第39話 白飛狼娘サエ
「あなたが、お父様を一撃で気絶させた子供なの?」顔を見るなり、この質
問である。「で、貴方は? 何故ここに居るの?」質問には質問で答えてや
る。む、としながらも、「私はハクオウの娘サエよ。父さまの命令で、これ
からあなたの旅に同行して、独り立ちするように言われたの。まだ幼獣の三
男だけは群れに残すようだけど、成獣になった私と、長男、次男は、貴方達
の従魔になったつもりで戦いの経験を積めと言われたわ。その価値があるか
どうかは、おいおい見せてもらうわ。」なんか、従魔になったつもりなんて
いいながら、すごい上から目線なんですけど。
「それであなたは、私の実力が知りたいとでも言うのかしら?」と聞くと、
「まあ、不意打ちでお父様を倒しただけなら、態々、ついていく意味がない
と思うんだけど。」 「私は別について来てほしくは無いんだけど。」と言
ってやると、「そんな、じゃけんにしなくてもいいじゃないの。弟たちには
岩トカゲまで振る舞ったって聞いたのに、なんで私にはそんなに冷たいの?」
と涙ぐんだ。ええい、面倒な親子と関わってしまったと思ったが、
「解ったわよ、じゃあ、妹のクロシアが相手よ。頑張って。」と言い、クロ
シアに、『手加減するのよ』と思念を送る。最近闇魔法の腕をめっきり上げ
たクロシアは、私の次に転移魔法が堪能になり、短距離転移で、相手の隙を
突く攻撃が多くなった。峠の広場で向かい合ったクロシアとサエに私は手を
振り降ろし戦闘開始を告げた。
すぐさま、サエが、ハクオウ譲りの風魔法の空弾の嵐をクロシアに打ち付け
る。小太刀ぼたんの一振りですべての空弾が掻き消える。驚いたようだが、
サエはすぐさまウインドカッターをクロシアに向け放つが、既に転移したク
ロシアがサエの目の前に出現して、鼻の頭にキックを放った。紙一重で急所
への一撃を躱したサエであったが、その時すでに背後に回り込んだクロシア
の小太刀ぼたんの刃が、サエの首筋に当てられていた。
「ま、参りました。」何も出来ずにあしらわれたサエは、ショックを受けた
ようだ。
「やはり、恐ろしい子供たちじゃな。ますます、我も共に旅がしたくなった
ぞ。」突然ハクオウの声が響いた。「また、戻ってきたの?」私は冷たく問
いかける。「そう邪けんにするな、我の子は、このサエも、三匹の息子たち
も、白飛狼じゃ。ゆくゆくは、スカイウルフたちを率いねばならん。強くな
れる見込みがあれば、それを逃がすことは出来んのじゃよ。そなたらと共に
行動すれば、必ず強くなれると確信したのじゃ。迷惑はかけんぞ、食事は、
勝手に魔物を狩ってすませるし、ひと前では従魔の首輪でもして、恐怖心を
抱かせないようにする。どうじゃ、サエを連れて行ってくれぬか?」
溜息を吐き、パパを見ると首を縦に振るので、やむなく了承すると、
「これは重畳じゃ、なに、そなたらに何か、我らの力が必要になった時は、
サエに言ってくれ。サエや息子達と我は、どれだけ離れていても意識を繋げ
ることができるのじゃ。中央高地のスカイウルフ全軍をもって援軍に向かわ
せてもらおう。」「いやいや、私達戦争なんてしないから。」と言えば、
「ふふ、そなたらなら、魔族界だけでなく、人間界も簡単に征服できるんじ
ゃがな。その気になったら教えてくれ。」と物騒なことを言い出す。
ハクオウと話をすると、頭が痛くなりそうなので、落ち込んだサエの元に行
く。「あんたは、魔法に頼りすぎなの。強い翼と強靭な爪、鋭いキバをもっ
と有効に使いこなす体力アップさえすれば、クロシアのスピードにもついて
いけるのよ。あんたの弟たちも同じことがいえるわね。」と、アドバイスす
ると、さすがバトルジャンキーの娘、「ねえ、どうすれば早く体力アップで
きるの?」と食いついてきた。「旅の途中で、まず身体強化を教えるわ、そ
れからは、実戦訓練のみね。」というと、「解った。これからよろしくお願
いします。」と案外素直なので、「ところで、サエさん何歳ですか?」と聞
けば、「10才になります。白飛狼は8才で成獣になりますから、充分大人
ですよ。」と答える。同い年かよ、クロシアとシロエを呼びパパのところに
行って、皆自己紹介をする。今夜一晩この峠に野営し、明日朝一番にエデン
に向け出発することを告げ、今日はハクオウとサエには帰ってもらう。この
騒動の発生原因であるクロシアとシロエには、たっぷりお説教をパパにして
もらい、私は夕食の準備をする。
4人で夕食を済ませ、居間に寛ぎながら、
ママたちの情報を聞くと、タキア伯父様は獣人とダークエルフで編成した飛
竜隊20騎とともに呪樹海を超えた森林地帯に到着したようだ。ゴルカスが
ワグル帝国の奴隷商に売った集落の一つに基地を置いた様である。ママたち
もそこに到着してから、スピードの出るスカイウルフに乗って、他の19の
集落の状況を確認してきたらしい。まだ、どの集落も奴隷狩りには襲われて
いなかったが、ポリーさんが、奴隷狩りらしき集団が5組集落に近づいて来
ているのを確認したようだ。明日朝一にその集団を急襲するそうだ。良かっ
た。間に合ったようで安心する。これで、今夜はゆっくり休めそうだ。横の
ソファーには既に夢の中に遊ぶ二人の妹が居るが、気分が良いので拳骨は止
めておくことにする。




