第31話 ママの悪巧み
大公達が帰り、5人だけになった居間で、ポリーさんがママを問い詰める。
私達3人も同じようにママの考えを聞こうと二人を見つめる。
「マリア、あんたどう言うつもりなの、イルシャ一人にこの子達を任せてエ
デンに行かせるなんて、いつものあんたじゃ考えられないよ。」
「ポリー、あなたハイエルフと普通のエルフはどこが違うか知っている?」
「なによ、急に話しを換えて、それが何か関係あるの?まあいい、ハイエル
フはエルフの上位種族でしょ。見た目は殆ど変わらないわ。でも、魔力は倍
以上有るし、寿命も3倍以上、1,000年以上ある種族でしょ。」
「貴方も勘違いしているのね。元々ハイエルフなんて種族は居ないのよ。皆
同じエルフ族なの。じゃあ何故、魔力が大きく、寿命が長いか?それは、世
界樹の加護なの。世界樹を守る努めを担うエルフ族が、世界樹の加護を受け
てハイエルフとなっているだけなの。世界樹とは、このマースの地上に実在
する神の一柱なのよ。私は嘗て黄金の女神アリア様の顕現に立ち会えたこと
があるの。呪樹海で、スケルトンの群れと遭遇していた時のことよ。今ほど
威力は無かったけど、骨だけの彼等には氷結魔法の効き目が弱かったの。数
の威力に押され半分諦めかけてたときに、女神アリア様が降臨されたの。周
りのアンデッド達はアリア様の聖光に全て浄化されてしまったわ。そして、
私の前に来られ、私がアリア様の加護をもった娘を産むさだめにあり、その
子を、世界の浄化と安定に導く強い娘に育てる努めが私には課せられている
ことを教えられたの。その一つとして、世界樹にその子を導くこともにおわ
されていたの。だから、これはアリア様が下さったまたとないチャンスだと
思ったの。その時にハイエルフのことも教えられたの。解って頂戴ね。」
「そんな話、初めて聞いたわ。いつのことよ?」
「イルシャと出会う3年程前のことよ。今回はいっしょにはいけないけど、
世界樹に出会えるようにするのも導くことになると思うの。でもさっき大公
様の話を聞いて世界樹という言葉を聞くまですっかり忘れてたんだけどね。」
「ママ、私が、女神アリア様の加護を受けてるってどんな加護なの?」
そんな話、女神アリアは言わなかったので、思わず尋ねる。
「さあ、それは私も解らないわ。それより貴方達3人だけに話があるの。私
の部屋に来てくれる。」ポリーさんと別れてママの部屋についていく。
クロシアと、シロエが私を畏敬の目で見てくる。ウダイ。ママの部屋に入る
とすぐ扉を閉め、ママが吹き出す。
「どう、ママ作家に向いてない?ポリーったら完全に信じちゃったじゃない。
くくく、上手くいったわ」
「えぇぇ、じゃあ嘘だったの。女神様うんぬんは作り話?」私だけでなく、
クロシアもシロエも目を見開いて驚いている。
「当たり前じゃない。神様が、簡単に人の前に降臨なんかする訳ないじゃな
い。あたしを誰だと思ってんの、スケルトンぐらい何体でも簡単に氷漬けに
しちゃったわよ。あの時既にAランクハンターだったのよ。私を舐めんじゃ
ないよ。」と胸を張る。大嘘ついて威張んなよと突っ込みたいが我慢して、
「じゃあ、あのハイエルフとエルフの話も嘘なの?」と聞くと、
「いいえ、あれは私の部族の長老に小さい時に聞いた話よ。正しいと思うわ。
で、ここからが本題なんだけど、貴方達3人はさあ、とっても可愛いでしょ。
そこで、エデン王国へいったらまずハイエルフの長老達をその可愛さで凋落
してちょうだい。あんたたちなら出来るから。それから長老達にお願いして
世界樹の枝をできるだけ貰って来てほしいの。最低人数分の6本はほしいな、
いえ、ママは2本ほしいから7本ね。お願い。」こいつが狙いか。3人は只、
呆れ果て、それでいて妙に納得できている自分達が侘しかった。この女の強
さが【天使の刃】をSランクハンターチームに押し上げた原動力であり、私
達3姉妹の破天荒な成長をためらいなく受け入れる大きさだと考えると、こ
の人の娘で良かったとも思う3人姉妹だった。