第38話 また、やっちまった
私に小馬鹿にされた【白飛狼】は私を睨みつけてきた。
「小娘が、我に食い殺されたいか? 我らは、いままで人間には関わらずに
この地で、魔物を狩って生きてきたが、人間の方から我らに干渉してきた場
合は容赦するつもりはないぞ。我の息子たちが何故そこで、岩トカゲを食ろ
うているのじゃ。そなたが餌付けしたのじゃろうが。」
「あんた、馬鹿じゃない。さっきそのこ達はお客様って言ったでしょ。お客
様に食事を出したら、餌付けになるの? あんたそんな子に育てたんだ?」
「ぐうぅ、口ばかり達者な小娘が、少し痛い目に合わねば、目上の者に対す
る言葉使いが出来んようじゃな。」の言葉とともに、風魔法の空弾を撃ち込
んできた。すぐに障壁で無効化した私は、気配遮断と透明化を使い、姿を消
して【白飛狼】の顔の前に転移し、思い切り鼻の頭に蹴りを叩き込んだ。犬
の急所は鼻である。狼も一緒と考えた一発は、5m近い白飛狼の身体を、背
後の山肌に叩きつけた。起きてこない。近づくと失神していた。鼻が潰れ、
涙が出ている。やりすぎたかなと思い、気配遮断と透明化を解き、潰れた鼻
に治癒魔法をかける。二匹の白飛狼の息子たちも心配そうに寄ってくる。
「心配ないよ。お鼻はもう治ってるから。」鼻血を拭き取っていると、気が
付いた。「今のはそなたがやったのか? そなた何者じゃ、」と聞くので、
父はそこに居るSランクハンター首薙ぎ公子で母は、同じくSランクハンタ
ーの白銀のブリザードよと教えると、
「クミロワ大公国に200年ぶりにSランクハンターが3人、生まれたと聞
いて、いつか戦いたいと思っていたが、まさかその娘にあしらわれるとは、」
「ショックなのは解るけど、もう息子さん達を責めないでくれる?」と聞く
と、「当然じゃ。我でも敵わぬそなた達の力を知れば、文句などさらさら無
い。なんなら、これから従魔として連れて行って、鍛えてくれればうれしい
のだが、」「ちょっと待ってください。私達は、従魔なんかにするつもりは
ありません。貴方の息子さん達は妹達のお友達としてお食事に招待しただけ
です。」と、必至に訂正した。クロシアとシロエはその気満々のきらきらし
た瞳で私を見ていたが、従魔なんてとんでもないと思う。隷属契約という闇
魔法があるが、それは、他者を自分の思いのままに操る奴隷契約魔法の元で
あり、従魔もこの隷属契約魔法で拘束するものだ。何の罪もない、白飛狼の
息子たちが、人間に隷属する義務なんて絶対にない。もしどうしても白飛狼
の息子たちが私達と一緒に旅をするのなら、それは従魔ではなく、ハンター
仲間としてしか、私には考えられないことを、強く【白飛狼】に伝えた。
「それなら、我の娘と息子達をその仲間とやらにしてくれぬか? 遅くなっ
たが、我の名はハクオウ、白飛狼の王じゃ。我には、3匹の息子と1匹の娘
がおるのじゃが、皆が甘やかしすぎて、そのていたらくじゃ。そやつらが、
長男と次男じゃ、それとそやつらの姉がおる。3匹とも既に成獣となってお
るが、未だに、我に戦いを挑んでこん。これでは、群れを出て新しい群れを
作る事など出来ることが無い。親子で戦うのが嫌なら、外の世界で戦い方を
学ぶしかない。そなたらについて行けば面白い戦いに出会えそうだ。何なら
我が付いて行きたい位じゃ。のう、考えてくれぬか?」「ええぇぇ・・・」
私がどうしようか思い悩んでいると、
「白飛狼が真名まで告げての頼み、断る訳にはいかんぞアリアナ。」と父イ
ルシャが言う。
「でも、私達は今、ハイエルフの国エデンに向かっているだけよ。ママとポ
リーさんなら、ワグル帝国の奴隷商退治で戦いはいくらでもできるけど、ハ
イエルフの国エデンで戦いなんて絶対あってはいけないでしょう。」と言う
と、「ワグル帝国の奴隷商退治か、面白そうだな。」とハクオウが言い出す。
「だったら、マリアとポリーの所にこの2匹を連れて行くか? どうせタキ
ア兄者たちは飛竜で飛んでいくから、一緒にマリアとポリーを運んでくれた
ら助かるんだがな。」と、パパと二人で決めてしまいそうだ。
「パパ達はちょっと黙っていて。息子さん達がそんな戦いに行きたいのかど
うか、まず確認するべきよ。」と私がいうと、
「僕達、行きたいです。おやじと戦うのは意味がわからないけど、奴隷商な
んていう奴らは、殺しても後悔せずにすみます。」「良し、決まった。」ハ
クオウとパパが同時に言う。2匹が行きたいなんて言うとは夢にも思わなか
った私には、もう抵抗する力はなかった。パパの指示で2匹と一緒にキート
の屋敷に転移し、今にもセルム湖以東の森林地帯へ出発しようとしていたマ
マとポリーさんに今朝からのことを説明して、白飛狼の息子2匹を戦いの仲
間にしてやってほしいと頼み込んだ。ママとポリーさんは大公に借りる飛竜
より、もふもふで乗りやすく、スピードも早いスカイウルフの方が、気に入
って文句ひとつ無く一緒に飛び立って行った。転移で山小屋の前に戻ると、
ハクオウの娘サエと名乗るスカイウルフが、パパ達と一緒に待っていた。




