セムル湖東岸での呪樹海の進行により、住処を追われた難民達の街かな。結構な防壁も備えているし、』そんなことを考えながら、自宅の方へ探索を戻していると、武装した5人の獣人たちが、我が家を目指して大急ぎで走って来るのが見えた。只、殺意はなく、みんな顔が笑っているのでそのまま待っていることにした。
やっと、到着。
<<<ドンドンドン>>>
「イルシャ様、大変です。ハア・ハア・ハア」虎族の獣人が、息を切らし言葉に詰まる。
「ドラン殿、何事ですか。可愛いわたしのアリアナが驚き・・・?驚いてないな。まあ、落ち着いて話して下さい。」
「はい、呪樹海の偵察に行っていたのですが、どうも、呪樹海の呪いが解けたようなのです。樹海の木々の色も既に暗黒色から、瑞々しい新緑になっており、獣たちが樹海の中に戻っていってます。それを追って、狼の魔獣や、猪の魔獣たちも北の山脈から移動しているようなんです。」
「呪樹海の呪いって、アンデッド古代竜リッチ『ゴーラ』の呪いでしょ。あんなもの誰も解呪できないよ。誰が『ゴーラ』を倒したの。竜王様にもできなかったのに。」
「はい、大公都キートの仲間からの飛鳥便によりますと、3日前巨大な黄金の光が、呪樹海の方向から溢れ出し、大公都もその光に包まれたそうです。わずか1時間未満のことであった様ですが、その光が消えたとき、永年大公都の汚点と言われていた、ギニスの呪いの館が完全に浄化されていたとのことでした。その報せを今朝受けた避難民街ニューセムルの施政議会が、俺たちに調査依頼してきたので、見にいってきたんです。議会の方には兄貴が報告に行ったので、俺はイルシャ様に報告にきました。」
「あれぇ・・ 3日前はアリアナが生まれたので、俺もマリアも何も気付かなかったけど、君たちは、何か気付いたことあったかい?」
「いやあ~ 俺も街のもの達も、その時間帯の記憶が無いんです。不思議なことに。」
『あんた達 全員気絶してたでしょうが。』思わず心の中で突っ込む俺。
『しかし、まいったなあ、そんな大事に成ってたんだ。ヨシアもこの周辺だけじゃなくて、影響範囲すべての記憶操作してくれてもいいのに。』と、かってな文句をいっている俺は瞼を閉じて眠ったふりをすることにした。




