第36話 ヤスイヤ商会③
岩トカゲ肉の惨劇が終わり、腹をさすりながら、商人達や護衛隊がテント等
に引き返したころ、私達は、山小屋に捕らえた魔法使いの男とともに居間で話
し合っていた。ヤスイヤ商会の隊商は、明日朝一番に狼人族の親子と一緒にエ
デン王国を目指し出発することに決まった。が、私達は、キートへこの魔法使
いを護送し、ゴルカスを生きたまま捕縛する必要がある。ゴルカスが情報を売
った獣人や、ダークエルフ達の集落の位置と奴隷商の数と名を知っておきたい。
反対に奴隷狩りを待ち伏せ、殲滅することも可能になるとママが言ってきた。
記憶を全て読み取られ、減魔力の手枷を嵌められた魔法使いは、すでに諦めた
ようで、一切抵抗しない。ヤスイヤ商会のカール会長と大公にも情報は伝えて
おり、今夜カールさんが、キートのわが屋敷に訪ねてくることになっているの
で、今夜中に魔法使いを連れて、全員転移で屋敷に戻ることにした。ママから
カールさんが屋敷に着いた連絡があったので、すぐ4人で魔法使いを伴い転移
する。居間に転移すると、ママとポリーさんにカールさんともう一人、タキア
伯父さんが待っていた。
「ただいま、ママ、ケプラーさんと家族見つかった?」先に気になっていた
殺されたケプラーさん一家のことを聞くと、
「ニューセルムへの街道から北に5キロの集落で見つかりました。元々ゴル
カスの出身地の集落で、村長たち集落の人たちは、盗賊たちのことは知らな
かった様です。集落の外れのゴルカスの屋敷に埋められていました。衛兵隊
が、そこに居たゴルカスの部下4人を拘束しています。」とカールさんが教
えてくれた。
「タキア伯父様、ご挨拶が後になってすみません。今日はこの件で来て下さ
ったのですか?」
「ああ、そうだ。アリアナ、後は私に任せておけ。その魔法使いが盗賊の一
味か?、変わった手枷を嵌めているな。」
「うん、減魔の手枷だよ、魔法使いの魔力を放出するマジックアイテムなの。
だから、詠唱しても魔法が使えないから、逃げられる心配はないよ。でも、
ママや、魔族の人、ハイエルフなんかには使えないよ。魔力が強すぎると壊
れちゃうの。」と、教えて、影縛りの口枷を魔法使いから解除する。途端に
小声で何か詠唱して、魔法を使おうとするが、何も起こらないことに、驚愕
している。
「だからさっきから言ってるでしょう。その手枷があなたの魔力を生きてい
くギリギリまで放出してるから、魔法なんて発動できないわよ。」と男に言
い聞かせる。魔法使いの男はようやく諦めたようで、肩を落として床に座り
込んだ。それを見ていたタキア伯父様が、
「この男が喋ろうが、口を紡ごうが、証拠に問題ない。すぐにゴルカスの屋
敷に突入して、奴を確保する。」と、言いながら衛兵に指示しに行こうとす
るが、
「ちょっと待って下さい、タキア第一公子様。盗賊団に魔法使いが居たなら
ゴルカスの屋敷にも居る可能性があります。私達もお供します。」とママが
立ち上がる。私とクロシアとシロエも立ち上がると、
「貴方たちは、ここでお留守番です。キートの仕事は私とポリーに任せなさ
い。」とママに言われてしまう。まあ、エデンへの旅の途中の私達が、キー
トで立ち回りするのは、ちょっと問題かもと思い居間のソファーに身を沈め
る。カールさんも私達と一緒に残って待つようだ。タキア伯父さんとママと
ポリーさんが、買い物にでも行くように、軽くでていった。
1時間で3人は帰ってきた。
「え!もう終わったの?」思わず聞いてしまった。
「うん、大した抵抗もなかったわ。ゴルカス自身、まだばれているとは思っ
て無かったみたいよ。魔術師もいなかったし、全員拘束するのに10分ぐら
いかかっただけよ。」
「そのわりに、すっきりした顔じゃないが、どうした?」とパパが聞くと、
「ゴルカスが完全黙秘なのよね。これじゃ奴隷狩り対策がとれないので、ど
うしようかと皆で考えてたの。」というママの返事に、
「そおんなのアリアナにゴルカスの記憶を洗いざらい読んで貰えば良いじゃ
ないか。あの魔法使いの男で問題なく読めたんだから、魔法も使えないゴル
カスならもっと簡単だろ」とパパが私の方を向いて言うので、
「できるよ。」と答える。
「あの魔法使い、魔法を使えなくされて、諦めて、すべてを喋ったのじゃな
いの? てっきりそう思ってたわ。じゃあ、アリアナ、あんた相手の記憶を
読み取ることが出来たの? だれに教わったの?」ママの矢継ぎ早の質問に
「大魔導師ヨシア様に記憶転写の魔術を教えてもらったよ。」嘘では無いが、
ヨシアの知識全てを転写されているからとは言えないので、こう答えた。
「ああ、ヨシア様に、私も一緒に教えて貰えば良かった。そんなことはどう
でもいいわ。アリアナ、すぐにお城の牢に行って、ゴルカスの記憶を全て読
み取ってきて頂戴。」「解った。タキア伯父様連れてって。」と第一公子様
にお願いする。私とタキア伯父様はすぐに白龍城に向かった。
城内の衛兵隊本部に着くと、タキア伯父様の案内で、ゴルカスの居る牢に直
行する。伯父様が、奴だと指し示す男を見て、私は驚いた。先入観からゴルカ
スは、魔族か、人間族と思い込んでいたため、実際のゴルカスが、熊人族の獣
人であったことに驚いたのだ。気を取り直して、すぐにゴルカスの額に手を当
て全ての記憶を自分に転写し、それをタキア伯父さんに転写した。初めて記憶
転写を受けた伯父さんは、目を丸くしていたが、それがゴルカスの記憶だと解
るとすぐにゴルカスに内容をぶちまけ、驚愕に真っ青になったゴルカスを見て
納得した。伯父様はすぐに大公や他の公子様達と、奴隷狩り対策の検討に入り
たいとの事だったので、私だけ、屋敷の居間に転移して戻る。帰るとすぐ、マ
マだけじゃ無く、全員の頭に、ゴルカスの記憶を転写して、伯父様が奴隷狩り
対策の検討に入ったことをつたえた。
「アリアナ、これ凄い魔術よね。でも額に手を当てなければ出来ないの?」
と、ママが聞いてきたので、本当は手を触れなくても出来るのだが、
「そうよ。生きていたら出来るよ。」と答えておく。
「ちょっと不便よね、でも凄い魔術ね。そんなことより、呪樹海の東にこん
なに沢山の獣人やエルフ、それにダークエルフが住んでいたんだね。ゴルカ
スの奴は、この情報を大公国に報告せず、ワグル帝国の奴隷商に売るなんて
本当に腐った奴だ。カール、ヤスイヤ商会で彼等のくらしが良くなるように
安く物資を提供して下さい。」「はい、マリア様、オーナーの仰るとおり対
応致しますので、ご安心下さい。」あれ、何か変なこと言ってると思ったが、
「まあ、それはヤスイヤ商会にまかせて、ゴルカスの売った20の集落の位
置は解ったから、タキア公子にだけ任せとく訳にはいかないから、ポリーと
私も大公に指名依頼させて、奴隷狩り殲滅作戦と行きますか。」
えらく楽しそうだ。「じゃあ、私達4人は?」と聞くと、「まだ居たの、あ
んた達は、ハイエルフに会いに行かなきゃなんないでしょ。帰りなさい。」
「うわ、自分達だけでやっちゃうつもりだ。いいよ、だったら、あの魔法使
いの持っていた世界樹の枝でできた杖、見せてあげない。」と言えば、
「え!世界樹の枝の杖? アリアナごめんママが悪かった。逐一連絡して報
告に努めますから、杖見せて。」ママが抱きついて離さないので、異空間収
納から取り出してママに渡す。このときこの杖はもう帰って来ないことが解
った。




