第37話 白飛狼登場
山小屋に帰ったのは夜明け前だった。早く眠りたかったが、夜中にキートと
行き来していたことが知られる訳に行かないので、朝食を作って、商隊を送り
出してしまおうということになった。クロシアとシロエはキートの屋敷のソフ
ァーで眠ってしまっていたので、そのまま、山小屋の居間のソファーに移した
が、まだ、爆睡中である。やむなく、パパと私で朝食を準備することにした。
土魔法でテーブルを6個作り周りに各6個のイスを配置していく。キートで
買い込んであるパンを中央に盛り、皿にオーク肉のベーコンを焼いたものと、
野菜サラダを盛って配膳する。岩トカゲの肉と野菜を煮込んでスープを作り、
各テーブルに配膳し、「野郎ども!早く起きてメシを食え!遅れたらメシ抜き
だ!」と、パパにたたき起こさせた。その声に32名の商隊メンバーは一人残
らず飛び起きてきて、テーブルに直行した。山小屋からも二匹の食い意地の張
った妹たちが飛び出してきたのは、見なかったことにした。護衛隊リーダーの
コルシュさんや、ヤスイヤ商会の4人の商人に昨夜と今朝の食事の礼を言われ
たが、そうそうに送り出した。このまま、同行したら、専属コックにされてし
まうと思われる。せめて1日くらいは離れて旅をしたかった。で、食事の後片
付けは、魔法でちゃっちゃと終わらせ、山小屋に戻りお昼まで眠ることにした。
クロシアとシロエは、ソファーでよくお休みできたようなので、勝手に狩り
に行くようだ。召喚獣のワイパーンが食べられなかったことが、まだ諦めきれ
ないようだ。でも、サーチしても50キロ周辺にワイパーンは存在しない。野
生動物も熊と、鹿ぐらいだし危険な魔物の姿はないので、二人は放っておいて
私は眠ることにした。
4時間ほど寝て目が覚めた。パパは既に起きており、昼食の用意をしてくれ
ていた。クロシアとシロエは、まだ帰って来ていない。サーチで確認して見る。
「へ!何やってんの。」思わず声が出た。二人はすぐに見つかったが、こち
らに向かって帰って来ている。ただし、何か魔物の上にのって駆けてきている。
馬より少し大きいが、馬ではない。イヌ科の狼のような感じがするので、パパ
に言うと、この辺には、スカイウルフと呼ばれる魔物がいるから、それかも知
れないとのことである。スカイウルフといえば、Bランクの魔物である。まあ、
クロシエとシロエにとっては、ちょうどいい遊び相手かもしれないが、あの二
人には、魔物をテイムする魔法も技術も無かった筈だが、と考えるうちに、問
題児たちが帰ってきた。
「アリアナ姉さん、あたしたちの配下が出来たよ。結構速く飛べるし、走る
のも、馬より早いよ。」と、乗ってきたスカイウルフを紹介する。鼻の頭を
真赤にして涙目になった二匹のスカイウルフをみて、思念で問いかける。
「ごめんね、妹たちがひどい目にあわせて。こんなことしてていいの?群れ
のリーダーに制裁されないの?」と聞くと、「ああ、やっと正常な人間と会
えたわ。こんな姿リーダーに見られたら、尻尾をかみ切られます。どうかこ
の野蛮な子供から私達を解放してください。」と、私を見つめ嘆願する。溜
息しか出ないわたしは、クロシアとシロエの頭に拳骨を落とす。
「クロシア、シロエ、スカイウルフといえば、山岳地帯の奥に群れで暮らし
て魔獣たちを狩って暮らしているのよ。知性のある山の守り人なの。彼らは
人に危害を加えたことはないのよ。それを貴方達は、暴力で押さえつけて、
支配しようとしたの。ワグル帝国の奴隷商と同じことをしているのよ。解っ
た?」と叱る。急に顔色を変えた二人はスカイウルフの前にいき、
「ごめんなさい、一緒に遊びたかったの、殴ってごめんなさい。」と二人が
一生懸命謝るので、二匹のスカイウルフも思念で私に「もういいですよ。」
と許してくれた。そのことを、問題児たちに言うと二匹のスカイウルフの首
に抱きつき、もふもふしながら、また遊んでねと強請ってる。私ももふもふ
したいのを我慢してるのに、「押さえて、押さえて」と心で呟き、
「パパ、スカイウルフのリーダーにお詫びに行ったほうがいいかな?」と聞
くと、「そうだな、スカイウルフのリーダーと言えば、Aランクモンスター
の【白飛狼】だな。バトルジャンキーだから余りお勧めできないな。」と答
えられ、2匹のスカイウルフも、「わざわざリーダーに会って頂く必要はあ
りません。私達が遊びほうけていたことにしますので、このまま帰らせて下
さい。」と懇願する。どうやらパパの言う通りバトルジャンキーらしい。
「そう、じゃあ、これでも食べてから帰ってね。」と、岩トカゲ一匹異空間
収納から出し、2匹に進める。今にも帰りたそうにしていたスカイウルフ達
は、顔を見合わせ、「それでは、お言葉に甘えて、頂きます。」と、岩トカ
ゲに齧り付いた。私達はテーブルに戻り、パパが用意してくれた昼食にする。
その時、私のサーチに凄いスピードで飛んでくる物体が飛び込んできた。す
ぐに、姿を現したそれは、岩トカゲに齧りつく二匹のスカイウルフを見て、
「余り帰りが遅いので探しにきてみれば、人間ごときにエサを貰い、従魔に
成り下がりおったとは、その首、今こそ父たる我が食い千切ってくれよう。
覚悟せい。」と二匹を裁断する。ありゃ、こいつら白飛狼の子供だったんだ
と、解ったのはいいが、このままでは不味いと思い、
「あんた、ひとんちの昼食に突然割り込んできて、家のお客様の首を食い千
切ってくれようなんて、穏やかじゃないねえ。私達に喧嘩売ってんの?」と
いってやった。




